第1997話 会議が終わった会議室の中では。(ラルフ始動。)
武雄達研究所所員とベルテ一家の面々が去ったサテラ製作所の会議室。
一部の者達が机に突っ伏していた。
ローとダンとクローイは痛手を被っていないようでのんびりとお茶を飲んでボーっとしていた。
「・・・疲れた。」
「「「・・・」」」
「・・・言いたい事言えた?」
モニカが誰に向けてという訳でないかボソッと言う。
「あれだけ言えるんだから皆も強気ですね、ほほほ」
「要所要所でキタミザト様がいろいろ言っていましたけど・・・ローさん、あれってどうなんですか?」
「おや?クローイさんは何か気になったのですかな?ほほほ。」
「いえ、自分達の所以外は全体的に大変なんだなぁという印象しか持てなかったんですけど。
1つだけ・・・キタミザト様がいきなり生理用品をナプキンと言い出したのは驚きまして。
机に敷く物を指すと思うのですが・・・誰も反論しませんでしたので、そういう物なのかなぁと。
どうだったんですか?」
「ふむ・・・キタミザト様がどういう考えで言ったのかはわかりかねますがね。
私独自の解釈で良いなら・・・あれは女性陣達への配慮でしょう。」
「配慮ですか?」
「ええ、生理や生理用品を忌諱する者は多い世の中です。
女性がラルフの店に入って生理用品独特の名称で注文したら目立つでしょう?
なので、当たり障りのない物の名称と同じにしたのではないでしょうかね、ほほほ。」
「なるほど、ラルフさんの仕立て屋なら机用の物を扱っていても不思議はないですものね。」
クローイが納得する。
「まぁ、あくまで私の解釈ですよ。
それにしてもラルフの所が乗り出したというのも驚きでしたが・・・言われてじっくりと冷静に考えるのなら事業として申し分ない売り上げが出せる市場があるというのがわかります。
店を大きく出来ないかもしれないが、従業員の雇用は守れる程度には売れる。
そんな商品になると説明を聞いている内に思いましたね。
ラルフはまた難しい事業をする事にしたのですが・・・仕事熱心ですね。ほほほ。」
ローが楽しそうに笑う。
「ローさん・・・私は防刃布ももしかしたらナプキン開発の為に準備された物なのかもしれないとそこはかとなく思い始めています。」
ラルフが顔をローに向けて言う。
「ほぉ、そうなのですか?」
「いえ、根拠はないですよ。
まぁ不織布は作ったのがナプキンの話が来た同日に近いので、ナプキンを考えての事だろうとは思えるのですが、防刃布は前からキタミザト様が考え付いています。
自分で言っていても変だとは思うのですが、それでも今回のナプキンに使用できるようにしている節があるのですよね・・・根拠はないのですけど・・・」
「ふむ・・・ラルフの勘ですか。
ちなみに防刃布の性能とはどんな物ですか?」
「防刃布の特性は強靭と防水に特化し・・・ん?・・・んん~?・・・」
ラルフが首を傾げてしまう。
「おや?何かわかりましたか?ほほほ。」
「いえ・・・防刃布はSL-05液の塗布した物ですが、その性能は刃を通さない強靭性と水を弾くという防水性が上げられます。
今の生理用品の問題点は血が染み込んだタオルが下着に付く事という事もあるのです。
なので、防刃布をナプキンの底用に加工して、その上に薄い不織布を重ねれば・・・下着を汚さないで血を保持出来るのでは・・・と。
今思いつきました。」
「なるほど。
でも、そこまで水を弾くと価格が高いのではないのですかね?
今のポンチョは長い間雨に打たれれば染みて来て重くなってしまうし、中の服も濡れてしまう。
それを補う商品になるのでしょう?」
「それが・・・布の製造単価だけならかなり安く出来ます・・・加工費の方が高くなりそうです。」
「ふむ・・・不織布も高いのですかね?」
「こちらは材料代がどうなるかではありますが・・・量を作れますので単価は安いです。」
「2つとも安いと。」
「はい、そして多くを売る必要があり、定着すれば固定数が毎月販売出来るという商品になります。」
「ほぉ・・・安く、強靭で雨に強いですか。
ほほほ、それはキタミザト様でなくても幌馬車に使って欲しいですね。」
ローが言う。
「ローさんもそう思うのですか・・・」
「そういうラルフもでしょう?
輸送をしたことある者からすれば今の幌馬車の性能が良くなるとわかっている商品があれば使って欲しいと思うのは当たり前でしょう。」
「私は衣服ですからね・・・雨は大敵ですよ。
まぁテントと同時進行で幌馬車用のサイズを検討しますが・・・ローチさん、どうしますか?」
「価格次第ですね。
今使っている幌の生地とその防刃布の価格差が少なければ・・・要望があれば追加でするという形になるでしょうね。」
「・・・確か、幌用の布は織り目をキツクした頑丈な物でしたよね。」
「ええ、織り目が細かいほど水が染み込み辛いですからね。」
「あのくらいの布より・・・すみません、安くなる可能性はあります。」
「え?・・・性能が良くなるのに?」
「ええ、まぁこれから実際に作ってみないと価格は出せないでしょうが・・・あ、問屋に卸さないといけないですかね。
販売価格はわかりかねます。」
「そこは直接買い付け出来ませんかね?」
「ん~・・・問屋との話合いによりますね。
私としては仲間内ですから安く卸して上げたいですが、私共も他の布を買っている立場ですからね。
問屋を蔑ろには出来ません。」
「安く手に入れば保守で来た既存の幌馬車の幌をかけ替えれます。
防刃布も定期的に買えますし!」
「ええ、そういう需要があるだろうとは私も思っています。
話してみますから、販売を楽しみに待っていてください。」
「よろしくお願いします。」
ローチが頭を下げる。
「さて・・・皆さん、私は今思い付いた事を従業員に話してきますから、これにて失礼します。」
「おう、お疲れ様~。」
「仕事頑張って~。」
ベッドフォードとモニカが突っ伏したまま片手を上げて見送る。
「ははは、では、皆さん、後ほど。」
ラルフが退出して行く。
「後ほど・・・酒場かな?」
モニカが呟く。
「しゃーない、仕事するか。」
「そうですね・・・」
「ダン、私達も帰りましょう・・・あ、今日の議事録誰が書くんです?」
クローイの言葉で皆の動きが止まるのだった。
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