第3454話 専売局で打ち合わせ。3(塩の精製事業と爵位報酬について。)
「山の中に、塩味の湧き水がある?」
専売局長が首を傾げる。
「噂程度ですけどね。
今年中に、真相を確かめに行きたいですね。」
武雄が、時雨からもたらされた塩泉の件を少しボカシながら話している。
「前にも言いましたが、岩塩は産出量の6割を専売局に卸す事と、一般への売値が我々への卸価格より2割以上高くする事、二つの条件を守るなら産出した貴族領内でのみ販売を許可しています。
なので、その塩味の湧き水から塩が取れても6割は納入してください。
まぁ、はっきり言って、専売局への納入価格は安いですけどね。
そこを我慢して頂いたら、領内での販売許可を出します。」
専売局長が言う。
「『国の既得権益である塩で儲けるな』という事ですね?」
「まぁ、そうです。
生活必需品で且つ戦略物資である塩を、国が専売制度にしているから地方領が言う事を聞くという側面を否定出来ません。
それに、国家としても大事な収入源ですから。」
専売局長が言う。
「まぁ、塩とパイプの葉と紙は国家事業でしょうね。
実入りも良いし、需要を賄う為の大量生産が出来る力もあるのは国家だけですしね。」
武雄が言う。
「それがわかっていて、塩の生産事業に踏み込むんですか。
はっきり言って、国が作る塩に価格面では勝てないように規制しているのですが・・・採算は取れますか?」
専売局長が言う。
「製塩事業は採算度外視ですね。
海に面していないエルヴィス伯爵領では、塩の流通を止められたら干上がってしまいます。
なので、領内で塩が入手出来る事は、生存戦略に大きな意味を持ちます。
万が一の場合でも、手元に塩があれば治安も悪くなり難いでしょうからね。」
武雄が言う。
「言葉は悪いですが、国が地方を従わせるのに塩を使うように、領主は領民を塩で従わせるという事ですね。」
専売局長が言う。
「ええ、ですが、普段の統治に関しては専売局が売る塩で賄えます。
私は海側で何かがあり、エルヴィス伯爵領へ塩の供給が止まった場合の、緊急時の対処方法として領内での製塩事業を持っておきたいだけです。
ま、塩がとれるかどうかを確認しに行くことから始めないといけないのですけどね。
出来たら、土産物として少量の生産と販売をしようと思っています。」
「ええ、それが現実的ですね。
岩塩の採掘をしている領でも同じようにしていますから。」
専売局長が頷く。
「失礼します。
遅くなり申し訳ないです。」
財政局長と財政局次官が入って来て、財政局長が謝罪しながら席に座る。
「「お疲れ様です。」」
武雄と専売局長が座りながら言い、ジーナと専売局次官が立って頭を下げる。
「はぁ・・・疲れました。
キタミザト殿、報告書の内容は陛下から聞きましたが、やり過ぎです。
そして、ブリアーニ王国との交渉お疲れ様でした。」
財政局長か頭を下げる。
「怒られたり労われたり、キタミザト殿は忙しいですね。」
専売局長が武雄に言う。
「ですね。
一つの外交案件で、非難と賞賛を同時に受ける事は滅多にないですよね。」
武雄が笑いながら答える。
「はぁ、専売局長も先程までの会議に参加していれば、こういう感想しか出ないと思いますが?
何にせよ、キタミザト殿はやりすぎなんです。
外交局の1つの課ぐらいの仕事を熟しましたよ。
下手したら1つの部と同程度でしょう。」
「頑張りましたけど、給料増えないですかね?」
「今回は陞爵という形で爵位報酬が上乗せですよ。
あー・・・この面子なら、言っても大丈夫でしょう。
貴族報酬は金貨300枚、子爵になると爵位報酬で金貨100枚追加、伯爵になるとさらに金貨200枚追加、侯爵ならさらに金貨300枚追加です。
今後は増えるので我慢してください。
あ、今年の4月からの年次予算執行時に支払いですからね。」
財政局長が言う。
「ジーナ、覚えましたか?」
武雄がジーナを見る。
「4月以降の年度予算に組み込みます。
貴族報酬が金貨300枚と爵位加算で合計金貨600枚ですね。
・・・ご主人様の事です、事前に知っていたと思いますが・・・
お父さ・・・キタミザト家家令と話をしましたか?」
ジーナが聞いてくる。
「ええ、来年度の給与案はヴィクターに提出しています。
はぁ、私もやっと給料が貰えます。」
「「「「え?」」」」
武雄とジーナ以外が、疑問の言葉を発する。
「あれ?」
武雄が見まわす。
「キ、キタミザト殿?給料が貰えるとは?
まさか無給与なのですか?」
財政局長が聞いてくる。
「あっ・・・えーっと、無給ではありませんね。言い方に語弊がありました。
エルヴィス家の事業の足しにしてもらう為に、エルヴィス家に貸し付けたから、給料として入っても私の手元に残らず向こうに回ったんですよ。
ほら、ウスターソース関係でどうしてもすぐに必要だったので。
エルヴィス家の財政にあまり余裕がなくて、でも、ここが勝負だと。」
武雄が言う。
「・・・はぁ・・・陞爵して良かったです。
他の方々に言わないでくださいね。
まさか、貰った貴族報酬を根刮ぎ事業に投資しているとは・・・あー・・・そうでしたね、キタミザト殿が居るのは、エルヴィス家でしたものね。
私も、最初聞いた時にウスターソースの事業化が出来るのかと、資金的に少し心許なく感じておりまして、財政局に融資的な話が回ってくるかもと構えてはいましたが、話が入ってこなかったので上手くやりくりしたと思っていたのですが・・・
そうですか、キタミザト殿が融資を。」
財政局長が項垂れながら言う。
「えっと・・・財政局長?」
専売局長が声をかける。
「いや、これはキタミザト殿とエルヴィス殿が上手くやりくりした結果です。
うんうん・・・本当に上手く行って良かったです。」
財政局長が頷くのだった。
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