第3426話 アズパール王との会談5。(空白地帯の事を説明しよう。)
武雄が空白地帯の話をしていた。
「エルヴィス領北東の空白地帯の併合についてブリアーニ王国より申し入れがありました。奴隷として拉致された自国民を保護する為、空白地帯を併合して越境の監視を強化したいそうです。
そのままでは此方にメリットが無いので交渉し、空白地帯を我が国が領有してブリアーニ王国に当該エリアにある鉱山の採掘権を譲渡する事を提案し、ブリアーニ王国と魔王国の両国で検討して頂いた結果、事前合意に至りました。以上が、経緯と概要になります。」
武雄が説明し終える。
「・・・」
アズパール王は腕を組み天井を見上げ。
「・・・」
ジーナは疲れた顔をさせながら少しぐったりしている。
「突発的な提案に対し、少しやり返せたと思います。
先ず今まで収入が無かった土地から採掘量の1割分の収入が確保されました。それと、戦争が起きたらドワーフ王国の輸出鋼材をカトランダ帝国と取り合って価格高騰と需給の逼迫を招く懸念がありましたが、1割増価格なら売って貰える約束をブリアーニ王国から取り付けました。」
武雄が言う。
「ふむ・・・・・・タケオ、奴隷の輸送ルートを監視する為なんだよな?」
アズパール王が聞く。
「ええ、土地の所有権はエルヴィス伯爵領に属するのでブリアーニ王国とドワーフ王国に面した関を設けます。街道は坑道を抜ける道だけに限定させるので、採掘権を持つブリアーニ王国の関も必ず通らないといけません。
簡単に言うと私とエルヴィスさんの提案は街道上に4か所の関を設け、奴隷商の通行を監視するという物です。
そして、その意味を理解したブリアーニ王国と魔王国が了承した形です。」
「・・・・・・一つ質問だ。
タケオ、普通、街道というのは山肌にある物だ。
坑道を介しての街道という物はない。
なのに、タケオは坑道しか通り道がないと言う。
これはどういう事なのだ?」
アズパール王が聞いてくる。
「ビエラ、リツ、リーザも参加させますが、ドラゴンロードに依頼し、多数のドラゴンを投入して山肌の街道を破壊します。
先ず、街道より山側50m付近の指定した地点へレッドドラゴンのブレスを斉射して山肌の木々を焼き払います。続いて、ホワイトドラゴン及びブルードラゴンのブレスで一昼夜に渡る断続的な攻撃を実施して斜面を水浸しにします。
それにより地盤内の水分量を増やし、ブレスによる振動を断続的に与える事により街道への地すべり・・・人為的な山崩れを誘発させたいです。
山崩れによって物理的に街道を使用不能にするだけでなく、被害甚大につき復旧が不可能だという状況を意図的に作り出します。
また、毎年雪が降る前にホワイトドラゴンとブルードラゴンでブレスを多量に実施し、厳冬期に雪崩を誘発させたいと考えています。
そうする事で、ドワーフ王国が街道を復旧させようとする意思を挫く事が出来ると考えます。
結果的に、安全かつ馬車の通れる街道は、坑道内を抜けるルートのみとなります。
私達の目的は、全ての商隊には坑道を通らせ、関を何回も通るようにしたいのですから、監視の目が行き届かない街道を潰すのは当然の処置です。」
「「・・・」」
アズパール王がいつの間にか机に肘をつき、頭を抱えている。
ジーナも目を瞑り、難しい顔をさせている。
「初回に起こす山崩れは、こちらからの依頼ですのでドラゴン派遣費用は全額こちらの負担ですが、厳冬期の雪崩に関してはドラゴン達の攻撃訓練を兼ねて実施し、こちらの費用負担を抑えるように努めます。
私の方は費用が少々持ち出しになりますが、エルヴィス家には所有権による鉱山採掘収入の1割と、ドラゴン達の攻撃訓練場の利用料が発生します。
アズパール王国としては、鋼材の輸入先の確保。
ブリアーニ王国としては、採掘権の保有によって鉱山収入という新たな歳入を確保。
魔王国にも、鉱山の技術者や鉱夫の斡旋と、鋼材精製などの関連事業による収益が発生します。 当然、私も輸入業者として関与します。
なので、関係者皆にとって利益があるプランとして検討し、合意しています。まぁ、違法奴隷で儲けてきた人達を除いてですが。」
「「・・・」」
アズパール王とジーナは何も言わない。
「ブリアーニ王国は2月1日にドワーフ王国へ通達を届けるので、アズパール王国の通達も同じ日に届く様にして欲しいと依頼されました。鉱山を実効支配じゃなかった、不法占拠している方達には速やかに退去して貰わねばなりませんから。」
「ふむ・・・そうか。
タケオとエルヴィスにしたら、何の権益も得られずに新しい枠組みが出来上がる所だったが、所有権を認めて貰うよう捻じ込んだという事か。
タケオの理屈が通って何よりだ。」
「まぁ、そうなります。
双方が関を作り監視体制を強化する事で、奴隷密輸の抜け道を塞ぐという所が高評価だと思います。」
武雄が頷く。
「これ以上の結果は・・・望むべくもないな。
局長達や貴族会議が何か言ってきても『この案以上に費用対効果が高く、尚且つ外交上のリスクを低減する提案があれば述べよ』と言えば良いだけだな。
たぶん、ないだろう。」
アズパール王が頷く。
武雄も「まぁ、こちらとしてもそこが殺し文句なんですけどね」と思っていたりする。
「・・・陛下、ですが、既にブリアーニ王国と伯爵様間で口約束がされております。
なので、もし陛下がここで反対したら、伯爵様の面目を潰し、ブリアーニ王国とも、折角、ご主人様達が作った友好的な雰囲気を壊してしまう可能性があります。」
「うむ・・・まぁ、そうだな。
タケオの説明では我が国としてはエルヴィスの所のみで完結するようだな。
まぁ、街道が潰れたらドワーフ王国から復旧要請ぐらいは来るだろうが、何せ相手はドラゴンだからな。
それは魔王国に申し入れてくださいと言って逃げよう。」
アズパール王が頷く。
「魔王国からしたら、土地の所有権はアズパール王国なのだから『そっちに言え』で終わらせるでしょうね。」
武雄が言う。
「あー・・・ドワーフ王国も災難だな、我が国と魔王国、ブリアーニ王国とで『うちに裁可権はない』と言って行き来させるんだから。
それでうっかり土地に入ってきたら、エルヴィスから越境したとして正式抗議と賠償か。
・・・ま、こちらは外交局経由でエルヴィスの抗議を正式な文書で通達するぐらいの仕事だろうな。」
アズパール王が言うのだった。
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