第2110話 238日目 武雄達帰国。(シモーナさん達は想定を始めるようです。)
昼前、アズパール王国の関の詰め所前。
「何も起きなかった。
なんでー??」
武雄が幌馬車の荷台で四つん這いになりながらガックリとしていた。
「いや、なんでそんなにガックリとしているんですかね?」
デナムが呆れている。
「何も起きなかったのは良い事じゃないですか。」
ラングフォードも呆れながら言ってくる。
「はぁ・・・小休止していてください。
私は関に挨拶してきます。」
武雄がノロノロと荷台の後方に移動しながら言う。
「「「わかりました。」」」
王都組の3人が武雄を見送るのだった。
「はぁ・・・あ、アーキンさん。」
武雄が地面に降り立つとアーキンが近寄ってくる。
「はい、何もありませんでしたね。」
「ええ、とりあえずは良かったですが、緊張したでしょう。
小休止していてください。
私は関で入国の話をしてきます。」
「了解しました。
今日はこの後、予定通りこの先の村まで行くのは変わらずと隊長に伝えておきます。」
「はい、それでお願いします。
では。」
武雄が関の詰め所に向かって行くのだった。
・・
・
関の詰め所内
「はい、書類の確認を終えました。
キタミザト様、無事のお戻り何よりです。」
受付の兵士が言う。
「ご苦労様です。
いない間に何かありましたか?」
「関の方では特にはありません。
今日の早朝、関間では珍しいワイバーンが集団で飛んでいました。
まぁ、降りる事はありませんでしたが、珍しかったですね。
あとは・・・東町で養鶏場が始まったり、料理が公表され町の酒場やレストランで新商品が並んでおります。
関に常駐している兵士達は休日に食べに行ったりしております。」
「エルヴィス伯爵邸がある街でも始めていますが、東町でも始められたのですね。
皆さんが楽しめているのなら安心です。」
「兵士達が散財してしまわないか心配にはなりますね。」
「食べ過ぎには注意が必要ですね。」
「ええ、皆には注意させます。」
受付の兵士がにこやかに頷くのだった。
・・
・
関の詰め所前。
「受付終わりましたよ~。」
武雄が詰め所から出て来てのほほんと小休止している皆の下に行く。
「所長、お疲れ様です。
行程的に夕方を少し前に村に到着出来る予定です。
関に居た兵士に確認しましたが、道に問題はないとの事です。」
アンダーセンが言ってくる。
「わかりました。
なら、さっさと出立しましょう。」
「了解しました。
総員出立準備!」
アンダーセンが皆に声をかけるのだった。
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ファロン子爵邸の執務室。
「・・・」
不機嫌な顔で窓の外を見ている男が1人、執務机の所に居る。
「・・・事ここに至って何も報告がないという事は失敗か。
はぁ・・・ま、成功しなかったのは残念ですが、失敗したのなら今回来た人間種は強かったという事。
次は戦場で相まみえましょうかね。」
不機嫌な顔のままそう呟くのだった。
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ファロン子爵邸がある街の銀の月商店内の客間。
シモーナとシモーナの旦那、店の上役達が勢揃いしていた。
「旦那様、奥様、その決断はわかりました。
ですが、その話はどの程度の信憑性があるのですか?」
「聞いたのは飲みの席という所はあるけど・・・大問屋の者から。
その者は王軍の第2軍の補佐官から聞いたと言う事さね。
はっきり言えば幹部からの話という事だね。」
「「・・・」」
シモーナの言葉にその場の皆が頷く。
「王都の・・・陛下のご意向が出るという事は統治組にとっては昇進に近い形になるだろう。
一族としては喜ばしい限りと言うしかない。
事務組としては新領地で早々に各商売、各農地を引き継ぎ、調査と確認をし、領内を仕切らないといけないという事を考えれば異動の辞令が出されたなら騎士組よりも先に入って調整をしないといけないというのは当然の考えだ。
だが・・・たぶん統治組、騎士組、事務組に関わらず数家族は移住をせずにこの地に残りたいと言うだろう。
そう言った者達をまとめる為に誰かが残り、この地を統治する者と交渉をしないといけない。
それと引継ぎもする必要がある。
それに現状で隣国のキタミザト様と王都との輸出入業を生業としている我が家族は異動をしても一からの事業になってしまう事を考えれば残ってもまだ細々と生きていけるという物だ。」
シモーナの旦那が言う。
「これは正式に決まっている事ではないさね。
だから、いつ、どこにという事がわかった訳ではないさね。
あくまで商人達の間で話された噂話の事で、もしかしたら今年末か来年に陛下が裁可される可能性があるという段階さね。
なので、これを誰かに言った所で正式に決まっていないのだから相手にされない内容さね。
一応、この場にいる全員には噂の段階であってもこの内容をこの部屋以外で話題にする事を禁止するさね。
下の者達には絶対に言ってはならないからね。
不安を助長するような事も一切禁止さね。」
「「「・・・」」」
皆が黙って頷く。
「皆も知っての通り、酒の席の商人達の噂話は嘘がほとんどだ。
だが、極稀に正解が混じっている事がある。
なので、領地移動が無いに越した事はないが、領地異動という事態が本当に起こってしまった場合に皆が動揺しないようにする為に今話しているんだ。
そしてその時に我が家はここに残るという選択肢をする。
この事を皆に知っておいて欲しかった。
この地に残ってくれとは言わない。
ここに居るのは私達夫婦が独り立ちも出来ると思っている者達のみ。
新領地に行けば、新しい商売をすぐに出来るかもしれないし、自らの店を持てるかもしれない。
必要なら知り合いに君達の雇用をお願いをしても良い。
要は・・・どうしたいか、それを各々で考えろという事だ。
便宜は図ろう。」
「何回も言うけどね。
これは噂話さね。
なので、噂をこの部屋以外で言ってはならないさね。
だが、その一方で噂が本当になった際の事を真剣に考える事を始めて欲しいから教えたさね。
真剣に自身の将来を考える機会ととらえて欲しいさね。」
「「「・・・」」」
シモーナの言葉に皆が真剣に頷くのだった。
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