第2421話 290日目 少しずつ変わる通例。(まずは死傷者を少なくしましょう。)
第二研究所陣地内の焚き火周り。
「はい、おはよう。」
武雄が寝起きで顔を洗って焚き火の所にやってくる。
「「「所長、おはようございます。」」」
皆が起きて朝食の準備をしていた。
「あー、ミルコ達はちょっと寝不足かな?」
「はは・・・寝つきが悪くて。」
「「「ははは・・・」」」
新人4人が苦笑している。
「ま、戦場でぐっすりと眠れる事は稀ですからね。
その内、慣れるでしょう。」
アンダーセンが言う。
「ま、でも研究所の試験小隊は楽ですよ。
最前線で盾を構える兵士達はもっと追い詰められますから。」
ベイノンが目線を戦場の方に向けて言う。
「あ、そうですよね・・・僕達戦場には居ますけど、あそこではないですものね。」
ミルコがジーっと前線を見ながら言う。
「ま、ベテラン達は新人達の精神状態に留意しておくように。
こればっかりは慣れるしかないし、皆が通った道だ。
所長、マイヤー殿、盾の準備は終えています。」
アンダーセンが武雄とマイヤーに言う。
「うん、ご苦労様です。
さて、今日は開戦日です。
昨日の打ち合わせでは午前中に両軍の指揮官の意志表明をやって、午後に騎士団が一当てするんだろうとなっています。
基本的には戦闘は3伯爵領の騎士団と兵士が対応します。
我々が戦闘に参加するのは3伯爵領軍の手が足りない時と明らかに強い敵が出て来て被害が多くなりそうな場合です。」
武雄が言うと皆が頷く。
「もっと端的に言うのならオーガ相手の戦闘は私達も出ます。
オーガは単体での力が強いので、戦死者が出る可能性がある為、4貴族で対応する事にしました。
試験小隊はオーガとの実戦経験がありますからね。
少しでも分散させたいのですよ。」
武雄が言う。
「所長、戦死者数を少なくするのですか?」
アーキンが聞いてくる。
「ええ、今回の戦争では我が国の兵士の戦死者を軽減させる為、難しくなったら引く事も許可する運びになっています。」
「所長、それは負けるという事ですか?」
アーリスが聞いてくる。
「ちょっと違いますね。
んー・・・なんと言えば良いのでしょうか・・・対魔王国の戦闘ではほぼ同数を戦わせる事が通例になっています。
なのですけど、今回は戦死者を少なくしたいんです。
過去の統計では戦闘時の死者数が全体の3割です。
この3割を軽減させる事にしました。」
「でも、引くんですよね?」
「戦っている部隊はね。
負傷した人数が規定数を超えた場合、後ろに待機している予備部隊と交代する事に合意しました。」
「それは・・・前例を変更させると?」
「ええ、まずは同数を当てはします。
そこで対応出来るのなら良しとしますが、負傷者が出た場合、予備部隊を投入。
負傷者が出た部隊は負傷者を回収し撤退。
すぐにケアによる回復をさせるという事を徹底してみようと提案しました。
今回は向こうが通例を変えて来たのです、こっちも変えて何か言われる事はありませんよ。」
「所長案でしたか。」
「ええ、最終的にはこれが一番良いだろうとなりましたよ。
次点案は小隊に1名魔法師を同行させるというのもありましたが・・・4貴族で話し合った結果、止めました。」
「え?どうしてですか?
部隊毎入れ替えるよりも負傷者をすぐに治せると思いますが。」
パメラが聞いてくる。
「撤退時期がわからなくなる可能性が高くなってしまい、戦っている兵士が無理をする可能性が高い為です。
それに・・・魔法師側にも問題が出てきます。」
「魔法師に問題・・・ですか?」
「ええ、魔法師にも新米からベテランまでいるでしょう?
更に魔法師の魔力量は個々で違うのでケアが出来る回数も変わってきます。
例えば魔力量の多いベテラン魔法師が連続して対処にあたった場合・・・そうですね、仮にケアの回数を20回としますか。
そこの小隊長は20回を平均と思いこんでしまい、それを計算に入れた計画をしてしまいます。そこにケア10回が限界の新米魔法師が来たらと想像してみてください。」
「そ・・・それは怖いですね。」
パメラが頷く。
「下手に回復が出来ると思わないように最初からしておけば、無茶をせず、負傷者が出た時点で撤退の指揮を執ると思いましてね。
他にもやり方はあるでしょうけどね。
とりあえず、今回はこの方法で行こうとなった訳です。」
「なるほど、そうなのですね。」
武雄の言葉にパメラが頷くと、皆も納得したのか頷く。
「と・・・何の話でしたかね・・・あ、戦闘参加はオーガ戦です。
それ以外は偵察をしながら情報を集める事をします。
偶発的な戦闘はあるかも知れませんが、出来るだけ準備と周囲確認をしてから臨むようにしていきましょう。」
「「「はい。」」」
「朝食後に鷲の偵察を実施し、今朝の戦場の様子を確認しましょう。
まずは朝食をとりますか。」
武雄が言うのだった。
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