第2065話 情報は戻させないし、前線にも届かせない。(首都攻防前に主力は周辺に展開させる。)
「そうだな・・・普通の兵士なら3名は行けるか?」
ヴァレーリが第4軍指揮官を見る。
「・・・頑張って4名ですね。」
第4軍指揮官が難しい顔をさせて言ってくる。
「一度に運べる総数は?」
武雄が聞く。
「・・・3個中隊分、600名かと。」
「・・・ここからここまでの輸送時間は?」
武雄が地図に近寄り、指示棒を取ってデムーロ国の魔王国側の関の後ろとブリアーニ王国の集結地を指す。
「・・・鐘1つも必要ありませんね。
往復で鐘1つとお考えください。」
第4軍の指揮官が言う。
「・・・開戦2日後にここに第4軍とダニエラさんを輸送するのは可能ですか?
出来れば第4軍全部を持って来たいですけど。」
「大丈夫です。
1日がかりになりますが、その日の夕食までには終わります。」
「キタミザト殿、魔王国の関を挟み撃ちにするのか?」
「ええ・・・ただ、そうすると・・・この辺に町があった場合、首都に通報されそうですよね・・・」
武雄が首都と魔王国の関の間を指示棒でなぞりながら言う。
「ちなみに・・・三角州ですから三角州の突端への街道があるはずです。
それは魔王国の関から海岸線に沿って行くのですか?
それとも首都に向かって街道があって中間辺りから南下する道になるのですか?」
武雄が幹部達を見ながら言う。
「両方があります。」
「両方かぁ・・・となると町は確実にあるな。
・・・この辺りに三角州の突端から首都に向かう街道と魔王国の関に向かう街道の合流がありそうですから、ここに展開させて情報を止める方が有益か。」
武雄が首都の南側を指示棒で指す。
「先ほどの挟み撃ちはなしにして、ここに主力軍が首都に到着する前日に第4軍が展開する事に問題はありますか?」
「ありません。」
「そうですか・・・そうかぁ・・・
なら、ダニエラさんは第4軍と共に首都攻撃の3日前にここに着陣、第4軍が陣地を構えると共に主力が首都に突入するのと同時にダニエラさんも行動に移すという所ですかね。
もちろん首都から出た伝令は全て捕縛というやり方が良いですし、首都から発見がされない位置があればですが。
ダニエラさん、とりあえず、首都攻撃の前段階まではこんな感じです。
あとは実務者で考えてください。」
武雄が顔を上げてヴァレーリに言う。
「・・・はぁ・・・呼んで良かった。
キタミザト殿、協力ありがとう。
中々に参考になった。」
ヴァレーリが武雄に頭を下げると、室内の皆も頭を下げる。
「いえ、私は机上の空論を示しただけです。
私としてはこういうやり方をすれば味方の被害が少ないと思えたので提案させて貰っただけです。
いうなれば私の想定は敵の攻撃は皆無と考えてのやり方です。
あとは実際に軍務に付かれる方が肉付けしたり、削ぎ落したりしてくれればもっと良い案が出るのではないでしょうか。」
「あぁ、そうだな。
キタミザト殿はある意味、敵の動きを封じるのが得意なようだ。
これは我が国としては無い考えだったな。」
「いえ、最初に起案された方法は前線の兵士が混乱しない方法です。
言うなれば王道であり、堂々とした侵攻作戦です。
私が取ったのは分散攻撃であり、味方の死傷者を減らす事を目的としています。
ですが、こちらの思惑が外されてしまうとすぐに侵攻方法の見直しが必要になってしまいますので、相手の動きを監視するとともに自分達の動きも管理し、何があっても即応出来るように常に緊張を強いる作戦です。
余裕があるのであれば、敵に一当てしたら後方に下がり休む、その間に違う軍がまた当たるという、戦闘部隊を常に交代させられる最初の作戦こそが兵士に無理強いをしない安心した侵攻方法であると思います。」
「ふむ・・・なるほどな。
キタミザト殿はそう評するか。」
武雄の言葉にヴァレーリが頷く。
「カールラ、何かあるか?」
「私は大人しく皆さんの帰りを待ってるわ。
この侵攻作戦に付いていける自信ないもの。」
「ふむ・・・まぁカールラには物資の集積地という役割があるのだがな。」
「そのぐらいなら管理はするわよ。」
「各占領した町や村にドラゴンを使って物資の輸送をし、各軍への補給と住民への懐柔を行わなくてはいけないからな。
上手く輸送量を振り分けて貰いたいな。」
「となると相当な物資が集まるわね。
食物の品質を維持するのも大変そう。
王軍に腐った物とか食べさせるわけにはいかないし。」
「ある意味、カールラ達が我らの命運を握っていると言っても良いぐらいだな。
皆の食事を確保するのが戦争では一番大事だからな。
次に壊れた武具の交換だ。
カールラ、地味だが重要な役割を任せる。」
「任された。
と言いたいけど・・・ドラゴンが私の言う事聞くかしら?」
「聞かなければ我が談判しに行ってやる。
安心して働かせば良い。」
ヴァレーリがブリアーニに言う。
「・・・」
武雄がヴァレーリとブリアーニの会話には参加せず地図をジーと見ている。
「・・・キタミザト殿、気になる事がまだあるのか?」
ヴァレーリが聞いてくる。
「気になる・・・気にはなりますが、怒られそうで聞けません。」
「怒らんぞ?」
「いや・・・ん~・・・」
武雄はそうはいうが目を地図から離さないで悩んでいる。
「平気だ。
キタミザト殿とカールラなら我は怒らないと言っている。
ここにいる面子は心の中でどう思おうが表情にはださん。
我の顔を潰すような真似をする輩はいないからな。」
ヴァレーリが堂々と言う。
「そうですか・・・ならお聞きしますが、魔王国の目標はデムーロ国の全域支配でなくていいんではないですか?」
「ほぉ、大前提に疑問か。」
ヴァレーリが目を細めて聞き返すのだった。
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