第2094話 寄宿舎にて。(仕合に出ますか?出ませんか?)
寄宿舎の食堂に向かう廊下。
「・・・」
ジーナが廊下の壁に掲示されている紙を見ている。
「あれ?ジーナ、どうしたの?」
エイミーとドネリーがやってくる。
「エイミー殿下、ご機嫌麗しく。」
ジーナが綺麗な挨拶をする。
「はい、ご機嫌よう。
で、どうしたの?」
「いえ、この掲示物なのですが。」
「ん?ああ、御前仕合と御前競技会のお知らせね。
毎年恒例ね。」
「これは・・・王立学院の者も出て良いのですか?」
「1年生はちょっとわからないけど・・・出られるわよ。
一応、王立学院の授業でも剣技はするしね。
力試しをしたい子が出るわね。
ちなみに魔法師専門学院の学生は出られないわ。」
「そうですか・・・」
「ジーナ、出るなら言ってね。
ジーナに賭けるから。」
エイミーが堂々と賭博を宣言する。
「・・・これ、賭け事なんですか。」
「公的には認めてないわ。
でも街中でそういった事をする者達がいるのよ。
ちょっとした毎年の娯楽なのよね。」
「不正とかは?」
「御前仕合は多少はしていても不思議はないわ、御前競技会においては無いわ。
そもそも御前仕合のみに賭け事をする事を見逃しているからね。
要は国民の娯楽を取ってはならないという事よ。
もちろん、行き過ぎた事をするのなら普通に傷害や殺人未遂事件として取り締まるわよ。
ちょっとした買収程度だと取り締まれないし・・・物証も上げられないし・・・
ま、御前仕合はお祭りみたいな物よ。」
「御前競技会はどうなのですか?」
「あれは騎士団や兵士達の剣技の研鑽を披露する場だからね。
名誉しかないし・・・あ、そういえば第一研究所のアルダーソン男爵は地方の騎士団からの出場で唯一の上位入賞者よ。」
「・・・そうなのですか。
ですが、確かご主人様と大して歳が変わらないですよね?
今のご年齢でとは考えられませんので、昔の話なのですよね?
となると結構な期間、地方の者が上位に食い込んでいないという事になってしましますが。」
「うん、それほど、地方と王都では兵士の質で開きがあるという事を証明してしまっているわ。
はぁ・・・困った物ね。」
エイミーがため息を付く。
「王都が強いと良いのではないでしょうか?」
「見方にもよると思うわよ。
私達王家や王都の文官達からしたら王都が強いというのは理想上は良いわ。
でも地方領から観たら事情は異なるでしょうね。」
「・・・脅されている?」
「そうまでは言わないまでも・・・ね。
まぁ、質を高め、量を少なくして均衡を取っているのは確かよね。
兵士数では各国境を維持をさせる名目で地方の方を多くしていると思っているわ。」
「そうなのですか?」
「王都が本気で兵士を雇うなら今の5倍は用意出来るわよ。
組織的にも費用的にもね。
でも、それだけ雇用しても何に使うのかという所が微妙ね。
王都を維持するのには現状の人員で十分なのよ。
地方に圧力を与える為に大量の兵を雇うというのは意味がないわ。」
「それは確かに。
王都の兵力はどのくらいなのですか?」
「ん?・・・あー、あれはまだ1年生には教えないか。
軍務局所属の第1騎士団500名、第2騎士団500名、兵士500名。
警備局所属で捜査兵300名、警備兵800名よ。
これが王都の戦力ね。」
「王都守備隊は入らないのですか?」
「王都守備隊と王立3研究所は陛下直轄軍よ。
兵士数も王都守備隊120名、研究所が各20名も居ないし、戦力としてはどうなのかな?
それに、ある意味、アルダーソン男爵とタケオさん・・・キタミザト子爵は陛下直属の貴族になってしまうわね。」
「貴族の皆が陛下の直轄かと思いますが?」
「あー、そうだったわね。
ま、そこは良いのよ。
要は、王都の維持としては今のままで良いし、地方領と国境は地方貴族に任せているという事よ。
そして、やっぱり魔法師専門学院の上位者が入る王都の方が質として有利となっているのよ。」
「はぁ・・・エルヴィス家は確か1000名しかいないのですけど。
王都より少ないですね。」
「・・・まぁ、エルヴィス伯爵領はね・・・
あそこの兵士達は王都の騎士団が一目置く兵士達だし。」
「え?そうなのですか?」
「うん、アズパール王国内で一番の実戦経験部隊で自己規律と領主への忠誠、領地愛がとてつもなく高いのよ。
スミスが来る時に兵士達が王都に来てくれたでしょう?」
「はい、ご一緒しました。」
「・・・エルヴィス伯爵領出身者は全員騎士団に編入よ。
他の地方出身兵は兵士か警備局配置にも振り分けられたと聞いているけどね。」
「待遇が良くなったようで何よりです。」
「そうね・・・それが大事よね。」
エイミーが頷く。
「それでジーナ様、この募集要項を見て何を考えておいででしたか?」
ドネリーが聞いてくる。
「いえ・・・これは貴族は出るべきなのか否かなのですけど。
ドネリー様、どう思われますか?」
ジーナがドネリーに聞く。
「ん-・・・強制はないですよ。
でも、王立学院の男子生徒は一度は出るというのが慣例と言うか習わしというか・・・おモテになりたいと考える方々が多いのですよね。」
ドネリーが困ったような顔をさせる。
「そうなのですか・・・んー・・・男女一緒ですよね?」
「そうね、男女別ではないわよ。
ジーナは大丈夫じゃない?」
「私は良いのですけど・・・スミス様が女性に対して戦えるのでしょうか?」
「んー・・・なら、今後の訓練で女性隊員と戦わせて貰えば?」
「はい、そうします。」
ジーナが頷く。
「で、ジーナは出るの?」
エイミーが聞いてくる。
「賞金は魅力的ですが・・・でも、この募集要項って大丈夫なんですか?」
「ん?なんでそう思うの?」
「いや、この条件だとご主人様やアリス様、ビエラが出られますよ?」
「・・・・・・後で総監局に言っておくわね。」
エイミーが目を泳がせながら言うのだった。
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