第3450話 まぁ、出来る事でボールドを援護しよう。(やるやらないではなくやってね。)
「うーん・・・そう言われてしまえば、そうですね。」
武雄がアスカムの言葉に頷く。
「私達のような店を買い取るのなら、先程のキタミザト殿の話は実施出来るでしょうね。
要は、注文をボールド殿の店に集中させる事で、何かあれば敵対貴族への出荷を絞る事が出来るでしょう。
ですが、私の店は身売りしません。
なので、その話は成立しないでしょう。」
「ふむ・・・なら、ボールド殿から要請があったら出荷を絞るのは?」
「・・・私に、他の貴族と対立しろと?
すみませんが、王都で仕事をするのであれば、王都の貴族方との対立は店を潰す行為です。
特定の商品の販売を渋って、他の商品が売れなくなるような行為はしませんよ。」
「なるほど。
ならば・・・他の貴族が王立学院への販売を制限したり価格を釣り上げてきた際に、此方の店が王立学院へ納品する事は?」
「可能ですね。
ま、既存の納入業者から何か言われるでしょうけどね。」
「貴族の経営している商店からですか?」
「ええ、そういう状況になれば、誰かが文句を言ってくるでしょうね。
『王立学院には売るな』と。
ですが、まぁ、私は王城内の力関係まで詳しくはないですから、注文があって、適正な価格で買っていただけるのなら販売しますね。」
「ふむ・・・万が一の対策が出来るのであれば、それでも良いか。」
武雄が考えながら言う。
「やります?」
「ボールド殿に言って、アスカムさんの所からも見積もりを取るように言っておきます。
協力して貰う見返りは、そうですね・・・エルヴィス伯爵、ゴドウィン伯爵、テンプル伯爵、そしてウィリアム殿下に『王都で木材を買うならアスカムさんに声をかけて』と私が口利きをするというのはどうです?
今の情勢なら無下にはされませんから、一定の効果があるでしょう。
あとは、アスカムさんと向こうの材木商との話し合いになるので、そこは頑張ってください。」
「ふむ・・・悪くはないですね。
ま、見積もり依頼を頂ければ、対応いたします。」
アスカムが考えながら言う。
「ちなみに、エルヴィス伯爵邸は数年後に邸の改築が実施されます。」
「計画ではなく?」
「ええ、決定事項であり、具体的な予定です。
私の陞爵の件を知っているのなら、同時に発表されている次期エルヴィス家当主の婚約も知っているでしょう?
なので、新婚夫婦を迎えるのに改築するんです。
あ、ちなみに私達キタミザト家も一緒に住みます。」
「・・・貴族2家が同じ屋敷に住むなんて聞いたことないですが・・・うん?今現在は?」
「私もエルヴィス伯爵邸に住んでいますね。」
「あー、なら今の通りで、改築をするという事で・・・あ、エルヴィス伯爵領のハワース商会から良い木材を大量に押さえて欲しいという依頼があったのはそれですね?」
「ええ、ハワース商会には伝えていますから、既に動いてくれているようですね。」
「なるほど、伯爵邸の・・・実際にはキタミザト殿も居るから侯爵邸ですか。」
「私は、居候ですよ。」
「なんで、侯爵で居候なんですか?」
「お金なくて・・・」
「いやいやいやいや、普通にあるでしょう?」
「部下達を雇用したりとか、面白そうなことにお金を注ぎ込んでいたら、屋敷を新築するお金が貯まらないんですよ。」
「はぁ・・・」
アスカムが額に手を当ててため息をつく。
「それと、王都でキタミザト家協力工房の品々を取り扱う商店の取りまとめというか、取次販売をお願いするかもしれません。
その際、エルヴィス伯爵領の方で取りまとめをして貰う卸業者は決まっているので、王都側の卸業者はアスカムさんにお任せしますね。」
武雄が凄い事を言ってくる。
「は?
その話はボールド学院長に任せるのでは?」
「ええ、ですが、断られるかもしれないでしょう?
なので、『かもしれません』と言いました。」
「・・・もしかしてキタミザト殿は、どちらにしても王都に協力工房の取次販売をする卸業者を作る気でしたか?
というよりも、うちにその話を持ってくる事が狙いですか?」
「さて?・・・・・・ですが、協力工房は、ハワース商会やテイラーさんの魔法具商店等、既にアスカムさんと取引している人なんですよね。
知っている方からの依頼がバラバラだったのが、1か所からになるだけなら、アスカムさんも楽でしょう?」
武雄がにこやかに言う。
「・・・・・・」
アスカムが「注文は良いが品物の受け取りとそれを輸送するのが大変だろうから楽じゃない」と声を出さずに武雄に抗議の目を向ける。
「ふふ、それに・・・アスカムさんにその気があろうがなかろうが、私の方からこの店を指定しちゃえば、ここに依頼がくるのですからね。
よろしくお願いしますね?」
「・・・・・・・・・・・・はい。」
アスカムが大きく頷く。
見ようによっては項垂れたかのようにも見えるが、そうではないだろう。
「うん、ま、あくまでボールド殿が断ったらの話ですから。」
「そうならない事を期待します。」
「ふふ。」
武雄が笑う。
その様子をジーナは「あー、これはアスカム様の所が本命という事になりましたか」と思うのだった。
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