第3452話 専売局で打ち合わせ。1(まずは黄銅の意匠の登録制度について。)
王城内の小会議室。
武雄とジーナは、財政局長を待ちながら専売局長と次官を相手に雑談をしていた。
雑談の中身は、先ほどのボールドとの会談と、アスカムとの会談の両方だったりする。
「・・・ボールド殿の事もですが、その業者さんの考えもわかりますね。
それにしても、キタミザト殿はあくどい。」
専売局長が頷きながら言う。
「あれ?どこにあくどさが?」
「えっと、おおむね全部?」
「おかしいなぁ、至極真っ当に商売の話をしていたと思うのですが。」
「ええ、キタミザト殿はそうでしょうね。
ですが・・・まぁボールド殿の方は良いとして、業者さんの方が少々やり込められた感があるでしょうね。」
「アスカムさんの店に対しては取扱商品を増やしつつ配達業務も任せて売上向上を図り、私の方は煩雑な受発注事務を取次店に集約する事で生産拡大に集中出来る環境を協力工房に提案出来ます。
とりあえず、双方の仕事に繋がる話をしただけですよ。」
「・・・まぁ、そう言われるとそうですが。
ですが、ボールド殿と業者さん、双方から卸してくれと言われたらどうするのですか?」
「どうもしませんよ。
こっちからの卸し値は変わらないのです。
後は、いくら利益を乗せて売るかの話ですよ。
そこまで私の方から指示する必要はないでしょう。
互いに考えて客を増やしていくしかない。
それが健全な商売です。」
武雄が言う。
「はぁ・・・大丈夫なんですか?」
「さて、どうでしょう?取次店をやるか否かは、今考えて居るでしょう。
私の方は送り先が1か所か、2か所かの違いでしかないですからね。
今は、その程度の気持ちで良いんですよ。
なったらなった、ダメだったらダメだった。
その時考えます。」
「ふむ・・・お手伝い出来ればとは思いますが、専売局では、大量に買う物がないですからね。」
「別に無理して買う事はありません。
必要なら買ってください。
さて・・・財政局長が来ませんが、始めますか。」
「はぁ・・・やらなければならないですか。」
「ええ、このまま待っていても夕食と就寝が遅くなるだけです。
えーっと、まずは黄銅の意匠の登録制度について、ご提案します。」
「初っ端からぶっ飛んでる内容ですよね・・・」
専売局長は、既に疲れた顔をするのだった。
・・
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武雄は、ハワース商会等で話をした黄銅の意匠の話をしていた。
「ふむ・・・あくまで家具や小箱等への意匠という事ですか。
我々は、黄銅製品の意匠を5年間保護するものとし、1年に1度、登録されている意匠をまとめた型録となる冊子を作成して販売する。
それと、登録された意匠の利用を申請した業者が納めた料金から、管理のための最低限の事務手数料を差し引いて、意匠の登録者に使用料を支払う。
1個当たり銅貨数枚の使用料として取りすぎず、国としては意匠の出来栄えを競わせます。」
専売局長が考えながら言う。
「ええ、まぁ、あくまで国が黄銅の意匠を管理して頂き、利用申請に許可を与えて料金を徴収してくださいという事です。
そして、それを商店や工房が個々に国の専売局に申請するのではなく、基本は貴族領の経済局を通して意匠を登録し、利用料の支払いと受け取りをして貰う仕組みにするという事が重要です。」
武雄が言う。
「ふむ・・・領地貴族の部局を通すと。」
「はい、登録制度は黄銅の利用促進を各領地に促し、黄銅自体の需要を高めて生産量を増加させる事が1つ、黄銅の製造を管理する専売局が各地で使われる量を確認する事で計画的に生産量を調整出来る事が1つ、意匠を登録制にする事により各領の工房のやる気を出させる事が1つ、貴族領を通じて専売局に利用料を払う仕組みを作り、原料使用量と生産量が不釣り合いな場合、査察の対象とする事が1つとなります。」
武雄が言う。
「査察?」
「ええ、申告した数量以上に製品を作っている疑いがある場合にです。
貴族の部局が申請し、王城で管理している意匠に対し、不正を行ったのなら、数量を申告した貴族が何か不正をしたのかもしれないですからね。」
「ふむ・・・意匠の利用料に対し、数量の申告に虚偽が有ったり、そもそも申告をしなかった時の?」
「専売局から監査官を派遣して、抜き打ちで調査をしたり、他の部局や軍団が出張する際に調査の代行を依頼したり、専売局が使っている紙等の輸送をする人員に調査を委託すれば良いのでは?
そこまでしても隠し果せるなら、向こうが上手だったという事です。」
「ふむ・・・他の部局と連携が必要ですね。」
「恩も売れるでしょうね。
何かあれば、それを口実に・・・ね?」
「まったく、キタミザト殿は恐ろしい。」
「ま、私やエルヴィス伯爵が監査対象にならないように真面目に意匠の利用数申告を行っていきますし、並行して模倣品の取り締まりもしていきますよ。」
武雄が言う。
「キタミザト殿のお膝元で不正をする者はいないでしょう。
とはいえ・・・そうですよね、模倣品の取り締まりも領地貴族の役割になるのですね。
ふーん・・・なるほど。
王城の権威を示す事にもなるのか・・・」
専売局長が頷く。
「それは万が一ですよ、それよりも、先ずは登録制度を構築してください。
今後、もしかしたら他の製品でも意匠登録するかもしれない試験的な意味もあるのですから。」
「わかりました。
とはいえ・・・まずは担当官を任命して、手順を確認して、法整備ですかね。
うーん・・・キタミザト殿の事です、試作品というか見本品を持ってきていますよね?」
「はい!黄銅製品の意匠見本を数種類持ってきています。」
武雄がリュックから取り出すのだった。
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