第2270話 準備、準備。(ジェシー、公表す。)
ゴドウィン伯爵邸の客間。
ゴドウィン伯爵が帰宅し、屋敷内の主要な面々が揃っていた。
「あの・・・私達は居ても良いのでしょうか?」
ラウレッタが恐る恐るジェシーに聞く。
「良いのよ。
ラウレッタとマヌエルは聞いておいた方が良いわ。」
ジェシーがにこやかに言う。
「はぁ・・・わかりました。」
ラウレッタが頷く。
「さて・・・お茶と甘い物を取ったから説明といこうか。」
ゴドウィン伯爵が目の前のスイーツとお茶を平らげてから言う。
その言葉に皆が姿勢を正す。
「まぁ・・・なんだ。
本日、昼前に関に魔王国から宣戦布告文が到着した。
内容は要約すれば『アズパール王国は400と数十年前に奪った我が国の国民の領土を返還せよ、さもなくば実力行使を持って奪還するのみ』だ。」
「いつもの通りね。」
ゴドウィン伯爵の言葉にジェシーが頷く。
「うむ。
戦争の開戦日は8月15日とあった。」
「8月15日?今日は7月9日。
いつもより早いわね。」
ジェシーが首を傾げる。
「ああ、そうだな。
戦争前の宣戦布告文は1か月前に王都に着くように届けられる。
5日程早い到着だ。」
「ん~・・・これは何かあるのかしら?」
「そこはわからん。
皆で打ち合わせはしたが・・・特に内容に思う所はなかった。
なので、準備が約1週間余計にかけられるという前向きに捉える事にした。」
「アナタがそう思うなら良いわ。
それで、参戦要請はしたのね?」
「うむ、王都に報告とエルヴィス家とテンプル家にはしてある。
もちろんキタミザト家の所にもな。
だが、タケオは陛下直轄の王立研究所を率いている。
いくら俺が辺境伯でも全ての命令に従う義理はないだろう。」
「そう・・・でも来てくれるでしょうね。」
ジェシーが言う。
「あぁ、来てくれるだろう。
先のエルヴィス伯爵邸がある街の襲撃での初陣を聞き、実際に会ってもいるが、ここで参戦しないという事をする人物ではあるまい。」
ゴドウィン伯爵の言葉に皆が頷く。
「となると、今の所、各地への報告と依頼はしていると。
アナタ、この屋敷分の備蓄量は前に決めたように戦時になったから多く備蓄するように手配をして、今買い出しを実施しているわ。」
「うん、すまんな。
屋敷としてはそれで良い。
今までの経験上、戦争期間中は物価の変動が頻繁になる。
安定している今の内に買い足して置けば良いだろう。
関に持って行く分は各町の備蓄状況を元に関に近い町で保管、随時戦場に持ってこさせるようになっている。」
「それも前に計画した通りね。」
ジェシーが頷く。
「毎回の事だが関近くにテントでの商店が出店されるだろうが・・・本来なら戦場に領民を近づけさせないようにしないといけないのだが、黙認する。
悪徳な事をするようなら捕まえるがな。」
「そこは各組合にお願いする手はずよね?」
「総監局と経済局が動いて管理をする事になっているぞ。」
「そう・・・なら安心ね。」
ジェシーが頷く。
「うむ・・・で、だ。
ジェシー、戦争期間中、エルヴィス伯爵邸に行ってくれないか?」
ゴドウィン伯爵がジェシーに言う。
「・・・私は確かにエルヴィス家の人間でゴドウィン家に嫁いで来た身ではあるわ。
でも、私はフレッド・ジェリー・ゴドウィンの妻よ。
領民を置いて後方に逃げるなんてしない、私が後方に下がるのは領民を逃がした後よ。
領地はなくなるかもしれない、でも領民が残れば国家が残るわ。
その為に1人でも多くの領民を退避させる必要があるし、決断をする者が必要になる。
私はその責務を放棄する事はしないわ。」
「・・・」
ゴドウィン伯爵が目を閉じて聞いている。
皆もジェシーの覚悟に頷く。
「はぁ・・・以前の私ならそう言うわよね。」
「前回もそう言ったな。」
ジェシーが諦めたように呟くとゴドウィン伯爵が頷く。
「流石に・・・男子を身籠っているとね・・・
今回は皆を見送ってから実家かな、アリス達が居るし、安全よね。」
ジェシーがお腹を擦りながら言う。
「奥様!男子なのですか!?」
メイド長が驚きながら言う。
皆も目を見開いて驚いている。
「うん、皆には身籠った事しか言わなかったけど、アリスの精霊のコノハ殿とタケオさんの精霊のパナ殿の診断で男子とわかっているわ。
もう少ししたら発表しようと思っていたのよ。
・・・まさか今日になるとは思わなかったわ。」
ジェシーが苦笑しながら言う。
「伯爵様!奥様!改めておめでとうございます!」
「「「「おめでとうございます!」」」」
執事長の言葉の後に皆が一斉に頭を下げる。
ゴドウィン家では吉凶事が同時に来た1日になるのだった。
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寄宿舎の職員の部屋。
「確かに・・・学院長代理と人事局長のサインが入っていますね。
・・・わかりました。
エルヴィス達5名の夜間外出届を受理します。」
職員が言う。
「ありがとうございます。
意外と連れ出すのは大変なんですね。」
「基本的には自主性を重んじてはおります。
ですが、夜間の外出は生徒から外出届が出されれば理由を確認し、許可する事になっています。
ジーナ殿は王城にも行きますから頻繁に出されますけどね。」
「すみませんね、そのほとんどが私の用事です。」
「いえ、ジーナ殿は『両方仕事です』と言っておいでですから仕事を熱心に熟していると考えています。」
「これからもするでしょうが、よろしくお願いします。」
武雄が頭を下げるのだった。
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