第2461話 294日目 エルヴィス伯爵邸がある街のいつもの居酒屋では。3(例の2人は何している?)
「そういえば、見かけない職人がハワース商会の作業場に居たな。
獣人だったようだが・・・」
キャロルがモニカに言う。
「あー、キャロルさんに見つかりましたね。
ジンゴロとタンユですね。」
モニカが言う。
「訳アリなのか?」
「訳アリ・・・キタミザト様からの紹介は訳アリ?」
モニカが聞き返す。
「十分に訳アリだな。」
キャロルが頷く。
「キタミザト様が今回の戦争でゴドウィン伯爵領に行ったでしょ?
そこの露天商で見つけた2人にうちを紹介したんです。
で、今は仮採用中。」
モニカが言う。
「ほぉ・・・どうだ?難しいのか?」
キャロルが言葉には出さないが「異種族雇用」について聞く。
「・・・種族とか関係ないですね。
うちは職人集団だから。
2人が来て、手際を見たら私は何も言う事はないと思いました。
今、お父さんが付いて研修と試験中。」
「ほぉ・・・親父さんが。
なら、職人として問題ないという事か。」
「むしろ気に入っていますよ。
・・・キタミザト様が紹介してきた意味がわかった気もします。」
モニカが呆れながら言う。
「うん?どういう事だ?」
「うちの家具って意匠が花や草、木が多いんですよ。
はっきり言って動物や魔物は苦手。」
「・・・だが、草木の方が需要があるんじゃないのか?
うちの妻も買っているのは草木の意匠だったと思うが・・・」
「需要的にはそう。
花と木と葉が売れ筋。
多くの家具にはどれかが入っているぐらいに売れている意匠になります。
でも・・・それ以外が欲しいという人も居るんですよ。」
「さっき言っていた、動物や魔物か。」
「ええ、うちからすれば、料金増しの特注案件なんだけど、私から見ても今一つな感じです。」
「下手なのか?」
「下手・・・下手と言えるのかも。
うちの職人達に花や木々の意匠を彫らせると見た感じが生き生きしている感じになんです。
でも、動物系はそれを感じないんですよね。
見てくれは悪くないとは私でもわかるんだけど・・・なーんか違う感じがするんですよ。」
「ほぉ、ハワース商会を代表するモニカがそういうのであれば、そうなんだろうな。」
「ま、そこにジンゴロがやって来て、動物系の意匠が出来るとわかったのでね。
今、色々と作れる物を確認中なんです。」
「ハワース商会に足らない人材が来たという事か。」
「・・・キタミザト様も感じていたのかも。
うちの商品には花とかが多くて動物系がないと。」
「それは考えすぎ・・・とは、言えないのがキタミザト様だな。」
「なんですよね。
まぁ、今後、どのくらいの家具に反映出来るかわかりませんけど、意匠の幅が広げられるので特注を多く受けられるかもしれません。」
「そうか。
生き生きとした動物系の意匠なのか?」
「ええ・・・生き生きと言うか、見る者を何か圧倒するような感じなんですけどね。」
「圧倒する?
わからないな。」
「何と言うか・・・『ほぅ』と一瞬目を奪われると言うか、何か感じる物を作ってくれます。」
「ほぉ・・・そういう事ならうちが1つ頼んでみるか。」
「え?何かあるんですか?」
「ああ、建物の玄関を大きくしようかと思っていてな。
今度、建て方の親方を呼んで改修を見積もろうかと思っていたんだ。
玄関の扉とその意匠を頼めるか?」
「あー、なら、そこでうちのをと言ってくれれば良いですよ。
キャロルさんの所なら仲間内ですし、大まかな要望に応えたいと思いますから。」
「はは、細やかなではないのか?」
キャロルが苦笑する。
「どういう動物でどんな感じのが良いのか程度で、あとはお任せにしてください。
構図は書いてくれるので、事前に見せられると思います。」
「わかった、早々に決めよう。
で、もう1人の方は?」
「タンユは・・・難しいですね。」
モニカが考えながら言う。
「それは・・・職人としてではないという事か?」
「ええ、意匠に色付けをしないといけない所を手伝いもしてくれて、助かっています。
本職が絵描きなんですけど、風景や木、鳥とかの組み合わせで、素朴と言うか・・・ゴテゴテしていないと言うか・・・
ちょっと今まで見た事がない感じの絵ですね。
ジンゴロと同じで見る者を何か圧倒するような感じの絵なんですよ。
でも・・・家具屋として見ると何に使えるか・・・
今は前に言っていた壁紙の模様について、キタミザト様が前に置いて行った課題をして貰っているんですけど。
本職の絵を描きたいんだろうなぁとは思います。」
モニカが言う。
「ふむ・・・扱い方に困っているという事か。」
キャロルが頷く。
「・・・モニカさん、モニカさんの所に画家さんが来たんですか?」
鈴音が話に入ってくる。
「うん、そうよ。
でも、どう使って良いかわからなくてね。」
「障子とか襖に描いて貰ったらどうです?
そうすれば家具として画家さんもお仕事がありますよ。」
鈴音が言ってくる。
「??・・どういう事?」
「え?部屋内の仕切や窓の遮光用に窓の内側に木枠を作って、そこに紙を貼って。」
「・・・ごめん、スズネちゃん、私には皆に説明出来る自信がないわ。
うちのお父さん達に説明してくれる?」
「わかりました。
今度、ハワース商会に行きますね。」
鈴音が頷くのだった。
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