第3466話 一旦昼食休みです。(どう転んでもクロスボウの複製が拡散される事はありません。)
外交局と軍務局との会談を終えた武雄とジーナは、クロスボウの試射を見学に来ていたベイノンとブレアと共に、昼食を食べに第八兵舎の食堂に戻って来ていた。
ジーナは、皆から少し離れた席で軍務局に提出する書類を製作している。
「所長、軍務局はクロスボウを本格導入しますかね?」
ベイノンが聞いてくる。
「運用試験の結果次第ですね。
まぁ、『売れれば良いなぁ』と今は思っておきましょう。
買う必要がある方達に買って貰えば良いだけです。
不必要だと思う人達が買う必要はありません。」
武雄が言う。
「まぁ、年度毎の予算もありますからね。
それに、所長がどんな売り込みをしたかにもよりますが・・・たぶん本格導入になるんでしょうね。」
「所長が説明した戦術だけでなく、試験的に購入したクロスボウ10張を使った運用試験の結果と、旧来の防衛戦術とを比較して評価しないといけないですね。
導入の結論が出るのは、少し日数がかかりますかね?
所長的には、導入決定となった場合の納期をどの様にお考えですか?」
ベイノンとブレアが質問した。
「『今すぐ注文を!』という商品ではありませんし、『注文が来たら、すぐに発送します』という商品でもありません。
1年後とかでも大丈夫でしょう、ですが、それより遅くなると多くを納入は出来ないでしょう。
必要な製作期間を考慮して、適切な時期に注文してくれると良いんですがね。」
武雄が言う。
「それに、納入先は王城と王族、あとは限られた貴族のみ、複製は厳禁。
基本的には、ウィリプ連合国や民間に、存在や性能を知られないように導入して運用。
中々厳しいですね。」
「我々の小銃みたいな物ですね。
小銃は、二研の試験小隊のみの運用で、完全非売品ですし。
普段から表立って使わないですし。」
2人が言う。
「クロスボウの発展系が小銃ですからね。
より強力に、より遠くに、より早く撃つ。
本心で言えば、クロスボウも普及させたくありませんが、現状で我が国の西側貴族達の戦力も兵の練度も劣勢過ぎるので、防衛力強化の一助となればと。
クロスボウは限られた王侯貴族のみに供給しますから、情報の外部流出や、複製品の製造に厳しい罰則を科します。特に複製に関与した工房は区画ごと焼き払います。それをどう受け取るかは相手次第ですよ。」
武雄が言う。
「うーん・・・厳しいのでしょうかね?
要は『うち以外で買ったら罰則』と、所長が皆に言っているだけですよね?
『複製品、模倣品が出まわらないように注意しながら使って』と注意しているだけですよね。
それに、クロスボウの供給をキタミザト家が独占するという事は、端から高値で売り付けるつもりが無いですよね?」
ベイノンが聞いてくる。
「ま、数を売る事と定期的な修繕費、矢の供給で、細く長く儲けようとは思ってますから、
単価としては、そこまで利益を乗せていませんね。」
「うーん・・・それでも複製品を作る者が出るのでしょうか?」
ベイノンが考える。
「出るでしょうね。
輸入品より安く出来るとなれば、分解して複製するでしょう。
で、キタミザト侯爵は遠く国の反対側に居るので、複製してもバレないと思って、西側貴族はクロスボウの複製品を作るでしょうね。
まぁ・・・複製した事が私の耳に入ったら・・・でも、西側は遠いなぁ。
直接行くのは面倒なので、王城から確認して貰って、現物を押さえるのと販売店の特定してから、そこの貴族に問合せ。
白を切ったら区画ごと焼き払い、下手な言い訳なら降爵かな?」
「区画ごと焼き払うんですか?」
「ええ、多分ブリアーニ王国からドラゴン飛来して、1区画丸ごと焼き払うんじゃないですか?
ま、とばっちりを受けて、他の街区も焼いちゃうかもね。
まぁ、契約を守らない人が悪いのです。
契約を守ってさえいれば、そういう事にはならないのですから。
この件に関して、ブリアーニ王国との契約は強い拘束力があると思って貰わないとね。」
武雄が言う。
「・・・売れますかね、クロスボウ?」
「真っ当な考えと行動をすれば良いだけですよ。
よこしまな事を考えた人が痛い罰則を貰ってしまうのです。
それに、複製するにしてもアズパール王国での製造と修繕は私に権利があるのですから、最低でも私に断りを入れて欲しいですね。
回答は『許可する訳ないだろう』と一喝して終わるのですけど。」
「うーん・・・逆に、輸入が追いつかない程クロスボウの注文が大量に来たらどうしますか?」
「非常時なら、契約に従って国内で製造します。一研と王家専属魔法師に守秘義務盛り盛りで下請けして貰いますよ。
少なくとも、地方貴族に許可を出す事はありません。
なので、どこどこ産のクロスボウという話しが出ている時点で罰則に抵触しますし、私から購入した数を超えて所持しても罰則です。
私とアズパール王国の間だけの契約であれば、金銭で解決する可能性もありますが、これはブリアーニ王国との契約であり、外交案件なのです。
ブリアーニ王国と戦争に至った場合、貴方は責任を取れるのか?とか、戦争で被害を受けるエルヴィス伯爵領の住民に対しての補償は?とか、戦争をする経費や武具の調整、兵士に死傷者が出たら、その補償とエルヴィス家に欠員が出る事への補償・・・色々、大変な事になるでしょうね。」
武雄が言う。
「うーん・・・実際に戦争はあり得るのですか?」
「あり得るというか、カールラさんとダニエラさんに頼んで、そういった文言を次の慣例の戦争の宣戦布告文に盛り込んで貰えば良いだけですよね?
その文言が入っているという事実で、王城は、その貴族に対して強制査察を行う根拠になるでしょうね。」
武雄が言う。
「あー・・・なるほど。どうやっても『クロスボウの複製や密売は長続きしないようになっている』という事ですね。」
ベイノンが言うのだった。
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