第3464話 軍務局と外交局との会議。5(クロスボウを売り込もう。)
武雄は、ウィリプ連合国との戦争準備の進捗状況について、軍務局長から報告を受けていた。
「・・・うん、前回と大きく変わったところはありませんね。」
武雄が頷く。
「はい、今は費用の概算を取りまとめ、削れる所はないか確認をしています。」
軍務局長が言う。
「ふむ・・・そんな軍務局に売り込みです。」
武雄は、リュックからブリアーニから預かったクロスボウを取り出した。
「これは?」
軍務局長が問い、外交局長もクロスボウを凝視している。
「弦を踏んで弓を引き上げ、弦を固定し、矢を装填して放つという武器になります。
最大飛距離が約40m、熟練度に関係なく誰でも40m先に矢を放てる手軽さが売りです。」
「「ほぉ。」」
「距離、威力は魔法師の魔法には及びません。
また、弦を踏んで弓を引っ張るという放つまでの工程が存在する為、移動しながらの射撃が出来ません。
ですが、熟練兵でなくても一定の攻撃力が期待できるという手軽さがあります。
なので、相手方へ侵攻する戦闘には向きませんが、拠点防衛には使えそうです。
使い方としては、防壁に取り付こうとする敵の迎撃に最適だと考えます。」
「「ふむふむ。」」
「ただ、取り扱いの容易さ故に犯罪に使われそうなので、納入先は王都の騎士団や領地持ち貴族向け限定と考えています。
現時点では、民間への流通は許可しません。
この手の武器は国内に流通していないので、民間で認知される前に国で法制化して流通や所持を制限した上で、違反者には刑罰を科す必要があります。」
「「確かに。」」
「ちなみに、これはブリアーニ王国から購入品になります。
今の所、クロスボウを500個、矢が5000本の発注をしています。
注文はクロスボウは50個単位、矢は100本単位での購入となっています。
緊急時は私の方で製作と修繕を実施する契約になっていますが、通常は輸入での補給になります。
私の許可なく複製をした場合は、ブリアーニ王国との契約に違反する為、取り締まりの対象になります。
クロスボウのお値段はこちらです。」
武雄が、ブリアーニからの見積価格にキタミザト家の手間賃を乗せた王城向けの見積書を、軍務局長の前に置く。
「拝見します。」
軍務局長が、武雄が提示した見積書を見る。
「キタミザト殿、ブリアーニ王国からの購入ですか?
それも500個の。」
「ええ、そうですね。」
「例の空白地帯の件と絡んでいますか?」
「・・・・・・あっちは政治、こっちは商売です。
ですが、どちらもブリアーニ王国からです。」
武雄がにこやかに言う。
「ふむ・・・なるほど、クロスボウの輸出があったから・・・空白地帯の領有に固執せず譲歩したのか・・・」
外交局長が考えながら呟く。
「・・・キタミザト殿、概要はわかりましたし、その現物がこちらなんですね。
ウィリプ連合国との戦争において、関の防衛に有用な武器であると考えられますが・・・
クロスボウの試射は出来ますか?」
「ええ、この後、第1騎士団等の訓練場でお試しになりますか?
最大射程は40mですが、有効射程を20mくらいと考えて試して貰えば良いかと。」
「わかりました。
おい、訓練場を開けて、関係者以外の人払いをしてこい。」
軍務局長に指示をされると、次席が席を立って退出していく。
「キタミザト殿、ウィリプ連合国との戦争で構築する砦の防御において、貴方ならクロスボウをどう使うかお聞きしても良いでしょうか?」
軍務局長が聞いてくる。
「以前に聞かされたのは、国境から少し離れた町を中核となる防衛拠点として整備して持ちこたえる。
その町を中心にして両側に臨時の砦を設けて部隊を分散して配置、3拠点のうち1つが攻められたら、残りの2拠点から敵の背後を強襲して敵戦力を削っていくのが基本方針でしたね。」
「はい、防御戦の構想は、それを基本に動いています。」
軍務局長が頷く。
「今回、私が持ち込んだクロスボウは、最大射程が40m、有効射程なら20mという、魔法師からしたら接近戦に等しい短距離迎撃兵器になります。
ですが、非魔法師が使えるので、数に物を言わせて近寄らせない戦い方を主眼としています。
敵は盾を構えて砦に近寄るでしょうが、防壁を登るのに盾を構えたままでは両手が使えませんからね。
クロスボウ部隊を迎撃に組み込めば、魔法師を休ませながら防衛能力を維持出来るかと。
1つの砦で防衛をしながら、他の2拠点からの援護を待つという戦術は踏襲したいと考えます。
もちろん、フルプレートアーマー等で完全防備の者が防壁に取り付く事もあるでしょうが、その際は魔法師がキツイ一撃で落とせば良いでしょうね。」
「なるほど。」
軍務局長が頷く。
「となると・・・キタミザト殿、防壁に登るように仕向けるという事ですね?」
外交局長が聞いてくる。
「ええ、攻城兵器等でも門が破壊されないように強化が必要でしょう。
閂1つで門を閉じるのではなく、完璧な封鎖を・・・埋めてしまうぐらいの勢いが欲しいですね。」
「はは、キタミザト殿、他の2拠点への救援で門は開ける必要がありますよ?
埋めてしまうのは、無理な注文でしょう。
まぁ、その部分が弱点というのはわかりますが。」
「なら、攻城兵器に負けない門の閉じ方を考えてください。」
武雄が外交局長に言うのだった。
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