第2034話 4者会談。5(武雄に甘いのは当然でしょう?)
魔王国 王城内の小会議室。
「あー・・・」
「はぁ・・・」
ビエラとミアが疲れた顔をさせて机に座っている。
「・・・うん、家族での話合いは順調に出来たようだな。」
ヴァレーリが2人の表情を確認してからそう言う。
「次の議題は何でしたかね?」
武雄が皆に聞く。
「ヴァレーリ殿、キタミザト殿、ビエラに聞いたのだが、米とは何だね?」
グローリアが2人に聞く。
「「・・・」」
武雄とヴァレーリが明後日の方を向く。
「なんでも大層美味しいとの事だが?」
「あ~・・・そこは語弊があるな。
米単体が美味という感じは人それぞれだぞ。
たぶんだが、ビエラは米と食べるのが美味しいと言ったんじゃないかな?」
「どちらかと言えば・・・パンの代替品の形なんですよね。
単体での好みは個人の好き好きですよ。」
ヴァレーリと武雄が控えめな評価を述べる。
「ビエラは美味しいと言ったんだが・・・それは違うと?」
「米に合う料理が圧倒的に多くて、尚且つパンとでは合わなかった物も合うから目新しいというのはあるな。
ちなみに魔王国ではほぼ食べられていない穀物だ。
国内の極一部で生産はしているが、生産者達ですら全く食べられていないのだよ。
なので、国内での流通はされていないし、問屋に問い合わせても手には入らない。」
ヴァレーリがヤレヤレと手を挙げながら言う。
「そんな穀物をどうやって手に入れたのかね?」
グローリアが武雄に聞く。
「たまたまです。
作っている場所がわかったので、生産者に問い合わせをし、買って食べただけですよ。
まぁ生産量が低いとは聞いていましたし、魔王国での調理法も聞きましたけどね。
私は全く違う調理をしただけです。
それがたまたまビエラには美味しかったのでしょう。」
「という事はキタミザト殿も魔王国から購入していると?」
グローリアが武雄の言い分を聞いてから再度問う。
「ええ、アズパール王国では作られていない穀物ですからね。
魔王国から買っていますね。
なので個人的に楽しんでいる段階です。
ビエラやミアのように近しい者にしか出していませんし、調理もなんだかんだと1日かかるので、頻繁には作れません。」
「ふむ・・・ヴァレーリ殿、キタミザト殿、それを食べたいと言った場合に食べれるだろうか。」
「魔王国では現在無理だ。
調理法はほぼキタミザト殿と生産者の一部しか知られていない。」
グローリアの問いかけにヴァレーリが即答する。
「キタミザト殿は?」
「輸入した米を使って料理は出来ますから、お作りするのは出来ます。
ですが、そもそも人を大量に動かしますので費用は発生します。
さらに一度に調理できる量は少ないので、基本的に人間形態用に作るしかありません。
それに『来たからすぐ食べさせてくれ』といった要望には応えられません。
事前に予約して貰って、皆で用意出来るかの確認をしなくてはいけません。
ドラゴンの状態で来られるのも迷惑です。
ビエラでさえ、ドラゴンであると知る者は少ないです。」
武雄が言う。
「ふむ・・・色々と条件が付くのだな。
ヴァレーリ殿、王城で出す事は可能か?」
「先ほども言ったが、現状では不可能だ。
生産量は極端に少なく、ほぼ全数をキタミザト殿が買われている。
今からすぐの入手は不可能だし、早ければ今年末、下手すれば数年後に王城で入手が出来ると考えるのが普通だろう。
そもそも米を食べるのに1日潰さねばならないと言ってはいるが、そもそも発案したキタミザト殿ですら1日だからな。
我らが食べようとするならそれ以上の時が必要になるかもしれないし、下準備用の器具(木臼)が無い。
まずはそれをキタミザト殿に言って作って貰わなければならないし、入手出来て調理したとして不慣れな我らではキタミザト殿が作り出し、ビエラが美味しいといった物が忠実に出来るとは約束が出来ない。
それに我は退任が決まっている。
そこまで王城の食糧事情に首を突っ込む気はない。」
ヴァレーリがグローリアに言う。
「ふむ・・・2人して食べさせたくないような言いぶりだが。」
グローリアが悩みながら言う。
「・・・当たり前だろう?
そもそもが調理に手間がかかりすぎるというのもあるが・・・
はぁ・・・考えてもみてくれ、少量しか作られていないという事は生産地では不味い穀物という認識なんだ。
それを調理次第では美味しくなると生産地に教えたら領外に輸出すると思うか?」
ヴァレーリが諦めながら言う。
「・・・なるほど、生産地に調理法は秘密にして輸出させているのか。
となると増産させるのは中々に厳しい物があるな。」
「今はアズパール王国のキタミザト殿が個人で買い付けをしている。
領主からすれば『人間種がこんな不味い物を喜んで食べているよ』と思ってかなりの安値で全数売っている。
キタミザト殿からすれば『なーに言っているんだか』と呆れながらも安値で買えるので特に何も言わずに大人しく買い付けている。
そんな状況だ。
ここで我ら王城が買うとなったらどうなると思う?」
「・・・この米という穀物が美味しいという事を暗に言っていると捉えるかもしれない・・・か。」
ヴァレーリの言葉にグローリアが頷く。
「まぁ・・・キタミザト殿が頑張って輸出量を伸ばしてくれれば、我ら王城が少し入手して生産者に美味しいとバレても問題ない程度にはなるとは思うが・・・些か今は何も出来ないな。
なので、いくらドラゴンと言えど、無理強いはして欲しくない。
まぁ・・・もう少し待っていてくれ。」
「・・・ヴァレーリ殿はキタミザト殿に甘すぎるのではないか?」
「ふむ・・・そうだな。
他国の人間ではあるが、キタミザト殿にはいろいろと助けられている。
これまでの奴隷に関する情報や今回の緊急輸入に対する対応もさることながらアズパール王国での特産品の輸出もし始めてくれた。
これがまた珍しい物を送ってくれていて助かっている。
なので、食に関してキタミザト殿には我も甘く対応する事にしたんだ。
今後ともお付き合いしたい間柄だからな。
特に問題ない事だ。」
ヴァレーリが堂々と言い放つのだった。
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