第2090話 コショウで悪巧み。1(囲い込むという戦略。)
魔王国王都のレバントの店。
「キタミザト様、私の付き合いのある問屋からコショウの見積もりが来ましたよ。」
レバントが店内でシモーナとお茶をしている武雄の下にやってきて、見積もりを武雄の前に置く。
「来たのですね。
で・・・私が見ても良いのですか?」
「まぁ、キタミザト様ですし。
私達がこの価格から利益を見込むのはわかってくださいますからね。問題ないですよ。」
「なら、さっそく拝見。
・・・ベッリ男爵領産黒コショウ1kgが銅貨80枚・・・これが問屋の売値という事ですね?」
「はい、これで仕入れていますよ。
キタミザト様向けには少々利益は乗せますけど。」
レバントが頷く。
「それはしょうがないですよ。
・・・で、レバントさん、問屋さんにある在庫はどのくらいでしたか?」
「私がお付き合いしている問屋は割りと大きいのですけど、それでも現状で20kgしか在庫はないですね。
キタミザト様が欲しがっている『出来るだけ』というのは逆にわからないのでいくら欲しいのか聞いてから仕入れ元に話を持って行くと言っていましたよ。
で、さっき王城に行ったらダニエラちゃんがベッリ男爵領の商店宛の紹介状をくれたわ。
だから、まぁ・・・いつもより少しは多く入手出来ると思いますね。」
レバントが言う。
「ふむ・・・ある程度払って囲い込むか・・・
・・・なら、出来れば月々20kg、年240kg、最大では月々100kg、年1200kgを用意して欲しいですね。
あ・・・それは止めます。
月々40kgで年480kgをお願いしたいです。」
「・・・どちらにしても大量買い付けですね。」
「ま、アズパール王国で売る気ですからね。
私としては480kgあればとりあえず問題はないですし、対応出来るか確認をして貰ってください。」
「わかりました。
で、キタミザト様が思いを変えた理由は何ですか?」
レバントが頷き、そして聞いてくる。
「・・・私がアズパール王国内で売り始めたのなら、魔王国に面しているもう1つの貴族領であるゴドウィン伯爵側から買い付けに来る者が現れるかもしれませんのでね。
あまり多くを入れない方法を取ろうと思ったのです。」
「現状、対アズパール王国向けの輸出入は私とシモーナさん、そしてキタミザト様の流れでしかしておりませんし、同業内でも聞いた事はありませんよ。
ま、やっているとするならそのゴドウィン伯爵領に面しているパーニ伯爵領の商店でしょうけど・・・王都で活動しているとは聞きませんね。
王都で私のように代理を立てているとも聞きません。」
レバントが言う。
「それは今は・・・ですよ。
このコショウというのは使い勝手が良い為、我が国での需要は高いと私は見込みます。
さらに、現状では魔王国でのみ生産をしている。
となれば、輸入量が少ない為、販売価格を少し高めで売っても良いわけです。」
「15%の利益増しでは売らないという事ですか?」
「もう少し高めにしますよ。
となると、売値が高い場合、私達を通さずに輸入しようとする者が現れるでしょう。」
「なるほど・・・キタミザト様はそうやって乗り込んで来た者をどうにかしたいのですね?」
「ええ、まぁ・・・いつかは15%ずつ乗せる程度の価格で流通出来るようになるでしょうけど、それにはかなりの量のコショウの輸出が魔王国で出来ればとなります。
それまではある程度の高値で売らせて貰いたいですね。」
「ふむ・・・キタミザト様、それを私達に言うという事は私達に動いて欲しいという事ですよね。」
「ええ・・誰も手を付けていないから、最初に輸入するからこその悪巧みですね。」
武雄がにこやかに言う。
「「ふむ・・・」」
レバントとシモーナが考える。
「キタミザト様の悪巧みは何をするのですか?」
レバントが聞いてくる。
「やり方は簡単ですよ。
その問屋さんに月々40kgを出荷するなら1kgを銀貨2枚で買うと言えば良いのです。
もちろん、魔王国内の流通価格を上げる気はありませんから魔王国内での価格は今まで通りで結構です。
あくまで『対アズパール王国向けの価格が』と言って集めたいですね。
変に価格を上げて魔王国内の人達に迷惑はかけられませんから。
もし、店頭価格が上がる様ならその問屋からは仕入れないとします。」
「それは・・・厳しいですし、内容が変ではありますが・・・ん?キタミザト様、40kgを出荷と言うのですか?」
「はい、39kgでは1㎏当たり店頭価格で買い取ります。
41kgなら40kgは銀貨80枚で買い取りをしますが、超えた分の1kgは店頭価格で買います。
もちろん品質が悪かったら今後取引はしません。
これをレバントさんと11年契約で結んで貰います。
もちろん、価格を銀貨2枚以上に要求してきたら取引終了です。」
「私はあくまで店頭に並べていない余剰分で対アズパール王国向けの黒コショウを40kg売るのなら1kg銀貨2枚で買い付けをするという契約を結べば良いのですね?」
「ええ、そうすればその問屋は同業他社からか、もしくは生産地に赴き、銀貨80枚内で480kgを集めてくれると思います。
残りは利益ですからね、相手に取っては美味しい餌を用意してあげますよ。」
「キタミザト様、つまり・・・パーニ伯爵領の者が買い付けに来た際にも銀貨2枚で買わせるという事ですね?」
「うん・・・まぁ、そうです。
ですけど、店頭価格が銅貨80枚なのに銀貨2枚を出す事を買い付けに来た者は許容するのでしょうかね?
私ならとりあえず抗議しますけど。」
「・・・キタミザト様、それは質の悪い悪巧みですね・・・
それはつまり商店と問屋が言い争うという事になってしまいますし、問屋からすれば『嫌なら買わなければ良い』という事になってしまいます。」
シモーナが言う。
「それに同業他社の所で獣人系の者がコショウを買い始めても、獣人系が買い付けする事自体が珍しいだろうから話がすぐに伝わって、うちの問屋が血相を変えて止めにかかるだろうね。」
「まぁ、その問屋にすればレバントおばさんにこの事が伝わったならレバントおばさんの心証を悪くさせたくないだろうしね。」
レバントとシモーナが難しい顔をさせながら武雄の計画が実効性が高いと思うのだった。
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