第1984話 今日の昼食は割と特別ですよ。(小銃の王都配備はまだ先です。)
研究所の1階 喫茶店。
「美味しぃ♪
夢の競演です。」
「久しぶりに食べましたが、やっぱり美味しいです。」
「んー!これは美味いな!」
「はぁ~・・・まさかエルヴィス伯爵領で食べれるとは。」
「この成果がキタミザト殿なんだろうなぁ~。」
「ついつい食べ過ぎてしまう・・・これは危険だ。」
王都から来た面々が笑みだったり、眉間に皺を寄せたりと好きに食べている。
「所長、今日は豪勢ですね。
明らかに食券の価格に対して予算超過だと思いますが?」
王都の面々から一番遠い所に座っている武雄の隣に座るマイヤーが言ってくる。
「まぁ・・・私達のみですから。
他はコロッケが無いですよ。」
「そうでしたか。
カレーにコロッケ2個とは・・・美味しいのですが、少々食べ過ぎなような気もします。」
「そのぐらい平気でしょ。
食べ過ぎたなら午後は良く動く事です。
準備の方は?」
「問題なく、移動は作業服でとの事でしたのでそのように準備しています。
あと、後ほど所長に皆の制服の方を預かって貰います。」
「うん、了解。
それと作業服用のポンチョを用意出来ましたので後ほど取りに来てください。」
「・・・所長、ポンチョは嫌いだったのでは?」
「ラルフさんの方から売り込みに来られましてね。
安く提供するので製品試験をお願いされたのですよ。
・・・・SL-05です。
戦闘ベストよりは薄くしたようですけど、性能は発揮されています。」
「もう製品化を?
それは是非とも装備の試験をさせて貰いましょう。」
「所長室においてあるので後ほど取りに来てください。」
「了解しました。
では、制服を持って行かせてポンチョを受け取るように言っておきます。」
「お願いしますね。
で・・・ラックさん達はどうでした?」
「バートとフォレットは小銃を撃っていましたし、ラックは小銃に見入っていました。
興味津々でしたよ。
まぁラックが率いている情報分隊は移動や追跡で魔法を多用する関係上、魔法に頼らずに中級程度の魔法と同じ攻撃力のある小銃は魅力的に見えるようです。
どこかの段階で、王都守備隊に納入しなくてはいけないかもしれません。」
「そして気が付けば王都守備隊全員に、ついで第1騎士団に配備でしょうか・・・
生産が追い付かないですから王都の工房の協力が必要になります。
そうなると小銃が意図的に紛失しちゃう可能性すらありますよね。
その時点で他国にはバレるでしょう。」
「それは・・・絶対ないとは言えませんね。」
「小銃と弾丸の製造方法が流出すれば、行きつく先は近隣諸国との軍拡競争です。
今のアズパール王国にそんな余力はないと見ますが、例えあったとしても相手はウィリプ連合国ですよ。
基本的な国力が違う上に奴隷国家相手に製造競争というのもね・・・負けが確定な気がしてなりません。」
「・・・王都への配備はまだ尚早ですね。」
マイヤーが頷く。
「小銃は大々的に公表するような物ではありません。
それに注意すべきはウィリプ連合国に小銃を持った指揮官が居るという所です。
私達の初心はあくまで相手国で小銃が配備された際でも対応出来る防御力を持った盾の製作なのです。
小銃を国中に配備する事が目的ではありません。
試験小隊は小銃の慣熟訓練を行い、まずは取扱いに慣れて貰う。
そしてその腕前相手でも問題なく防御が出来る盾を作る。」
「そうでしたね。
・・・彼、スコープ持っていましたよね。
お土産で所長が頂いていましたけど。
あれ1つとは考えられませんよね・・・」
「あれが1つだけと考えるほど私もお人よしではないですよ。
小銃にスコープが取り付けられていたという事実から、彼は狙撃が出来ると仮定出来ます。
あぁ、狙撃と言うのは狙った所に正確に撃ちこむ事を言いますからね。
最大として400mの狙撃かぁ・・・残念ながら試験小隊はまだまだ彼の足元にも及ばないですね。」
武雄がマイヤーに言う。
「アンダーセン達から小銃にスコープを取り付けて欲しいと言ってきていますが、どうしますか?」
「・・・現状では不許可にします。」
「理由を聞いても?」
「狙撃というのは精神的に強靭でないといけません。
私もオーガやオークにやってみて思いましたけど・・・無防備な者に撃ちこむだけでも相当きますよ。
貴方方は相対する事に・・・つまりは敵意を剥き出しの相手と戦う事には私よりも断然に慣れているでしょう。
ですが、無防備な相手を一方的に攻撃するという事は精神的に追い込まれます。
特にスコープは間近で見ますからね。
慣れない内はスコープを取り付けさせるわけにはいきません。
当分は裸眼で狙わせなさい。
まずは遠目に見ながら撃てるようになって貰います。」
「了解しました。
が、所長がそれほど撃つことに消耗をされていたとは。」
「意外ですか?」
「ええ、まぁ。」
「相対するなら、戦闘するならという言葉の前に小銃は振るわれます。
命乞いでも嫌悪でも怒気でもない。
普通の顔をしている者に撃ちこむって精神的に重いのです・・・罪悪感が凄く湧きます。
圧倒的な優位からの一方的な殺戮というね。
これは想像以上にのしかかってきます。
それに私はまだ怒気を纏ったオーガ程度にしかしていません。
慣例の戦争ではあるとするなら人型相手でしょうね・・・果たして私はその時何を思うのか・・・」
「小銃も便利だけではないのですね。」
「願わくば、貴方方には狙いを絞らせないで『真っ直ぐ撃て』とだけの命令をしてあげたい物です。」
武雄はそう言いながら昼食を取るのだった。
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