第2047話 鈴音の悩み。1(スニーカー作りたいなぁ。)
エルヴィス伯爵邸がある街の裏通りにある喫茶店のテラス席。
「はぁ・・・」
「まぁまぁ、そう落ち込まないで。」
鈴音が深いため息を吐き、人間大になっているテトが鈴音を励ましていた。
「はぁ・・・まさか3軒行って3軒とも断られるとは思いもしなかったよ。
やっぱり革から布への転換は難しいのかな?」
「革職人からしたら布は安い物の代名詞なんじゃない?
自分の腕をバカにされたと思ったのかもね。」
「職人気質と言うのはわかるんだけど・・・
私が居た所は布の方が使われて居たかな?
革は制服とかしっかりした所で布はカジュアルで使うんだけど・・・んー・・・」
「まぁ布は軽いし、大量生産には向いているからね。」
「はぁ・・・4軒目の当てがないなぁ・・・」
「今日は一旦、帰ろうかぁ。」
「そうだねぇ。」
鈴音が呟くのだった。
喫茶店の斜向かい路地から。
「・・・」
アリスがジーっと鈴音を見ていた。
「アリス様、何をしているのですか?」
「ひやぁ!?」
アリスが小さな悲鳴を上げる。
「えっと・・・」
声をかけたラルフが困っている。
「ラ・・・ラルフさん!?」
「ラルフ店長、どうしたの?」
チビコノハがアリスの肩に乗りながらラルフに聞いてくる。
「私は仕事中ですよ。
店に戻るので歩いていたらアリス様がいらっしゃったので声をかけたまでです。」
「はぁ・・・そうですか。
私も散歩をしていたんですが・・・」
アリスが鈴音の方を見る。
「・・・スズネさんですね。
暗い表情のようですが・・・アリス様は観察していたんですね。」
ラルフもアリスが見た方を見て、鈴音とテトを確認する。
「何を悩んでいるのかなぁっと。」
「聞けばよろしいのでは?」
「聞いて答えられるのなら良いのですけど・・・スズネさんですからね。」
「まぁ、キタミザト様が認める知識をお持ちですからね。」
「そぁ・・・気軽に聞いても私がわかるのか・・・
あ、コノハに通訳させるか。」
「私通訳じゃないし。
というよりタケオとスズネは別に特別な事はしてないわよ。
ただ誰もしていない事をしようとしているだけだから、根気よく説明すれば皆も理解出来るわよ。」
コノハが言う。
「それが出来るかはわからないですけどね。」
アリスが苦笑する。
「大丈夫だと思うけどなぁ。
テトちゃんにスズネの悩み事聞いてみるか。
ちょっと待っててねー・・・あー、スズネ、靴作りたかったのに3軒断られて意気消沈だって。」
コノハがテトに連絡を付ける。
「え?なんで3軒も断られるんです?
この街の靴屋は大概は作ってくれますよ。」
「そうですね・・・3軒も回って作ってくれないなんて無いと思いますけど。」
アリスとラルフが首を傾げる。
「とりあえず行ってみよう~。
聞けばわかるよ。
テトちゃんに私達のお茶の注文して貰ったから。」
「じゃあ、聞きますか。
ラルフさんは大丈夫ですか?」
「何やら商売の匂いがします。
行きますよ。」
アリスとラルフが鈴音の下に向かうのだった。
・・
・
「「スニーカー?」」
話を聞いたアリスとラルフが首を傾げる。
「はい、今回研究所で作ったこのゴムですけど。
革靴の底をゴムで、革の所を布で作って紐で止めようと思うんです。」
「へぇー、スズネ、ローとハイどっち作るの?」
コノハが鈴音に聞く。
「ローカットもハイカットも両方ですね。
やっぱりロングスカートの時のハイカットスニーカーは良いですよね。」
「まぁ人それぞれだけど・・・ふーん・・・スニーカーは良いわね。
ラバーソールは?」
「武雄さんが出立する前に配合を残してます。
そこからちょっと厚めに作ってありますし、テトちゃんに聞いて爪先用のカバーやラバーソールと縫い目を隠す用に薄手のゴム板も作りました。」
「ふむふむ、という事はあとは本当に布の部分を作って縫合してくれるところを探せば終わりなのね。」
コノハが頷く。
「はい、ですけど・・・靴屋さんが『布の靴は作らん!』と怒って・・・はぁ・・・。」
鈴音がでっかいため息をつく。
「そうですか・・・ラルフさん、布の靴って作りたくない物なのですか?」
「布靴は言い方は悪いですが、低所得者向けの靴です。
店を構えるような職人達からすればそういった物は作りたくないのでしょう。」
ラルフが頷きながら言う。
「そうなのですね。
色も布によって変えられるし、色々な意匠を作り出せると思うんですよね。
それにスニーカーは軽いですし、水で汚れを落としても大丈夫で靴擦れもそこまでないという感じで便利なんです。」
「「そうだねー。」」
鈴音の言葉にコノハとテトが頷く。
「ふむ・・・ラルフさん、スズネさんが注文できそうな靴屋はありますかね?」
「さて・・・私もこの街のすべての靴屋を知ってはいませんが・・・
研究所の作業服一式を作った際に靴もやってくれましたから、断る事はないとは思うのですけども・・・
一応、行ってみますか?」
「そうですね。
テトちゃん、行ってみようか。」
「そうだね。
ダメならダメでまた探せば良いのだしね。」
スズネ達はラルフの紹介の店に向かうのだった。
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