第2225話 エルヴィス領内の小麦の試験生産について。1(まずは実食から。)
エルヴィス伯爵邸の客間。
エルヴィス爺さんとアリス、コノハ、ビエラ、ヴィクター、エンマ、ウカ、フレデリックと料理長が揃っていた。
「ふむ・・・これが輸入したパン用の小麦を使ったパンかの・・・」
「で、こっちがお菓子用の小麦を使ったマドレーヌですね。」
皆の前に小さいパンとマドレーヌが用意されていた。
「はい、今回、観覧会が終わりましたので、料理長が作りました。
味見はしてあります。
食べてからご感想をお願いします。」
フレデリックが言う。
「ふむ・・・食べてみようかの。」
「はい、頂きます。」
エルヴィス爺さんとアリスがまずは1口食べる。
「「!?」」
2人が目を見開く。
その様子を見た他の面々も食べ始めるが、皆もエルヴィス爺さんとアリスのように驚いている。
まぁウカは「美味しいなぁ」と満喫しているのだが。
「もしかしたらタケオが既に説明しているかもしれないけど、もう一度言っておくね。
今回のパン用の小麦は強力粉、お菓子用は薄力粉と言うのよ。
エルヴィス伯爵領で使っているのは中力粉、ちょうど薄力粉と強力粉の中間と考えれば良いわ。
まぁ、具体的な所はタケオに聞けば良いけど、粘りが違うというのが特徴よ。」
コノハが言う。
「うむ、前にタケオに説明されたの。
我が領内の小麦は集めて混ぜてしまうと武雄に言ったら悩んでおったの。」
「うん・・・わかるわ、その気持ちは。
で、今回、魔王国から運良く種類が分かれている小麦を入手したという事ね。
アリス、これはタケオやスズネが良く食べていたパンの柔らかさに近付いていると思うわ。
マドレーヌも悪くないと思うよ。」
コノハがそう言いながらパンとマドレーヌを食べている。
「・・・ふわっとしています。」
「これは・・・今まで食べていたパンとは別物じゃ。
マドレーヌも人気店と遜色がないの。」
2人が言う。
「そうね。
エルヴィス伯爵領のはスコーンの様な物と食感がボソッとした食パンだものね。
まぁこれはこれで食べ慣れると美味しいんだけどね。
エンマやヴィクターはこっちのパンでしょう?」
「はい・・・でも、ここまで柔らかくはないのですが・・・
食べれるだけで幸せですから文句はありません。」
「エルヴィス伯爵領のパンも国の仕様でそういうものだと思っておりましたので、不思議とは思いませんでした。」
エンマとヴィクターが言う。
「うん、良い子達だなぁ。
まぁエンマの言った通り今回はある事をしました。
もちろん、種類別に分けたというのが1つ。
もう1つが粉の精度を上げてたのよ。」
「「精度?」」
エルヴィス爺さんとアリスが首を傾げる。
「うん、簡単に言うと余分なゴミを取り去ったのよ。
まずは唐箕で小麦の籾殻を取り払い、さらに木臼の幅を狭めた物で小麦の表面を削り、粉の粒子が細かくなるようにピタッとした石臼で挽いたのよ。」
「つまりは3回臼にかけたという事かの?」
「うん、籾から少しずつ削っていって余分な所を削り、きめ細かい粉にしたの。
もちろん強力粉、薄力粉を混ぜないように強力粉を挽いたら一度徹底清掃をして、薄力粉を作ったわ。
その成果があって、このパンとお菓子が出来たのよ。」
「「ほぉ。」」
エルヴィス爺さんとアリスが頷く。
「唐箕が出来ていて良かったわ。
手作業でやってたら2日とかかかりそうなのを4時間程度で出来たしね。
今回の木臼の所や石臼の所を唐箕に組み込めば、さらなる時間の短縮になると思うわ。」
「なるほどの。」
「それは良いですね。」
エルヴィス爺さんとアリスが頷く。
「まぁ、それは今後の展開を考えるとして。
伯爵、魔王国から輸入して作付けをしてみてはどうかな?
この地で栽培出来るかの試作をしてみてからだろうからすぐの増産は大変だろうけど、試しにどこかで作り始めても良いと思うの。
将来的には、領内のパンがここまでとはいかないまでももう少し柔らかくなると思うわよ?」
コノハが言う。
「確かにの。
どちらにしろパン用の小麦は専用で作ろうと思っておった所じゃ。
わしの考えを言う前にキタミザト家の小麦に関する現状を聞きたいの。
アリス。」
エルヴィス爺さんがアリスに顔を向ける。
「はい。
ヴィクター、この間の観覧会の後の小麦の注文状況はどうなっていますか?」
アリスがヴィクターに聞く。
「はい、まだ終わってから日も浅い為、確定とはいきませんが、現在、数件の問屋からの注文を頂いています。
パン屋とスイーツ店に向けての試験販売をすると言われております。
総量としては現在の所、120kgになります。
私とアスセナの予測としては注文確定日までに200kgにはなるのではと考えます。」
ヴィクターが言う。
「うん。
エンマさん、ベルテ一家の作付けについて、小麦を作る余裕はありますか?」
アリスがエンマに聞く。
「はい!現在、私達はキタミザト様の指示にて、最大面積での米の栽培を始めており、申し訳ありませんが小麦の試験生産をする所が残っておりません。」
「そうですね。
ベルテ一家は米の栽培が主です。
そこに全力を注いでくれれば良いですね。
お爺さま、キタミザト家としては新たに作付けの試験をする余裕はありません。」
アリスがエルヴィス爺さんに言う。
「まぁ、予想通りじゃの。
となると、どうしたら良いのかを考えないといけないの。」
エルヴィス爺さんが腕を組んで言うのだった。
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