第3429話 アズパール王との会談8。(西側貴族は、すこぶる評価が低い。)
「タケオ、慣例の戦争でのオーガ戦は、意図的に戦闘結果を調整出来たのか?」
アズパール王が聞いてくる。
「いいえ、勝つしかない状況下で、兵士達は精一杯の努力と献身をしてくれました。
どこかに緩みがあったのなら、総崩れになっていてもおかしくない状況だったと思います。
あの戦果は、皆が必死で戦ったからです。
魔王国の地方貴族相手でも気を抜いて対応するような余裕は我々にはありません。」
武雄が言う。
「だろうな。
タケオの速報からも、ゴドウィンの戦闘報告からも、そのような余裕は見うけられなかった。
参戦した貴族達も兵士達も精一杯戦ったからこそ、最上の結果に結びついたのだろう。
今回の戦果は、あの戦場に居た全ての者が共に掴んだ勝利だ。
良くやった。」
「ありがとうございます。」
アズパール王の言葉に武雄が軽く礼をする。
「さて、そっちは良いとしてだ。
戦争で勝利を得る為には、練度の高い兵士と有能な指揮官が必要・・・と思ったからこそ経験を積ませる目的で、慣例の戦争をカトランダ帝国へ申し入れた。
カトランダ帝国は実施に向け動くと言って来たし、帝都護衛軍を派遣して来るそうだ。」
「帝都護衛軍?皇族の誰かが率いてくるのですか?」
「エリカに聞いたら、弟が来る可能性が高いそうだ。」
「そうですか。
慣例の戦争・・・ですよね?」
「まぁ、我が国は敢えて弱腰を装い、多少の被害は致し方ない、それよりも兵士に戦争を経験させる事を重視していると言っておいた。
向こうにとっては、皇族が初陣を飾り箔を付けるには、もってこいの好条件に感じた筈だ。
次代の皇帝に、戦場と勝利を経験させたいのだろう。」
アズパール王が頷く。
「我が国のクリフ殿下に戦場経験は?」
「直接の戦闘経験は無い・・・かもな。
だが、過去の慣例の戦争には出征し、参陣している。
今回の戦争では、ニールに総指揮を取らせ、参謀にアルダーソンを付ける。
そして、ウィリプ連合国側、カトランダ帝国側、全ての西側貴族と配下の騎士団を召集する。
表立って言えんが、我の意図するところは、あくまでウィリプ連合国戦への実地訓練だからな。」
「とはいえ・・・死傷者数が気になるところですね。」
「ニールとアルダーソンとバビントンの所には『エルヴィスの所で考案した回復戦術を確実に運用出来るようにせよ』と内々に指示を出す。
今回、魔王国側の慣例の戦争でも十二分に威力を発揮したようだしな。
そうすれば、ある程度は被害を軽減出来るだろう。」
アズパール王が言う。
「・・・ふむ・・・でも、被害は出るでしょうね。」
「被害が少なかったのもあるが、魔王国側の戦争でタケオが目立つ戦果を上げたからなぁ。
慣例の戦争であっても、戦果を上げれば陞爵の目が出てくるのは確かだからな。」
「私の場合、出したくて出した結果ではないんですけどね。」
「それは、我々もそう思っておるよ。
結果として戦果が大きかっただけで、当の本人達は必死に戦っただけだとな。
だが、西側貴族達は、そう思わないかもしれない。
陞爵という恩賞は魅力的だからな、少々の無理ならするかもな。」
「・・・『無能な働き者』というやつですか。」
「言いえて妙だが・・・そうだな。
『突撃!』と叫べば戦果が上がると考えているなら、そいつは痛い目にあうだろうな。」
「流石に何か考えるのでは?」
「そう・・・であれば良いのだが、望み薄だな。」
「陛下、どれだけ西側貴族の評価が低いんですか?」
武雄が呆れながら言う。
「侮っては居ないぞ?
過去の報告と、去年と今回の面談で下された総合評価による冷静な分析だ。」
アズパール王が言う。
「そんなに悪いのですか?」
「そう言いたいだろう?我もそう言いたい。」
アズパール王が苦笑しながら言う。
「慣例の戦争という、本気ではない戦争での犠牲は最小にしたいと、私は思うんですけどね。」
武雄が言う。
「そうだな・・・だが、指揮官の欲で戦場での行動が変わるものだ。
東側貴族の3伯爵には、その辺の出世欲はないようだがな?」
「倍の10000名以上の兵士とオーガ90体の敵軍を目の前にして、そんな欲を掻く余裕なんかないでしょう。
先ず、生き残る事が最重要なんですから。
だからこそ、私の作戦に思う所はあっても伯爵達は従ったのですから。」
武雄が言う。
「失敗したら、責任はタケオにあるという事か?」
「普通の戦争なら、負ければ即座にゴドウィン伯爵領の半分は蹂躙されていたのでは?
私は、事前に魔王国とは大まかに打ち合わせをしていたので、敵の攻勢を防いで守りきれば本格侵攻はないと分かっていましたから、耐え凌ぐ作戦を立案したに過ぎません。」
武雄が言う。
「ふむ・・・大まかにとは言え、事前の打ち合わせは大事だな。」
「今の魔王国との良好な外交関係は、奴隷にされていた元領主のヴィクターや娘であるジーナをキタミザト家が保護して雇用していた事からの好転が大きいでしょう。
今後も維持していかないといけません。」
「まぁ、そうだな。
魔王国との外交はタケオとエルヴィスの両名に対応して貰い、不測の事態が起きない様にしてくれれば良い。」
武雄の言葉にアズパール王が頷く。
「そうですね・・・で、ジーナ、何か言いたそうな顔をしていますが?」
「いえ、以前、ご主人様から慣例の戦争前に魔王国のヴァレーリ陛下が遊びに来たと聞かされました。
そして、慣例の戦争でオーガ部隊を撃破した際にも、前線に顔を出したヴァレーリ陛下とお話をされたとも。
・・・魔王国でのご主人様の扱いって、どうなっているのですか?
毎回、最高戦力のヴァレーリ陛下が対応に出て来るというのは、こう・・・ご主人様、恐れられていませんか?」
ジーナが聞いてくる。
「はは、こっちはただの子爵で、部下10名の小隊ですよ?
あれは、停戦に向けた交渉の流れの確認に来たんですよ。
魔王国から停戦交渉を持ちかけるから、アズパール王国も応じてくれってね。
エルヴィスさんなら、他の伯爵達との話を進めるのに活躍しますからね。」
武雄がにこやかに言うのだった。
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