第2137話 242日目 試験小隊は報告書を作っています。(それって竜騎兵では?)
昼前の研究所の3階 所長室。
「・・・うん、OKだね。
よし、次だ。」
武雄は机の上にごっそりと乗った書類を裁可する仕事を淡々としている。
朝でこそアスセナがどこからか用意した「キタミザト家従業員一同」と札が入った花束でアリスの懐妊を祝ってくれ、その後、試験小隊からも「研究所一同」と札と花束の入ったバスケットをマイヤーが所長室に置いて行ったのだが、その後は特に何もなく、仕事になっていた。
「所長、失礼します。」
開けっ放しのドアをノックしてマイヤーが入ってくる。
「どうぞ~、今見ているのが終わってから聞きます。
それまで待っていてください。」
武雄がマイヤーをチラッと見てから書類に目を向けて言う。
マイヤーは何も言わずにソファに座る。
「・・・なるほどね、OKっと。」
武雄が頷いてからサインをする。
「お待たせしました。
午前の会議は終わりましたか?」
武雄が席を立ちソファに向かう。
「はい、これまでの話とこれからの予定の確認が主な議題ですからすぐに終わりましたよ。
私が作った慣例の戦争の各貴族の配置と防御方法、攻撃を受けた場合の支援方法の列記は出来上がりました。
ご確認ください。
所長が確認後、試験小隊に回して各自で確認をさせます。」
マイヤーが座った武雄の前に書類を置く。
「わかりました。
それで、防御陣地の構築と夜間偵察の方はどうですか?」
「それは今日の夕方の会議で打ち合わせを開始します。
概要はアンダーセンには伝えていますので・・・まぁ初めの会議としては皆に想定の前段階を聞かせて次回までに考えさせるという程度だと思います。
ちなみに試験小隊の面々は今、報告書を書いていると思います。」
「そうですか・・・4m程度の盛土と2m程度の深さの堀、拒馬を使った侵攻速度を落とす方法はどう思いますか?」
「・・・なんとも言えません。
拠点としての設備はそれで良いでしょう。
ですが、私達は10名そこそこの部隊です。
そこまでの陣地構築がすぐに出来るかは・・・」
「ちなみに拒馬を使った侵攻速度を落とす方法はエルヴィス家でも採用してくれると内示が出ています。
向こうでも作ってくれるという事は単価が安くなるという事です。
なので、大量に作る為に比較的簡単に作れる物が良いと言われています。
今回は相当に防御を固める方針のようですよ。」
「なるほど、突撃の威力を和らげ、一度に対応するのは少数とするという事ですね。
・・・考え方はわかります。
拒馬については、積極的に設置するとします。
所長としてはどういう物が良いと思いますか?」
マイヤーが頷く。
「・・・説明が面・・・テトに後で言っておきますから、鈴音に聞いてみてください。」
「わかりました。」
「それとラルフさんの所のSL-05液が塗布されている布ですが、間に合えば私達の拠点内の要所で使うかもしれません。」
「テントですか?」
「そこまで商品化が出来ているかはわかりません。
ですが、例えば、今回コンテナ搭載馬車を持って行きますけど。
コンテナの上部に布の端を取り付けて、下まで下ろしたら休憩所が出来上がりそうですからね。」
「骨組みの所をコンテナに肩代わりさせるのですか。
ですが・・・どれだけ大きな布を用意しても引き下げただけでは座っていたとしても布の高さが低いと言えます。
なので、その休憩所の部分はコンテナの端から直接下にではなく、休憩所の空間の端に何か木でも良いので下地か櫓を作ってそこまで布を割と水平に貼り、下地部分に到達してから下ろした方が空間が出来上がると思うのですが。」
「採用しましょう。」
武雄が頷く。
「採用ですか。」
マイヤーが少し呆れながら言う。
「はい、良い案なので採用です。
まぁ、あとは試験をして骨組み等々を考えれば良いんじゃないですかね。」
「そうですね。
事前の試験は大事でしょう。
コンテナ搭載馬車は何台持って行きますか?」
「・・・最小1台、最大4台くらいですかね。
最低でも簡易厨房を備え付けた物は試験運用させたいのでね。」
「・・・。
わかりました、まぁ最大4台であれば馬が8頭必要ですし、騎乗する方は4名程度でしょうかね。」
「そうですね。
・・・ちなみにマイヤーさん、馬に2人乗りは出来ますか?」
「所長、何を思いついたのですか?」
「いえ、現状で私達が取れる最速の移動方法は馬でしょう?
なので、馬を操縦する人と後ろで射撃をする人が居れば、最速で最大火力を展開し、最速で離脱出来ますよね?」
「小銃の運用方法ですか?
1人で馬で移動し、撃つというのはどうでしょうか?」
「止まってから背負っている小銃を取り出し、弾丸を装填して、撃ち、背中に背負う。
それよりも移動中に弾丸を装填し、止まったと同時に撃ち、すぐに離脱する。
安全が高まると思いませんか?」
「言っている意味はわかります。
それに可不可であれば可能です。
ですが、兵士が2人で乗って最高速度は出せないと思いますよ。
兵士2人が乗る用の鞍もありませんし、馬も慣れが必要でしょうし。」
「逆に言えば、鞍と慣熟訓練が出来れば、あとは時間をかけれれば何とか形になると言われている気がしますが。」
武雄がマイヤーに言う。
「・・・まぁ、やってやれなくはないでしょう。
ですが、特注で鞍を頼むのですよね・・・相当高いだろうと思います。」
「費用ですか・・・はぁ、費用がかさみますね。
どうしたものか。」
「そこをやりくりするのが所長の手腕でしょう。」
「そうは言ってもねぇ・・・」
「とりあえず今出来る事を列記し、その中で陣地をどう作るのか、エルヴィス家に見せないといけないですね。」
「はぁ・・・私達が有用だと示さないとね。
ま、とりあえずは見せられる物がここにありますけどね。
むしろ私としては私達の拠点構築の方が大切になってくると考えています。」
武雄が言う。
「はい、とりあえず、今の事を午後の会議にて皆に教え、想定をさせようと思います。
もしかしたら所長の案より良い物が上がってくるかもしれませんが、構いませんね?」
「はは、むしろそうあって欲しい物です。」
武雄とマイヤーがその後も慣例の戦争の打ち合わせを実施するのだった。
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