第3420話 寄宿舎でスミスにヴィートを引き継がせよう。(武雄の陞爵の意味は?)
夕方の寄宿舎の食堂。
スミス達とエイミー達が戻って来て、ジーナからヴィートを紹介されていた。
「魔人種・・・初めて見たわ。
人間と変わりない外見なのね。」
グレースが言う。
「ですが、魔人種の平均寿命は約500歳。
人間種として年若い子供に見えても、ヴィートは58歳です。
仕事には持ち前の素質も影響しますが、単純な年齢よりも実務経験と訓練によって培い身に付けた素養と、常にそれを発揮する能力がより重要です。
皆さま、ご指導をお願いいたします。」
ジーナが言う。
「こ、この見た目で58歳!?」
グレースが驚く。
「長命なのね。
まぁ、見た目と実年齢のギャップは種族的なものだし、ここで論じても意味が無いわね。
寿命の長短は種族特性だから気にしない事にして、要は人生をどう過ごすかよ。
ヴィート、事前に私の事は聞いているかしら?」
エイミーが聞く。
「はい、エイミー殿下。
伯爵様よりスミス様の婚約者だと伺っております。
なので、エイミー殿下の言葉も大事にするようにと言い付けられております。」
「うん、まぁ、ヴィートはスミスの側付きだから基本はスミスの指示を優先してね。
次に私やアンの言葉を聞けば良いからね。
ドネリー、側付きの先輩として、立ち回りや仕事のサポートをしてあげて。」
「はい、わかりました。
ヴィート様、側付きの仕事で何かあれば私が相談に乗ります。」
ドネリーが言う。
「はい!お願いします!」
ヴィートが頭を下げる。
「・・・あれですね。
これだけ見た目が若いと庇護欲をそそられます。」
ドネリーが言う。
「甘やかし過ぎないようにね。
タケオさんの部下なんだから、変な事を教えたらタケオさんやアリス様に報告が行くわよ?」
「それは怖いですね。
私の今後の仕事に影響が出てしまいます。」
エイミーの言葉にドネリーが苦笑しながら頷く。
「ヴィートは寄宿舎や学舎自体が初めてになりますので、トイレの配置や食堂の使い方といった初歩的な事から王立学院での立ち振るまい等々、わからない事だらけになります。
失敗もするでしょう。
ご指導と共に、温かく見守って頂けたらと思います。」
ジーナが言う。
「わかったわ。
皆も相談に乗る事、ヴィートを孤立させないようにね。」
グレースが皆に言うと皆が頷く。
「スミス様、大まかな引き継ぎは、口頭で済ませておりますので、後はお二人で詳細をお詰めください。」
「わかりました。
ヴィートとは、この後、打ち合わせします。
ジーナは王城に戻るのかい?」
「はい、第八兵舎に戻り、仮眠をとります。」
スミスの問いにジーナが答える。
「うん?仮眠?
何かあるの?」
エイミーが聞く。
「はい、今夜10時よりご主人様と陛下の会談予定が組まれております。
私は側付きとして同席、給仕を務めます。」
ジーナが言う。
「・・・待って。
夜10時から打ち合わせなの?
タケオさん、今日着いたばかりでしょう?」
「はい、会議の前に陛下の御時間を頂きたいと、ご主人様が事前に要望したらその時間になりました。」
「タケオさんからか・・・魔王国関連という事ね。」
「かも知れませんが、私も内容は聞かされておりませんので、わかりかねます。
ですが、魔王国との慣例の戦争や魔王国への出張等の報告もされると思います。」
「慣例の戦争ではタケオさんの功績が凄いからなぁ。
戦果が個人としても組織としても1番よね。
そして戦闘計画を立案しただけでなく完勝と言って良い勝利をもたらし、結果として戦闘後すぐに停戦に持ち込めた。
慣例の戦争期間での死者は全体で1名。
もちろん、他の3伯爵方の働きがあったにしても、タケオさんの作戦立案能力が高いと証明したからね。
今回の戦果は、研究所の成果として上げられ、今までの功績と合わせて侯爵に陞爵したからね。
あの戦果がなければ、伯爵だったかもしれないわ。」
エイミーが考えながら言う。
「エイミーお姉様、魔王国との慣例の戦争の報告書は見ましたが・・・確かに死者は最小でしたし、オーガを討ち取った作戦は見事でしたが、2つ上の侯爵に陞爵される程の功績なんですか?」
グレースが聞いて来る。
「・・・グレースはそう思うの?」
エイミーが首を傾げながら聞き返す。
「強くは思いませんが、報告書を見て、そこまでとは思わなかったのは確かです。
まぁ、今までの功績もあったからなのかなぁと思いましたが。」
「報告書は淡々と結果が書いてあるだけだしね。
そう思ってもしかたないけど・・・イーデン、カイル、2人はどう思う?」
「オーガの撃破数と皆が耐え忍んだ事は凄いと思います!」
「キタミザト殿の二研の動きは凄いと思いました!」
イーデンとカイルが言う。
「ふむ・・・1年生だし、まぁ、そんなものか。」
エイミーが頷く。
「個人、組織としての撃破数もそうだけど。
タケオさんが評価されたのは作戦立案と伯爵達を説き伏せた事よ。
タケオさん、新任の貴族が・・・いきなり子爵に叙されるというのもおかしいけど、叙爵されて、まだ1年よ?
対して、伯爵達は代々土地を守ってきた古参の貴族。
それも展開している5000名の兵士の命を預かる立場なの。
いくらタケオさんが、エルヴィス伯爵の孫の旦那、ゴドウィン伯爵の妻の妹の旦那だとしても、兵の命を預かる伯爵達が簡単には頷く訳がないのよ。
でも、・・・それを説き伏せた。
相当に、実効性が高いと思わせる作戦と説明だったんだろうね。
そして、実際にそうなり、自身も部隊を率いて、戦地で最大の戦果を出した。
・・・良い風に取れば、この行動が魔王国の戦争継続意思を挫き、早期の引き分けを促した。
グレース、今これが出来る貴族は、そうはいないわよ?」
「確かに・・・そうですね。
キタミザト殿は、この作戦を1日か2日で考え、説き伏せたのですよね?」
「そ、結果は、ご覧のとおり。
この行動・・・陛下や大公、各局長や貴族会議の面々は出来るかしら?」
「・・・・考えついても、実施まで漕ぎつけられるのか・・・
日数が1日、2日では、不可能でしょうか。」
「準備も含めれば、タケオさんも各伯爵も2時間も考えていないかもしれないけどね。
目の前には、既にオーガ65体が展開している、その後ろには11000名の敵兵、一方こちらの戦力は5000名。防衛線を破られればゴドウィン伯爵領になだれ込む可能性が高い。
目の前の敵に勝てなければ、国土が蹂躙される可能性が高い中での選択よ?」
「・・・戦地はどんな雰囲気だったのでしょうか?」
「それを報告書から読み解くのが王都の貴族と文官、武官達の役目でしょ?
そして、王都側の評価として今回の陞爵がされたと。
大人達はそう思ったという事よ。」
「・・・確かに2つ上へ陞爵の意味がわかりました。」
グレースが頷くのだった。
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