第2458話 魔法師が出てきたら威力偵察をしたいと思います。(盾か鉄板をくれ。)
「はい、まだテントの所からの監視なので確証はないですし、兆候とも言えないのですが。」
マイヤーが考えながら言う。
「うん?私相手にもったいぶる必要はないですよ。
何が気になったのですか?」
「今は昼すぎです。
なので、今、調理しているのは夕食に向けて・・・と考えるのが一般的だと思います。
その・・・気のせいかもしれませんが、魔王国の中央、例のベッリ男爵の陣内からここ数日よりも多くの湯気が出ている気がするのですが。」
「湯気・・・ですか?」
「正確には火を起こした際、もしくは調理中の煙の数ですね。
2割は多いと感じました。」
「・・・食事か・・・」
武雄が軽く考え込む。
「タケオ、午後の空からの監視でその辺を重点的に見るようにします。」
初雪が言ってくる。
「初雪の監視を待ちますか。
まぁ、それでも憶測の域は出ませんが・・・」
「私の気の所為か、考え過ぎなのかもしれませんが。」
「マイヤーさん、前にも言ったと思いますが、私は経験の蓄積からくる過去の類似体験を思い出すことを勘だと思っています。
マイヤーさんが、魔王国のベッリ男爵の所から夕食が多く用意されている事に不安を覚えるというのは、マイヤーさんがどこかの戦場で見聞きした事か、何かしらの体験から来る警鐘でしょう。
・・・戦闘の前日に夕食を豪勢にしたりするのは古くから士気を上げるもっとも簡単な手段でしょうけどね。」
「・・・所長は、あると思いますか?」
「初雪の偵察でどのくらい多くなっているかがわかれば良いのですが・・・個人としては可能性が高いと思います。
が、客観的に見て3伯爵を説得できる確証にはなりません。
たまたま今日の夕食の品が1品多いだけかもしれないですからね。」
「そうですね。」
マイヤーが難しい顔をさせる。
「・・・来襲するとの予測の上で展開している全兵士に警戒をさせておいて、もし来なかったら次回の時にこちらの要請を受け付けないでしょう。
ですが、まったくの無警戒で魔法師1000名への対峙は精神的に負荷が大きいと思います。
・・・ふむ、3伯爵と打ち合わせに参加する幹部の頭に入れておいて、万が一の際は幹部が動揺しない程度にして貰うしかないですかね?」
「そうですね。
所長、私達はどうしますか?」
「・・・情報を取りに行きます。
今回はどんな魔法でどんな威力があるのかを確認にね。」
「前に出ますか。」
「敵の魔法の威力を計測し、既存の盾で対応出来るかの確認をしないといけないでしょう。
私達の試作の盾はオーガの攻撃でも耐えられる仕様です。
それを前と上に置いて近付いて、既存の盾を置いた場合と較べて、損傷具合を調べる事が重要でしょう。
強度が足りないのであれば、何かしらの対策をしないといけないですし。
危ないので、ベテラン4名と私で行きましょう。
ま、マイヤーさんの勘が外れれば、想定する攻撃時の情報収集のやり方の訓練になるだけですし、こちらとしてはどちらに転んでも訓練か、実践かの違いでしかないですよ。」
「わかりました。
あとでアンダーセンと打ち合わせをしましょう。
持って行く既存の盾はどうしますか?」
「伯爵達に相談して新品を供与して貰おうかと思います。
あ、盾でなくてもフルプレートの一部を貰って、来た攻撃に当てるというのも手ではありますね。
盾よりかは小さいので持ち運びに便利ですし。
どちらにしても何か向こうの魔法攻撃を受ける物は用意します。」
武雄が言うのだった。
・・
・
夕食前のゴドウィン伯爵軍陣内の大きいテント内には3伯爵軍の伯爵、騎士団長、兵士長と3名の小隊長、武雄とベイノンが居た。
「以上、昼過ぎの正面からの監視と夕方の上空からの偵察において、ベッリ男爵領軍の陣と思しき場所の調理数が昨日よりも多くあったのを確認しました。
第二研究所としては、明日、ベッリ男爵領1000名の攻撃がある可能性が高いと進言します。」
武雄が言う。
「ん~・・・」
「難しいですね・・・」
「・・・タケオ、部隊員の方々は何と言っておる?」
ゴドウィン伯爵とテンプル伯爵が悩み、エルヴィス伯爵が聞いてくる。
「最初に違和感を唱えたのは遠目に見ていたうちの部下です。
そこで鷲の偵察時にベッリ男爵領軍の陣地上空を飛んで貰い、焚き火、かまどの増加がされていないかを確認しました。」
「なるほどの。
じゃが、タケオが部下の意見を何も考えず、ここに出すだけの者ではないのは知っておる。
タケオとして、進言する理由はなんじゃ?」
「古来より、戦闘に際して事前に食事を多く与えるという兵士の士気を上げる方法は常套手段と言えるくらいなされてきた方法です。
また、前回のオーガ戦を全体的に見れば、魔王国は敗戦したと言えます。
向こうからしてみた場合、こちらの戦勝気分を一掃し、魔王国の強さを見せつけるには派手な軍事行動をしたいと考えるでしょう。
そして今回は前回まで居なかった魔法師1000名というアズパール王国でも見かけられない数の魔法師が居ます。
そして、その部隊に対し開戦より昨日までとは違い、夕食の量が増やされていると考えられるのです。
・・・これを戦闘前と考えない指揮官は居ないと考えます。
まぁ、実際に1品多いだけかもしれないので、兵士全部に通達する必要はないかと。
向こうが動き出した時に最小限の動揺で済ませられるよう、幹部方の頭に入れておいて欲しいと思っての進言です。」
「うむ、そうか。
タケオの進言、ありがたく活用させて貰おう。
ロバート、親父殿、幹部連中に明日に動きがあるかもしれないからと通達を。
それと、向こうが魔法師を出したとしても、こちらから攻撃はしないとする。
その分、回復に回る魔法師を増やしたい、それと今日は夜更かしはしないよう注意を促す事と盾の不具合が無いかの確認をお願いする。」
ゴドウィン伯爵がテンプル伯爵とエルヴィス爺さんに言う。
「わかりました。」
「うむ。」
2人が頷く。
「あ、そうだ、ゴドウィンさん、新品の盾か予備のフルプレートで壊して良いのを1つ頂けますか?」
「うん?何に使うんだ?」
「明日、魔王国の魔法師が攻撃して来たら、どのくらいの威力があるのか研究所として確認したいんで近寄ろうと思うんです。」
武雄がにこやかに言う。
「・・・タケオ、そっちの方が重要だ。
そこのタケオの中の計画を話して貰おうか。」
「「・・・」」
ゴドウィン伯爵達が疲れた顔をさせて武雄に説明を促すのだった。
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