第2067話 武雄の狙いは何があるのか。(どこまで話して良いのやら。)
「キタミザト殿、そうするとデムーロ国からのウィリプ連合国へ輸送される奴隷はオークやオーガ、狼等の魔物が多くなると思われますが、そこはどう考えておられますか?」
アンナローロが武雄の横に立ち、聞いてくる。
「それは良い事でしょう。
まぁ、客先であるウィリプ連合国が何と言うかはわかりませんが、少なくとも獣人やエルフ、魔人は手元に届かないという事になりますね。」
武雄が目線を地図に向けたまま言う。
「・・・」
アンナローロが少し訝しがりながら武雄を見ている。
「腑に落ちませんか?」
武雄がアンナローロに目線を向けて言う。
「はい。
今回、へい・・・ダニエラ様の要請で侵攻案を提示して頂きましたが、先ほどの案はキタミザト殿の独創性が高く、素晴らしい案だとは私程度の者でもわかります。
ですが、この場で言わなくても良い内容だったのではないでしょうか。
キタミザト殿はアズパール王国の方です。
今回の案を出さなければ我が国との戦争で優位に立てたはずです。
なのに、有効な侵攻計画をこうも安易に教えるというのが・・・キタミザト殿のお考えをお教えください。」
アンナローロがハッキリと言う。
「それは・・・私が違う事を考えているから。
この作戦を教える事で私の思惑が何なのかわからないからですね?」
「はい、思惑は無いと言われるかもしれませんが・・・」
「ありますよ。」
「あるんですか!」
「当然です。
確かにアンナローロ殿の言う通り、作戦を教えない方が良いという判断は妥当です。
普通なら他国の作戦に意見を言うのは不適切なのかもしれませんが、そこはダニエラさんやカールラさんの信頼を得る為というのも1つありますし、この国の幹部に隣国に安易な戦争をすれば何かをしでかす可能性がある者が居るという事を知らしめ、警戒心を生み出す事に繋がると思います。
それが戦争抑止になるのなら良いと考えました。
それに責任のない戦争計画を立てるのは楽しいですからね。
あーだ、こーだと好き勝手言えるのは楽しいですよ。」
武雄が言う。
「・・・それだけですか?」
「・・・んー・・・まぁ良いか。
アズパール王国所属の貴族という立場では、ウィリプ連合国への打撃を与える機会があるのならアズパール王国の為に多少知恵を出すのは当たり前だと思いますよ?
ついでに言えば、さっきの領土半分を割譲するやり方ですけどね。
魔王国への悪感情を全部デムーロ国の施政者に向かわせられるのか・・・という実験でもあります。」
「実験ですか?」
「ええ、経緯はどうあれデムーロ国で生活をしている一般の人々にとって魔王国は侵略者です。
全土を占領すれば日々の辛さ、貧しさ等々は全て魔王国のせいに出来ますが、領土割譲にするとその矛先が自分達の施政者に向くのかどうか、ある程度軽減出来るのか試してみたいのです。」
「我が国を実験台に?」
「ええ、アズパール王国では出来ませんし、それにこのような大規模な実験はしてみないとわからない。
目の前に実施してくれる可能性がある事案があるのなら提案してみたいと思うのが普通でしょう?
それにダニエラさんが自由に発言しても良いと言われていますしね。
私はやってみたい事の概要を提案しただけです。
あとは実施するかしないか、具体案をどう考えるかは魔王国の方々が決めれば良いだけです。」
武雄が言う。
「・・・なんだか、はぐらかしていませんか?」
アンナローロが武雄に言ってくる。
「いいえ、そのつもりはありませんよ。」
武雄がにこやかに言う。
「ふむ・・・楽しそうというのは本心ではあるだろうがな・・・その前のウィリプ連合国に打撃をという所が引っかかるな。
キタミザト殿、ウィリプ連合国の情勢はしっかりと押さえているか?
それとなく我も聞いてはいるが、どうだ?」
黙って武雄とアンナローロの問答を聞いていたヴァレーリが考えながら言ってくる。
「・・・はぁ・・・気が付いてしまいましたか。」
「キタミザト殿が言ったのだがな?」
「言った直後に口が滑ったと後悔しましたけどね。」
「ふむ・・・で?」
「それは・・・はぁ・・・まぁ・・・仕方ないですか。
それは4年半か5年後の我が国に対するウィリプ連合国とカトランダ帝国が同時侵攻を仕掛けるという事の話ですよね。
良く知っていましたね。」
武雄が言う。
「・・・そこまでは知らなかったがな・・・
我が第4軍のウィリプ連合国に居る者から報告があって、ウィリプ連合国はアズパール王国に戦争を仕掛ける可能性が大であるとな。」
「あ~、ウィリプ連合国で冒険者の貸し出しをしていたイルダさんですかね?
一度会いましたけど、店番を頑張っていましたよ。
ちゃんと報告書も出しているんですね。」
「はぁ・・・キタミザト殿は色々知り過ぎているぞ・・・
そのイルダの報告ではカトランダ帝国というのは出てこなかったな。
それはどういう事だ?」
「たまたまカトランダ帝国皇帝がお忍びで遊びに来られたので、我が国の陛下と打ち合わせをしていますし、現在、我が国の陛下がカトランダ帝国に行って再度の打ち合わせをしているはずです。」
「ん?カトランダ帝国がウィリプ連合国と一緒にアズパール王国に攻めるのではないのか?」
「カトランダ帝国皇帝と我が国の陛下の話では、カトランダ帝国は宣戦布告なりをしてアズパール王国に一旦攻める構えは見せるが、時期を見て反転、ウィリプ連合国の東北にあるバンデラス国を侵攻します。
我が国はウィリプ連合国軍と正面から戦い、ウィリプ連合国の東にあるファルケ国に侵攻する予定です。」
「ふむ・・・アズパール王国も大変だな。
まぁ一応聞いておこうか。
ウィリプ連合国の侵攻軍の総数とアズパール王国の対峙戦力は?」
「ウィリプ連合国の侵攻軍は12000名と想定しています。
我が国の対峙戦力は初期は面している地方領で約5000名、カトランダ帝国とのにらみ合いが終われば後続として4000名が合流。
王家と王都軍を合わせて1500名がこれも後続として合流でしょう。」
武雄が正直に言う。
「・・・数の上で初期から負けているな。
キタミザト殿達は出るのか?」
「・・・現状としては魔王国に面している貴族の召集はないとなっています。
ですが、私は王立研究所ですからね。
約60名を率いて参戦ですよ。」
「数の上で何も期待が出来ない数だな。」
「私には戦力は預けられていませんからね。
なら頭を使うのみです・・・ですが、残念ながら私は対魔王国の対応が主任務です。
今回の対ウィリプ連合国との侵攻計画は王都や私の同期の王立第一研究所の所長が担いますよ。
私はその補助です。」
「・・・それはそれで大変そうだな。
で、ウィリプ連合国への打撃を与えるという事は・・・戦争に出させる奴隷の事を言っているんだな?」
ヴァレーリが聞いてくるのだった。
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