第2012話 今日の夕食は塩味のロールキャベツ。(局長の料理かぁ。)
武雄達は他の皆と同じように試験小隊と王都の面々と焚き火を中心に車座になり、夕食の支度をしていた。
というよりも武雄がリュックから鍋を取り出したので、試験小隊の面々が焚き火の上に鍋を火にかけられるように準備をし始めている。
「所長、今日は何ですか?」
ブルックが聞いてくる。
「シイタケの出汁で塩味のスープにトウガラシを少々入れて少し辛味を足した物に鶏肉のロールキャベツを入れて煮込みますよ。
後はパンですね。」
「了解で~す。
あ、朝の時点でシイタケと水を入れた小樽を積んでいましたよね。
あれですね!
用意しますね~。」
ブルックが小走りに幌馬車に向かう。
「キタミザト殿、ロールキャベツなんていつ作られました?
昼もサンドイッチを頂きましたが・・・いつの間に?」
ラングフォードが聞いてくる。
「エルヴィス伯爵邸で作って来ていますよ。
まぁそこまで多くは作っていないので、魔王国に行ったら何か作らないといけないですけどね。
ですが、少なくとも行き分は持って来ています。」
「はぁ・・・その・・・経験上なんですけど、普通の部隊って食事の用意は部下がしませんか?」
「・・・ふむ・・・部下ねぇ・・・」
武雄が試験小隊の面々や王都組を見る。
「・・・なんです?」
デナムが聞いてくる。
「・・・いえ。
ま、少なくとも私は荷台でゴロゴロと寝ているだけですからね。
馬に乗ったり、御者をしてくれている部下達の方が体力や気を使っているのです。
なので、労い程度に食事の用意をしているのですよ。
まぁ今回は人数も居ますし、王都組は基本私と一緒にゴロゴロしていますからね。
持ち回りで作っても良いかもしれませんが・・・決して・・・決して!局長の料理が怖いとか思っていません。」
「ほほぉ、キタミザト殿は私を侮っていますね。」
デナムが言ってくる。
「出来るので?」
「王立学院時代の私の料理を見せてさしあげたかったですね。
友人達から料理人デナムの異名まで頂いたのですよ。」
デナムがしたり顔で言ってくる。
「へぇー・・・ハガードさんは?」
「私は・・・すみません、出来ません。
妻が料理が上手いもので。」
「それは良い事ですね。
まぁうちの部隊員は私の料理を美味しそうに食べるので3回に2回程度は私が作ってあげるようにしています。
一種の慰労ですよ。」
「はぁ・・・キタミザト殿は料理がお好きなのですか?」
ラングフォードが聞いてくる。
「いいえ、私は料理が好きという訳ではなく、かといって嫌いという訳でもないので普通です。
理由は私が食べたい料理がないので作っているだけなんです。
誰かが作ってくれるのなら喜んでその人に任せますよ。
まぁそれでもこうやって作れば誰かが喜ぶならたまには作りはするとは思いますけどね。」
「・・・キタミザト殿はどなたに教えているのですか?」
「エルヴィス家と王城と王家と・・・」
武雄が思い出しながら言ってくる。
「あ、すみません、わかりました。
そうかぁ・・・急激に王城内の食事が美味しくなった理由がわかりました。」
「いや、王城の料理も美味しいですよ?
私は数個しか教えていませんし。」
「はぁ・・・それは貴族であるキタミザト殿だからですよ。
まぁ私もこの地位に居るので美味しい物は口に出来ますけどね。
下の方まで予算的に・・・正直に言って美味しくない物が提供されるなんて日常茶飯事です。
それがここ最近、コロッケやらスープの種類やら内容が変わって美味しくなったと評判なんです。
それも経費が上がらずにです。」
「・・・まぁ、簡単に出来る事を教えましたし。」
「・・・そうですか。
わかりました。」
ラングフォードが頷く。
「会った料理長達は皆、経費が安く済んで良かったと報告は受けていますよ。
ブイヨンは・・・美味しいですけどお金も時間もかかりますしね。
私が教えた出汁の方は安くてそこそこの味は出ますから、重宝がられていれば教えた私も嬉しいです。」
「今後とも王城の食事事情をよろしくお願いします。」
ラングフォードが言ってくる。
「・・・助かっています?」
「はい、とっても!予算的に!」
「ふーん・・・そうですかぁ・・・」
武雄が考えながら言う。
「キタミザト殿?何か?」
「いーえ、明日は何作ろうかなぁと。」
「はぁ・・・今後ともよしなに。
で、私は何を手伝えば?」
「特にありませんよ。
火の番は武官がしてくれていますしね。
のんびりとしてくれて結構です。」
「・・・そうすると私や局長達は本当に旅行をしているだけになってしまうのですが。」
「たまにはそれも良いでしょう。
それに魔王国の王城がある街に行けば、そこでの仕事は山ほどありますしね。
そこで力を出して貰えれば良いので、今はのんびりとしていてください。」
「・・・わかりました。
ご期待に沿えるよう行動をいたしましょう。」
ラングフォードが言う。
「所長、出汁が温まってきましたよ。
具材ください。」
「はいはい、今出しますよ。」
武雄がリュックに手を突っ込む。
「あ、局長の料理は王城に行った際に食べさせて貰いますからね。」
「ほほぉ、よろしいでしょう。」
「陛下やウィリアム殿下にも声かけるかな?
あ、エイミー殿下は来てくれそうですよね。」
「お止めください。
というより本当に止めてくださいね!私の首が飛びます。」
「首が飛ぶような料理を出す気だったので?」
「そんなわけないでしょう!?
ただ料理の出来で私の将来が決まるのですよ!食べさせるわけにはいきません。」
「局長にまで上り詰めて何を求めるのやら・・・まぁ降格させられたくなければ美味しい物を提供すれば良いだけですよ。」
「王都に戻ったら習お・・・しっかりと思い出せるようにしておきますかね。」
武雄達はのんびりと話しながら夕食を取るのだった。
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