第2397話 その頃の戦地では。(上空監視も良し悪しがあるようです。)
ゴドウィン伯爵領の関、第二研究所陣地内打ち合わせ室の特殊コンテナ搭載馬車の上のテントにて。
「・・・なんというか・・・全容がわかっていても感じるものがありますね。」
武雄が覗いていたスコープを降ろして呟く。
「ふむ・・・まだ、所長の話にあったオーガが来ておりませんね。
正面の陣地ではないとすると魔王国の左翼側ですかね?
あっちは旗から魔王国のパーニ伯爵軍ですが・・・片方だけに居るとは考えられませんが。
正面はファロン子爵軍となっています。」
隣にいるマイヤーがスコープを覗きながら言う。
「・・・まだ来ていないだけと考えた方が良いでしょうかね。
それにしても昼に今日の朝の偵察結果をエルヴィス伯爵家に向けて飛ばしましたが・・・5000名が集結し終わるとはね・・・」
「地図上で見ましたが・・・その数が頭にあってこうやって見ると圧巻ですね。」
「こっちは2000名に行くか行かないか・・・あとで、各陣地を訪問して様子を見てきます。」
「そうですね、それが良いと思います。
今はエルヴィス伯爵だけが知っているのですよね?」
「ええ。
・・・上空から見るというのは全体の状況を把握する上で重要ですが、こういう時には差を見せつけられて、士気が下がりそうですね。
今の段階では兵士達に総数を教えられませんし、何とかして兵士達を落ち着かせないといけないのですが。」
「まぁ、正面から見た限りでは多いのはわかっても全体的な数まではわかりませんからね。
そこだけが良い事ではあります。」
「・・・・・・で、気になったんですけど。」
「はい。」
「中央付近に櫓ありますよね?」
「関の高さに合わせてですね。
木組みの屋根があります、壁は作らないのでしょうかね?」
「・・・あれ、今までにあったのですかね?」
「そこはわかりませんが・・・もし新たに作るとしたら意味はなんでしょうか?」
「ダニエラさん用でしょう。」
「即答ですね。」
「観覧席という事なんだと思いますが。
・・・櫓の件も確認してきますかね。
よし、お昼食べて散歩してきましょうかね。」
「今回もベテラン1人と新人1人を連れて行ってくださいね。」
「わかりました。
マイヤーさんは報告書ですか?」
「そうですよ。
これが終わったら王城に出すのでしょうからね。
今から作らないといけないでしょう。」
「マイヤーさんの報告書は見やすくて良いんですよ。
よろしくお願いしますね。」
「お任せください。」
マイヤーが頷くのを確認して武雄が立ち上がり、テントを出て行くのだった。
・・
・
ゴドウィン伯爵軍陣地内。
武雄とゴドウィン伯爵家の兵士長、エルヴィス伯爵家の兵士長が戦場を見渡せる所で立ち話をしている。
もちろん、各々お付き数名が周りで見守っている。
「・・・ふむ、櫓は近年では無かったと。」
「はい、ここからでもわかるくらいの櫓というのは・・・近年どころか私が任官してから一度もありません。」
武雄の呟きにゴドウィン伯爵家の兵士長が言う。
「私も記憶にないですね。」
エルヴィス伯爵家の兵士長であるデビットも頷く。
「・・・そうですか。
今回のこの敵味方の兵士の集結状況については?」
「アズパール王国側は前回と同じです。
ですが、魔王国側の集結が早いですね。
いつもならこのぐらいの数になるのはあと数日後なのですが・・・」
「確かにこの数がこうも早くというのは・・・
キタミザト様、何か情報がありますか?」
2人が考えながら武雄に聞いてくる。
「未確定で良いと言うなら・・・ありますよ。」
「「あるのですか?」」
「ええ、今回の慣例の戦争と魔王国の国王の選定時期とが重なっているという情報があります。
魔王国の国王の選定方法はわかっていませんが、何か関連があるのではないかと・・・私とエルヴィス伯爵は考えています。」
「「んー・・・」」
「一応、エルヴィス伯爵にお願いして、今回の慣例の戦争では防御に徹する布陣、編成にして貰っています。
ゴドウィン伯爵からは言われていますか?」
武雄が堂々と言う。
「はい、防御に徹するという事で武具の新調を確実に行っています。
また、盾についても来年実施予定の買い替えを前倒しし、半数の入れ替えが終わっています。
古い物は予備として持って来ています。
そうですか・・・魔王国の方で政変がある可能性が・・・この慣例の戦争で戦果を求められる可能性があると。」
ゴドウィン伯爵家の兵士長が考えながら言う。
「あくまで未確定事項です。
必ずしも何かあると決まってはいませんが・・・何があっても挑発に乗らない、どんな事があっても防御を堅実に行う事が重要と私とエルヴィス伯爵は考えています。
たぶん、ゴドウィン伯爵も思う所があって私達の意見を採用してくれたのでしょう。」
「はい、伯爵は今回の戦争はいつもより危険である可能性が高いと仰っています。
たぶん、エルヴィス様やキタミザト様の意見を聞き、吟味してから今回は違う可能性が高いと判断されたのでしょう。」
「現状で兵士の状態は?」
武雄が2人に聞く。
「お恥ずかしい話、少し浮ついています。
各小隊長には小隊員の状態を常に把握するように指示しています。」
「こちらも同じような状態です。
ベテラン達を中心に新人達に話をさせて落ち着かせようとしています。
キタミザト様、先ほどの話を小隊長達にしてもよろしいでしょうか?」
「・・・ダメですね。
不確定事項を話して不安を煽ってはいけないでしょう。
ですが、私からの情報を元に伯爵達が今回は防御に徹する指針を出している旨の説明は問題ないと思います。
指針に沿って準備をし、精神的に落ち着かせるようにしてください。」
「「了解しました。」」
2人が返事をする。
「さてと、兵士長、次はテンプル伯爵軍の所に行きましょうか。」
武雄がデビット兵士長に言う。
「そうですね、向こうの状況も知りたいですね。」
「あ、なら私も行かせていただきます。」
ゴドウィン伯爵家の兵士長が言う。
「それはありがたい。
実を言うと、向こうの兵士長はちゃんと対応してくれるのですけど、どうしても兵士達からなんとも言えない視線を向けられるのでね・・・兵士長達が一緒だと楽です。」
「注意しますか?」
「いや、成り上がり者だと思われているのは私もわかっているのですけど・・・エルヴィス家の兵士達からはそんな目を向けられないのでね。
少し戸惑っています。」
「はは、キタミザト様の凄さはエルヴィス家の兵士が一番わかっております。」
デビット兵士長が苦笑しながら言う。
「ん?凄さですか?」
「あー・・・なら、道すがらキタミザト様の変態的な凄さをご説明しますよ。」
「はぁ・・・褒められているのだが、貶されているのだかわからないですねぇ。」
武雄達がテンプル伯爵軍陣地に向けて歩き始めるのだった。
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