第2420話 289日目 開戦前夜。(緊張しないで過ごしましょう。)
魔王国 パーニ伯爵領の関の内側にあるヴァレーリのテント。
「・・・大きいな。」
ベッドに腰かけたヴァレーリがテント内を見回しながら呟く。
「まぁ、私と一緒ですし。」
アンナローロも対面の自身のベッドに腰かけて言う。
「いや、それにしても大きいぞ。
一国の国王のテントとはこうも大きい物なんだな。」
「ダニエラ様、本当、遠征とかしませんでしたからね。」
「する必要がなかったしなぁ。
各地の武力対応は各軍がやっていただろう?
我が行く事ではないと言っていたしなぁ。」
「行くと皆さん、迷惑でしょうしね。」
「うむ・・・指揮官補佐の給料は減額させてやるか。
全軍のな!」
「あ!それは皆さんから私が袋叩きにあうからダメです!
というよりもダニエラ様が来たら皆がやる気になって収拾が付かないからではないですか?
それに侵攻されている訳でもないですし、王城からは第2軍派遣で事足りますよ。」
「皆の戦働きを確認したいと言えば戦場には来るなと言われ、視察したいと言ったら地方に来るなと言われ・・・我は国のトップなんだよな?」
「そうですよ。
正真正銘の魔王国ヴァレーリ国王陛下です。」
「なんか、扱い酷くない?」
「それは毎回の国王様が漏らしている愚痴ですが。」
「あ、そうなの?」
「ええ、地方に行くな、戦地に行くなは毎回ですし。」
「え?・・・ということは今回の例は稀?」
「はい、稀ですね。
といっても資料で知っている限りですけど。
今回はこの後があるので皆さん渋々ですよ、たぶん。」
「そ・・・そうなのかぁ。」
ヴァレーリが満更でもない顔をさせて考え始める。
「明日は朝からあの櫓で過ごすのですね?」
「うん?・・・あぁ、初日だしな。
慣例の戦争の始め方を見ておこうと思う・・・思うのだが・・・よっと、このリストなんだろうな。」
ヴァレーリがベッドの横の机に置いてある資料を手に取って数枚捲ってアンナローロに見せる。
「なんだろうとは言われましても・・・戦争の日程ですね。」
「あぁ、そうだな。
明日は午前中にパーニと向こうのゴドウィン辺境伯が宣誓をし合うという・・・なにこれ?」
「陛下がアズパール王に出して、返事を貰った内容の確認でしょう?」
「・・・戦場でする事か?」
「する事なんでしょう?だからするんですよ。」
「・・・そうなんだ。」
「それがアズパール王国との戦争の始め方なんですよ。
許容してください。」
「はい・・・午後に戦闘が2回。パーニとファロンの所の騎士を20名ずつ出すとあるが?」
「とりあえずの戦闘という事なんでしょう。
許容しましょう。」
「・・・んー・・・これがアズパール王国との慣例の戦争なのかぁ。」
ヴァレーリが微妙な顔をさせるのだった。
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第二研究所陣内の打ち合わせ室
「「・・・」」
マイヤーとアンダーセンが将棋をしている。
「・・・」
武雄は椅子に座り、余った椅子を少し離した所に置き、足置きとして使っている。
「・・・ふむ。」
武雄が見ていた書類から顔を上げる。
「所長、アリス殿からは何と?」
マイヤーが声をかける。
「王都もエルヴィス伯爵領も問題なし。
前回の戦争時にあったような魔物の襲撃の兆候は今の所、ないみたいですね。」
「それは良かったです。
ですが、王都がまだ騒がないというのは・・・
所長からの報告にあった陛下のあそ・・計画により、王都の壁に試験をするのですよね?」
「私が見ているのは5日前の状況の返事ですからね・・・まだ、やる気になっていないのでしょう。
今日あたり届いている情報が面白い事になるのでは?」
「3日前ですか・・・9500名でしたか?」
マイヤーが考えながら言う。
「ええ、まぁ、明日送る11000名と第1軍が到着した旨の報告が到着したのを待ってとも考えられますけど・・・
アンダーセンさんはどう思いますか?」
「あの情報のみですよね。
明日は開戦なのですから今日、明日で動くのではないですかね?
王城の動きとしては、陛下が実施を決断して、貴族会議が了承して、軍務局が具体的な行動を策定して・・・実際に伝令が出るのは半日か1日後でしょうね。
あ、王都守備隊は陛下から関へ救援の下知がかかっても良いように準備を始めているかもしれませんね。
軍務局は所長関係で第2騎士団は何となく行かせ辛いので第1騎士団に内々に準備をさせ始めているかも。」
アンダーセンが将棋の駒を進めながら言う。
「・・・そこに打つのか。
アンダーセンが言う通り、明日の開戦を口実に動く可能性は高いと思います。
その次は所長の言われている明日に送る情報、さらに次が開戦日の情報を待ってでしょうね。」
マイヤーが言う。
「情報が来て、1日程度で決断ですか・・・国家としては早い行動ですよね。」
「所長も陛下から言われている『最終防衛拠点構築計画』というのは元々ある物ですからね。
それを元に今回の緊急展開の話をするだけでしょうから早く出来ないとダメでしょう。
まぁ、陛下は裏の話がわかっているので、流通はそのままで兵士達がどう動くのかの確認というのが趣旨でしょうから関を締め切ってとかはしないでしょうね。」
マイヤーが言う。
「その試験、王都の壁の城門近くに宿でも取ってお茶でも飲みながらこっそり見ていたいですね。」
武雄が言う。
「「あー、気持ちはわかります。」」
マイヤーとアンダーセンが頷くのだった。
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