第3480話 武雄達の控室では。(スミスからの質問、戦場の匂いとは?)
貴族達の控室。
クラークに連れられて各貴族と挨拶を終えた武雄とエリカは、義弟のスミス、ゴドウィン伯爵、テンプル伯爵、ボールド男爵、バッセル男爵らと集まって歓談していた。
「今だから言えるが、最初にタケオが側室を娶ったと聞いた時は、キタミザト家の内紛でエルヴィス伯爵領が戦場になるかと思ったが、
後からアリスも納得尽くの輿入れと分かり、何事も無くて良かったとホッとした。」
ゴドウィンが笑いながら言う。
「あのアリスが了承したという事は、エリカ殿と信頼関係が築けたのでしょう。
あのアリスが嫉妬に狂うかと心配で、心配で。
いやぁ、揉め事にならなくて、本当に良かった良かった。」
テンプルがゴドウィンに同意する。
「はは、エリカ殿、アリスお姉様が酷い言われようなのは、僕の気のせいなんでしょうか?」
スミスが苦笑しながらエリカに聞く。
「いいえ、スミス殿、その認識で合っていますよ?
後でアリス殿に言いつけましょうね。」
「「すみませんでした!」」
エリカの言葉に、ゴドウィンとテンプルが頭を下げる。
「正室と側室ではありますが、うちの場合はアリスもエリカも互いに認めていますし。
手紙のやり取りも頻繁にしているので、大丈夫ですよ。」
武雄が言う。
「うーん・・・そうは言うが、あのアリスだし。」
「万が一は・・・怖いし。」
ゴドウィンとテンプルが、口を揃える。
「はぁ・・・エリカ、私からは言いませんが、アリスに報告しておいてください。」
「はい、わかりました。」
エリカが頷く。
「はは、アリスお姉様から両伯爵夫人に手紙が届きそうですね。」
スミスが言う。
「うぅっ、言わずにはおれなかったのだ。」
「同じく。」
ゴドウィンとテンプルが、揃って項垂れる。
「馬鹿な事を口走るからです。」
武雄が呆れながら言う。
「それにしてもタケオ様、戦争はどうだったんですか?
報告書は見せて貰ったんですが、自分の国で戦争が起きて、家族がその戦争に参加していたという実感が湧きませんでした。」
スミスが聞いてくる。
「まぁ、報告書に感情は書かないですからね。
それは、ゴドウィンさんも同じでしょう?」
武雄が、ゴドウィンに問う。
「あぁ、淡々と、起きた事実を書くだけだな。
スミス、何が知りたい?」
ゴドウィンが、スミスに問い返す。
「・・・僕が質問しているのに、質問で返されても・・・」
「もっと具体的に質問しろと言っているんだ。」
ゴドウィンが言う。
「えっと、そうですね・・・あ、前に読んだ本に『戦場には独特の臭いがする』とありました。
どういった感じか教えてください。」
あらためて、スミスが問いかける。
「匂い・・・」
「臭い・・・」
「・・・」
武雄達が考える。
「え・・・無いのですか?」
スミスがオロオロしながら聞く。
「あるには・・・あるが・・・」
「どの時点の事を指すのか・・・」
「人によって、感じ方が違うと思うのですけど・・・」
武雄達が言う。
「なら、順番に言って貰いましょう。」
エリカが、その場を仕切る。
「朝起きた時の朝露の匂いだな。」
「印象としては『乾いた空気と張りつめた緊張感が合わさった変な臭い』ですかね。」
「腐った水の臭いと兵士達の重々しい空気。」
3人が言う。
「えぇー・・・皆、違いすぎます。」
スミスが理解出来ずに困惑する。
「タケオ、それ、どこで嗅いだんだ?」
ゴドウィンが聞いてくる。
「2回目のオーガ戦の時、盾の後ろですが?」
「最前線の、最前列じゃないか。」
「そここそが、戦場でしょう。」
武雄が言う。
「うむ、間違いではないな。」
「それも戦場特有の臭いですよね。」
ゴドウィンとテンプルが頷く。
「私としては、ゴドウィンさんもテンプルさんも、指揮官としての感性だなと思いますけど?」
「最前線には立たないからな。」
「私も、実際の戦闘には出ませんからね。
タケオさんが、前に行きすぎなんですよ。」
ゴドウィン伯爵とテンプル伯爵が言う。
「ウチは所帯が小さいのでね。
指揮をするにも、最前線で剣を振り回しながら指揮しないといけないんですよ。
ま、成果は御覧頂いた通りでしたが。」
「大戦果だったな。
まさか、こっちにまで来るとは思わなかったが。」
「良く、あれほどのオーガを倒しましたよ。
こっちに加勢に来てくれて助かりましたけどね。」
ゴドウィン伯爵とテンプル伯爵が、呆れながら言う。
「さっさと終わらせたかっただけですよ。
・・・ん?」
武雄が言い終わってから首を傾げる。
「タケオ、どうした?」
ゴドウィンが聞いてくる。
「いえ、エリカ、スミス坊っちゃん。」
「「報告は来ています。」」
エリカとスミスも、既に精霊通信で報告を受けているようだ。
「うん?」
ゴドウィンが首を傾げる。
「ゴドウィンさん、チョット此方へお願いします。
エリカとスミス坊っちゃんは、ここに居て下さい。」
「「はい。」」
エリカとスミスが頷く。
「どうしたんだ?」
「お付の控室で、イザコザがあったようです。」
武雄が言う。
「!?ラウレッタとマヌエルを連れてきたんだが・・・それか!?」
ゴドウィンが立ち上がる。
「・・・何で、その二人を?
まだ若過ぎるし、経験不足でしょう?」
武雄が聞く。
「まぁ、最初、お付きは無難に騎士団長にしようかと思ったんだが・・・
・・・あー・・・『未熟な自分達が我儘を言うのが失礼なのは分かっています。でも、命を救ってくれた方の陞爵を祝いたいから連れて行って欲しい。』と2人に言われてな。
タケオは貴族としての最高位である侯爵に登り詰めた。これ以上の陞爵は無い訳で、今回が最初で最後の機会だったからな。
ジェシーと相談して、騎士団長にも了承を得て、2人をお付きとして同行させたんだ。」
ゴドウィンが言う。
「・・・はぁ・・・まったく・・・
ゴドウィンさん、私の同期のアルダーソン殿も連れていきましょう。」
一瞬、武雄が難しい顔をするが、直ぐにいつもの顔に戻して行動するのだった。
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