第2272話 迎えにきました。(緊張の時。)
寄宿舎の玄関横にあるフリースペース。
「「「「・・・」」」」
スミスを除く、男子4名がジッとソファに座っていた。
「・・・なんで固まっているのかしら・・・」
「グレース殿下、皆さん、何か思い詰めていますね。」
グレースとバウアーが4人を少し離れた所から観察している。
「はぁ・・・そんなに本を買うのに気合が必要なのかしら?」
「本?グレース殿下、皆さまは本を・・・本が何なんでしょうか?」
グレースの呟きにバウアーが聞いてくる。
「・・・まぁ・・・本を買いに行くみたいなのよ。」
「はぁ、でも本を買うのにあそこまで思い詰めるものなのでしょうか?」
「さてね・・・バウアー、私達は部屋に戻りましょうか。
ここに居てもしょうがないし。」
「え?グレース殿下、よろしいのですか?
私達が相談に乗ってあげなくて。」
バウアーは純粋に「解決しなくて良いの?」という目をグレースに向ける。
「そ・・・相談!?必要ないんじゃないかなぁ?」
グレースはその目を直視する事が出来ずに明後日の方を向く。
「そ、それに!買いに行ってしまえば良いだけなのよ。
さ、戻りましょう。」
「はぁ・・・わかりました。」
グレースとバウアーが自室に戻って行く。
入れ替わるようにショルダーバックに磯風を入れ、帯刀したジーナが玄関まで歩いてきて、4人を見て会釈して玄関を出て行く。
4人はジッとしているのだった。
・・
・
「・・・何しているの?」
外出着に着替えたスミスが4人に近付いてきて聞く。
「待ってた。」
「ずっと。」
「遅れまいと。」
「スミス殿を。」
4人が片言に言う。
「はぁ・・・今から緊張してどうするんですか。」
スミスが呆れながら言う。
「「「「だって!」」」」
「あー・・・」
と玄関が開き武雄が入ってくる。
「こんばん・・・あれ?もう揃っていますか?」
「「「「キタミザト様!今日はよろしくお願いします!」」」」
4人が立ち上がって武雄の前に走っていき挨拶をする。
「え?ええ、急なお願いをしてすみませんね。」
「いえ!キタミザト様のご依頼であれば俺・・・いえ!僕達はすぐに動きますので!」
「お誘いいただきありがとうございます!」
イーデンとカイルが言うと再び4人が頭を下げる。
「あー・・・そうですか。
スミス坊ちゃん、用意は?」
「終わっています。
夕食も軽く取っていますから問題ないです。」
「あ、夕食取ったのか。
なら、ちょっと私の軽食を買って向かいますか。」
「タケオ様は夕食はまだで?」
「ええ、酒場にでも行こうかと思ったのですけど、食べたのなら行く必要はないかなぁと。
まぁどこかで簡単に食べられる物を買って向こうで食べますかね。」
武雄が言う。
「・・・わかりました。
へぇ、持ち込んでも良い物なのですね。」
スミスが言う。
「それなりにお金払っているからね。
さ、エイミー殿下達に見つかる前に行きましょうか。」
「「「「はい!」」」」
「よろしくお願いします、タケオ様。」
武雄達が寄宿舎を出て行くのだった。
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寄宿舎の職員の部屋。
「キタミザト殿が5人を連れて行ったか。」
「寄宿舎の前で待っていて正解でしたね。
あの子達はキタミザト殿が書類等々を全部用意していてくれているのを知る事はないんだろうなぁ。」
「はぁ・・・それにしても羨ましい。
キタミザト殿のお金で経験とは。」
「何言っているんだよ。
俺達も遠い昔に体験したじゃないか。」
「まぁ、そこはな。
今は家庭もあるし・・・行けたとしても、あんな高い所には行けないだろうが。」
「さて・・・5人にとって良い経験になれば良いのだがな。」
「まぁ、あそこの店は毎年お願いしている所だし、上手くしてくれるでしょう。」
職員達が雑談に耽るのだった。
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王都の歓楽街のとある娼館の一室。
「はぁ・・・そろそろですかね。」
エリカが緊張しながらベッドの上に正座していた。
手には媚薬の小瓶が出番を待っている。
「エリカ様、緊張が少し、ほんの少しだけ和らぎましたか?」
ジーナが聞いてくる。
「はぁ・・・なんというか・・・覚悟を決めたら体が軽くなりました。
吐き気も収まっています。」
「流石でございます。
その感じですと大丈夫そうですか?」
「たぶん・・・としか言えませんよ。
あとはこれを飲むだけ・・・」
エリカが手の中の小瓶を見る。
「ちなみになのですが、それ美味しいのでしょうか?」
「え?・・・それは・・・どうなんでしょうか。
ペイトー、パナ殿は何も言ってなかったのですか?」
「言ってなかったです。
聞かなかったというのもありますが・・・。
まぁ、飲めない程に不味いわけではないと思うので、安心して飲んでくれて良いと思います。」
「・・・よし、飲もう。」
エリカが覚悟を決めるのだった。
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