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第2160話 はい、任意同行願います。(武雄と領民の座談会。)

「・・・特段気になる内容ではないですね。

 もっと革新的な演説かと期待したんですけどね。」

武雄がボソッと言う。

「・・・政治批判なんてこんな物では?

 それにタケオはこちらに来る前に国政選挙を見ているのでしょう?

 この程度の論評は聞いてても浅く聞こえてしまいますよ。」

チビパナが言う。

「まぁ・・・ある程度、冷静に政治体制を見るようにはしていますけどね。

 それに既存の貴族制の廃止を急進するのは愚策としか思えないんですけど。

 平等ね・・・どこぞの社会主義共和国連邦の成り立ちから国家解体までを知っていると・・・手放しでは賛同出来かねますね。

 それがわかってて演説しているのかと思ったら・・・ねぇ・・・」

「まぁ政治体制は色々ありますから。

 タケオは今のままの方が上手く行くと思っているのですよね?」

「アズパール王国は王政ではありますけどね。

 ですが、文官、武官には国民から入れています。

 そして出自に関係なく最上位の宰相まで登れます。

 独裁とまでは言い切れませんし、圧政をしている訳ではありませんからね。

 政治転換をする必要性を感じません。

 民主主義は成熟すると社会主義に近づき、社会主義が成熟すると民主主義に近づくように感じるのは私の気のせいでしょうかね?」

武雄が言う。

「キタミザト様、全兵士配置完了しました。

 本当に止めさせなくて良いのですか?」

兵士長が武雄の隣にやってきて言う。

「・・・ああいうのを壇上から引き摺り降ろすのは大衆心理からすればダメな方法だと思います。

 内容はどうあれ、武力によって演説を止めさせるのは、演説をしている内容を認めているような印象を与えます。

 こういった時はしゃべりたいだけしゃべらせてから連行・・・お話をすればで良いでしょう。」

「・・・大丈夫でしょうか?」

「聞いている人達の感じだと・・・共感はしていないようですね。

 『良いぞー』とか『もっと言えー』とかの煽りがない時点で・・・この演説はダメでしょう。

 演説をするのならこの地域を調べてからするべきだったのですよ。

 ・・・終わりそうですね。

 演説が終わった瞬間に逃げないように囲み、任意同行を促してください。

 拒否するなら優しく抱えて連れて行きましょう。

 そして法に則って事情聴取を。

 エルヴィス伯爵領だから気にはされませんが、場所が場所なら騒乱になりかねません。

 ・・・誰にこの地であんな演説をするように言われたのか・・・そこが気になります。」

「はっ!徹底的に調べます。」

兵士長が返事をするのだった。

・・

「な!なんだこの野郎!放せ!

 ここの国民は俺の話を聞きたがっているんだぞ!」

「まぁまぁ、とりあえず、こっち来て話を聞かせなさい。」

「ははは、俺らもさっきの演説聞きたいんだよ、もう一度してくれ。」

「こっちに小屋を用意して貰ったからな。

 はいはい、大人しく。

 はーい、おとなしくねー。」

「こういうのは許可を取ってくれないと、困るんだよ。

 言いたい事あるなら聞いてあげるから。」

演説をしていた男が数名の兵士に両腕を持たれて連行されていく。

聴衆達が冷たい目線を浴びせているのをこの男は気にもしないようだ。

「・・・なんだろうねぇ・・・」

武雄が聴衆達の輪に入りながら見送る。

万が一、暴れたらシールドで領民達を守れるようにしていたが、兵士達が迅速に確保して連れて行ったので取り越し苦労だった。

「さて!・・・あーんな意見もあるものですね!

 皆さんはどうでしたか?

 皆さんも色々と思う所はあるかもしれませんが、あれも1つの考え方と受け止めないといけませんよ?

 まぁ・・・最終的に彼が何を言いたいのか、私にはわかりませんでしたが、ああいう考えもあるんだな程度では認識出来ましたね。」

武雄が先程まで演説を聞いていた聴衆に体を向け、少し大きめの声で言う。

「キタミザト様!あれはどういう事なのですか?」

「キタミザト様!エルヴィス家が悪く言われました!

 何なんですかあれは?」

「エルヴィス家が贅沢なんて・・・しているんですか!?

 している所見た事ないんですが?」

皆が武雄に聞き始める。

「そうですね。

 彼が言っていた事、1つずつ考えてみましょうか。

 まずは『貴族は私腹を肥やしている』と言っていました。

 確かに、皆さまの税金でエルヴィス家は成り立っています。

 ここは揺るぎない事実です。

 これは見方を変えれば私腹と捉えてしまうかもしれません。

 ですが、エルヴィス家は税を納めて頂いて大変感謝をしております。

 もちろん、私もこの地に住まうエルヴィス家の一員として感謝しています。

 皆さまに支えて頂いているからこそ、エルヴィス家は存在させて貰っています。

 その事は伯爵含めエルヴィス家の者は全員が認識しております。

 本当にありがとうございます。」

武雄が皆を前に頭を下げる。

「いえ、キタミザト様!頭をお上げください!」

「我々こそ守っていただいていますし!

 食料もちゃんと買えますし!」

「物価も安定して、仕事も出来ています!

 キタミザト様!大丈夫ですから!」

皆が慌てる。

「ありがとうございます。

 私達は確かに少しずつ個人的な貯蓄はしております。

 皆さんの感覚からすると少し多いのかもしれません。

 それと『私達は贅沢をしていない!』と言いたいのですが、夕食のメニューにおいて、パン、スープ、肉とサラダ、そしてスイーツを毎晩頂いております。

 毎晩、スイーツをというのは贅沢なのかもしれません。

 ですが、何とか費用が抑えられるように努力させて頂いておりますので、何卒、毎晩、スイーツを出させていただきたいです。

 アリスも喜んで食べております。

 何卒!何卒!ご理解を頂きたいです。」

武雄が言う。

「キタミザト様、食事に贅沢な品々を使ったりはしていないのですか?」

誰かが聞いてくる。

「確かに私の所では魔王国からの輸入を始めました。

 まだ皆さんに出すには輸入量が少なかったり、価格が高いものもあります。

 そういった食材を使っている時もありますが、毎月の食費はほぼ変わらずにやりくりをさせております。

 やり方としましては、出汁という最近、エルヴィス家から公表されたスープの下地を使い、かかる費用を抑制する事が出来ました。

 抑制出来た食費を輸入食材やちょっと高価な物にかけています。

 全体の食費に影響が出ないよう、やりくりをしております。

 ですので、過剰な贅沢という物はしていないと考えております。」

「そうなのですね。」

「食費が変わらないのなら、贅沢をし始めたという訳ではないですよね。」

「他のを切り詰めて、ちょっとした贅沢品を買うというのはわかります。

 伯爵家もそうなんですね。」

皆が頷く。

「キタミザト様、先程の話で気になったのですが」

領民達が武雄に質問をしていくのだった。

・・

「ということは、さっきの男の話だと上手く行かないということなんですか?」

いつの間にか周りの商店から椅子が皆に提供され、安くお茶も頼めて、武雄と領民達との青空座談会になっていた。

「私はそう思いますね。」

武雄が頷く。

「私達が政治をすると失敗するのですか?」

「ん~・・・失敗ではないと思うのですけどね。

 言葉が難しいですね・・・ん~・・・整理してみましょうか。

 彼は『権力を有する者達を排除する』と言ったではないですか。

 これは貴族だけでなく、文官や武官方の上層部も含まれるのです。」

「そうなのですか?」

「はい、まぁ各部局の局長や次長、課長さん達ですね。

 彼らは権限が与えられています。

 要はエルヴィス伯爵から決裁権、つまりは『自分の考えで動いて良いよ』という権力です。

 例えば、環境局を考えてみましょう。

 環境局の主要なお仕事は街中のゴミを集め、処理をする。

 これですね。

 でも、先日は大きな催し物・・・例えば挙式や子供が生まれたりしたらお祭り騒ぎになりますね。

 そうするとどうしてもゴミが多くなります。」

「「うんうん。」」

皆が頷く。

「通常の回収している馬車の台数だけでは回収できないという事が発生したとします。

 エルヴィス伯爵が全てを判断するのであれば、ここではいつも通りでは全部回収出来ませんという報告がエルヴィス伯爵にされ、エルヴィス伯爵は多く出されている場所に回収出来るだけの台数を向かわせなくてはいけません。

 さて、ここでエルヴィス伯爵的には毎日こういった事を判断する時間がありません。

 エルヴィス伯爵の本来の仕事とはこういった細々とした対応を判断するのではなく、領内の5年後、10年後の発展を見越して、人を配置したり街中の区分けを考えたり、領内を発展させる為に今必要な政策を考えたり、領内の治安維持、防衛力維持等、判断する事です。

 なので、街中で起きている事は『いや、別にそんな事まで報告しなくて良いよ』と考えるようになります。

 なので、『回収する馬車が足らなくなったら回収して戻って来た馬車をもう1度派遣しても良い権利を与えるよ、だから報告は事後で良いよ』という権力を部下に与えてあげているのです。

 これを他の局ではお金だったり、人の配置だったりと相応の権利を与えていき・・・今の組織が出来ていくのです。」

「「なるほど~。」」

「さて・・・彼が言った『権力を有する者達を排除する』という言葉がありました。

 これは今、私達の生活を支えていた文官方を指しているだけではないのです、各局長から課長、騎士団員、兵士長から小隊長まで細やかな判断をする全員を解雇すると彼は言っていたのです。

 だから私は上手く行かないだろう、むしろどうやって動くのかの指示が出来なくて、さらに混乱をもたらすと考えます。」

「「ん~・・・」」

「では、彼の言う通り、人員や物を独自の判断で動かせる人材を排除して、今のエルヴィス伯爵の地位に何の経験もない人を配置したとします。

 指示をするもされるのも独自の判断をまだした事ない新人達ですよ?

 ゴミの回収と廃棄、税の管理と処理、農業と商業、工業の指導、建築物の申請、治安維持と巡回、魔物が出たら防衛行動・・・出来るんですかね?」

「「「ああー、それは失敗しますね。」」」

皆が頷くのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 〉エルヴィス家が贅沢なんて・・・しているんですか!? むしろしてるんなら教えて下さい。どうやってしてるんですか。 出来てるんならそのほうが自分ら安心できますんで!! とかいわれそうな気がする…
[良い点] >武雄と領民達との青空座談会 これが出来る限り、領主転覆は無いでしょうねぇ。 ぶっちゃけ扇動に乗せられず、キチンと説明を受ければ 納得できる内容ですし、武雄は対応が上手いなぁ [気になる…
[一言] 何の下地も無いところに貴族だけ排除したところで上手くいく訳はないからね。 とは言いつつ、この作品に出て来る人達っていい人ばかりだから案外上手くいくかもと思わなくもない(笑)(実際にはそういう…
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