第2048話 鈴音の悩み。2(スニーカー作ってくれるって。)
ラルフの紹介した靴屋にて鈴音が店長に熱心に話をしていた。
鈴音の話を聞いていて店長が若干、険しい表情になっていたのだが、最後までしっかりと聞いていた。
「はぁ・・・なるほど、そういう事か。」
店長がため息を吐き、若干顔を下に向けると眉間や首を揉んだりしながら言ってくる。
「あの・・・どうでしょうか?」
鈴音が恐る恐る聞いてくる。
「まぁ、待ちなさい。
はぁ・・・ここに来る前に何軒か行ってきたんだな?」
「はい、3軒ほど回ってアリスさんとラルフさんに会ってここに連れて来て貰いました。」
鈴音が言う。
「その3軒、最後まで嬢ちゃんの話を聞いてないだろう?」
「え・・・はい、途中で怒り出して・・・」
「だろうな・・・最後まで聞けば嬢ちゃんの言いたい事はわかるが、途中で怒りかねん内容だ。
俺もアリス様とラルフさんが居なければ怒ったかもしれん。」
「その・・・すみません。」
鈴音が恐縮する。
「いや・・・了見が狭い俺達が悪いのだろう。
だが、お嬢ちゃんの説明も中々、辛辣だ。」
「そう・・・なのですか?」
「ああ、お嬢ちゃんは現状の靴の事をしっかりと見て、確認してきてくれている。
ある意味客としてこれほど話しやすい相手はいないだろう。
だが、正直に言い過ぎだ。
そのゴムと言ったか?
それを使っての利点が問題だ。
今の俺らが作っている革靴の欠点を補ってしまっている。
これは職人上がりの者達は怒るだろう。
自分達が今まで磨いてきた技が意味がないと思わせるのだからな。
まぁ・・・だが、お嬢ちゃんの最後の将来の展望を聞けば、やらないといけないのだろうな。」
店長が疲れた顔をさせて言う。
「なら?」
「ああ、お嬢ちゃんの言い分は真っ当だ。
お嬢ちゃんの望む靴を作ってやろう。」
「ありがとうございます!」
鈴音が立ち上がり頭を下げる。
「ただし、条件がある。」
店長が言う。
「・・・はい。」
鈴音が座って姿勢を正す。
「その・・・ラバーソールと言ったか?
それを俺の所に納入して貰う。
そして革靴に使う事を許可して貰う。
これが条件だ。
どうだ?出来るか?」
店長が言ってくる。
「はい!わかりました!
あ・・・でも、これを作ってくれる工房まだ見つけてなくて・・・キャロルさんの所かなぁ?」
「ん?お嬢ちゃん、それは誰が作ったんだ?」
「私です。」
「なに?」
鈴音の言葉に店長が訝しがる。
「なら、ここからは私が代わりましょう。」
大人しく話を聞いていたラルフが口を挟んでくる。
「あ、はい、おねがいします。」
鈴音が頷く。
「シリルも良いですね?」
「ああ、だが、ラルフさん、どういうことだ?」
シリルと言われた店長(本名:シリル・アマースト)がラルフに向かって言う。
「どうもこうもスズネさんがそれを作ったんですよ。
で、シリルがそのゴムという商品を欲しいと言ったからスズネさんが工房を探そうと言っているだけです。」
「いや、そうじゃない。
この嬢ちゃんが何でこんなものを作れるんだ?」
「あぁ、そこ?
彼女は王立 第二研究所 研究室所属のキタミザト様の配下です。
このゴムも彼女が靴を作りたいから作った物ですよ。」
「キタミザト様・・・アリス様の?」
「ええ、だからアリス様が来ているんですが。」
「いや、うん・・・まぁ、そうか。」
シリルが首を傾げながら難しい顔をさせて頷く。
「スズネさん、とりあえずお茶をアリス様としてください。
説明で疲れたでしょう?
こっちで大筋の話を決めますから、また後で話に加わってください。」
「はい、ラルフさん、お願いします。
ラバーソールはたぶん、今はモニカさんかキャロルさんしか扱えないんです。」
「あ、なるほど。
わかりました、そういう事ですか。
ならキャロルさんにお願いする事にしましょう。
なーに、スズネさんと私が行けばキャロルさんも作ってくれますよ。」
「わかりました。」
鈴音が頷いて席を立ち、アリスの横に座る。
「やりましたね、スズネさん。」
アリスが出されたお茶を飲みながら言う。
「はい!アリスさん!
これでスニーカーが履けます♪
はぁ、固い靴底とお別れだぁ。」
「それ私も買ってみようかな?」
「はい!是非!走っても踵があまり痛くならないですよ。」
「踵が?
へぇ~、面白そう。
あ、そうだ、意匠はどんな感じでしたか?」
「アリスさんも考えますか?
まだ作っていないですから幅はあると思いますし。」
鈴音とアリスが楽しそうに話し始めるのだった。
「・・・ラルフさん、嬢ちゃんがアリス様を『さん』付けなんだが・・・。」
「え?・・・あぁ、スズネさんはキタミザト様が直接引き入れた人員で非公式的にキタミザト様の片腕ですからね。
アリス様も気軽に話す事を許可していますし、呼び名もああです。
それにスズネさんならエルヴィス伯爵にすぐに面通り出来て、意見が言えるくらいの発言力はお持ちですよ。」
ラルフが「別に気にしない」と言いたげな顔をさせてシリルに言う。
「なんで言ってくれないんだ・・・。」
シリルが絶望したような顔をラルフに向ける。
「いや、言ったら話合いにならないで受けちゃうでしょう?」
ラルフが苦笑しながら言う。
「当たり前だろう・・・はぁ・・・。」
「で?スズネさんの話は納得しましたか?」
「あぁ、あの説明は嬢ちゃ・・・スズネ殿が考えたのだろうな。
他の職人では途中の所が受け入れられないだろう。
だが、受ける。
たぶん、スズネ殿が作ったラバーソールは画期的な商品になるだろう。
靴が一変するぞ。」
「それほどですか?」
「あぁ、間違いない。」
シリルが断言する。
「なら、契約書作りましょうね?
私が手ほどきしますから。」
「??」
ラルフがにこやかに言うのだった。
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