第2066話 全部を併合しない方法。(そういえばグリーンカードはあるんですよね?)
「昨日のドラゴンロードと妖精王とダニエラさんの話を聞いた限りでは、国民の誘拐に対しての制裁が今回の大前提ですよね?
デムーロ国を全域併合する事が目的ではないと捉えましたが・・・どうでしょうか?」
「確かにな。
だが、敵首都を落とし、その国の王を倒すという事は国一国を併合すると同意義だと思っているよ。」
ヴァレーリが言うと周りも頷いている。
「・・・ふむ。
では、2つ目、デムーロ国を併合した場合、今までウィリプ連合国相手に奴隷船・・・輸送船の運航をしていたのを引き継ぐと言っていました。
これは隣国との関係において実施しなければならないという事でしたね。」
「ああ、今はやるしかない。」
「ですが、魔王国では昔から奴隷は禁止している。
なのに、奴隷を運ぶ船の運航をする。
これは大きな政策の不一致であると考えられます。」
「そうだ。
・・・痛い事を堂々と・・・参ったなぁ。」
ヴァレーリが困った顔をする。
「で、あるのなら・・・大前提が間違いなのです。
デムーロ国は三角州。
突端に行けば行くほど領地が狭まります。
そうですね・・・この位置に国境を設けましょうか。」
武雄が地図の上に指示棒を置く。
「国民誘拐の代償は国土の北半分を割譲し併合する事。
ウィリプ連合国への輸送は魔王国として何か言う物ではないが、魔王国の国民にまた手を出すなら次こそ容赦はしない。
これが戦争終結時の文言となります。」
「敵国王を討たないというのか?」
ヴァレーリが表情を変えずに聞いてくる。
「討っても結構です。
首のすげ替えをすれば良いだけですからね。
デムーロ国の王も親族や親類はいるでしょうからそこから次の王が選ばれるんじゃないですか?
ダニエラさんは交渉出来る者を席に着かせるようにと向こうの者に言えば良いだけです。
あとは向こうの政情は向こうで判断すれば良いだけ。
デムーロ国の王の選定に一言も魔王国が要望を言ってはなりません。」
武雄が言う。
「・・・続きを頼む。」
「さて、討たないのなら現国王が、討ったならば代理の国王に降伏調印をさせ、領土割譲を認めさせて、デムーロ国内にその事実を一気に広めます。
そして、割譲する領土内に居る者にさっさと南に移動するなら何もしない、残る意思を示すも魔王国に敵対的な者は財産5割を没収し南に強制移動、恭順を示す者には国民と認定しますが、今後、反抗したなら親族全員の全財産没収し、デムーロ国に国外退去させるという誓約書を書かせれば良いのです。
そして領土割譲までの期限は2週間。
それを過ぎた場合、誓約書を提出しないで国内に残る者は全財産没収の上、デムーロ国に強制退去して貰います。」
「中々に恨まれるやり方だが・・・キタミザト殿の言いたい事はわかる。
不穏分子を南側に集めてしまうという訳か。」
「はい、そしてウィリプ連合国向けの輸送船も南の都市に移動させます。
これがあれば向こうの生計はある程度見通せるでしょう。
そしてこの指示棒の置いた位置に関を1つだけ真ん中に用意し、他の所は越境が出来ないように分厚く高い壁で封鎖します。
魔王国の最大の目的は自国民が奴隷になっていないかの確認をする事なので、隣国からデムーロ国への商品を調べられる場所を設ける事が重要なのです。
その為には関は1か所のみで他の場所からは流入させないように国境警備は厳重にしなくてはいけません。」
「出入口は1つか。
だが、対応するパーニに限らず、関に居る兵士が輸送されている者達が我が国の国民かの確認は出来ないと思うが?」
「でしょうね。
ですが、兵士達や領主は今回の王軍の苛烈な行動を見ています。
ここで国民が誘拐されているのを見逃す事は自身も領地も危うくなるという危機感があるはずです。
・・・私なら輸送されている中に各領主の種族が居た場合、国民か否かはその場で判断せず、まずは保護をします。
王都並びに各領主に連絡を取り、確認したのちに国民でなければ解放します。」
「そんなに迅速に確認なんて出来ないと思うのだが?」
「はい、出来るわけありません。
最低でも2週間はかかるでしょうね。
まぁ1か月くらいかかってしまうかもしれません。」
武雄が「当たり前ですね」と頷く。
「まさか・・・キタミザト殿、意図的に遅らせるのですか?」
フレッディが言ってくる。
「違いますよ?
業務を意図的に遅らせるのはただの職務怠慢です。
ですが、確認作業は各領地での聞き取り等々手順が多いはずです。
なので、結果的に遅れてしまっても致し方ないと言っているだけです。」
「・・・そんな事をすれば荷物の納期に遅れてしまうと思うのだが?」
「残念ながら遅れてしまうでしょうね。
そうなると船も離岸してしまって乗せられないでしょうね。
商売が成り立たないので魔王国に籍を置いている種族は少なくとも輸送船では送らないかもしれませんね。」
武雄が頷く。
「・・・そうなれば国民を守れる確率は増えそうだな。
だが、もし魔王国の国民でなかったらどうするんだ?」
「・・・輸送業者に引き渡せば良いんじゃないですか?
まぁ保護している間にご自身の意志で国民になっている場合もあるかもしれませんけどね。
魔王国は多種族国家ですよね。
そういった国には『出身地や種族を問わず、国の兵役に志願すれば我が国民と認める、正し、兵役を最低5年就いた後に正式に書類を発行する』という類いの法があるんじゃないですか?
お預かりしている荷物の確認はさせて貰いますけど、一切をしゃべるなというのは無理な話ですから・・・自らの意志で魔王国の兵士に志願されてしまっては法の手前、国民と認めない訳にはいかないですよね。
私達は法治国家なのですから。」
「!?・・・ああ!あったなぁ!ふふふ・・・失念しておったわ。
第1軍指揮官、後で内容を確認しような。」
「はっ!了解しました。」
「うんうん、当たり前すぎて忘れてしまったな。
いや~、キタミザト殿には思い出させてくれた事に感謝しなくてはいけないな。」
ヴァレーリが頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




