第1981話 事前打ち合わせ。2(基準はないよ。)
「まぁ・・・鋼材の件はエルヴィス家とキタミザト家の領分でしょうから・・・
私は何もこれ以上言いません。」
ラングフォードが言う。
「そうですね。
さて、現地でとりあえず鍛冶屋もしくは金属を扱っている工房に行くとして。
何方かに頼むのですか?」
デナムが聞いてくる。
「私達の商品を魔王国内に販売をしてくれているレバントさんのお店で聞くのが確かでしょう。
王都守備隊も行きますからね。
通常の魔王国の王城の兵士が頼むような鍛冶屋に行けたらなぁと思うので向こうで紹介して貰おうかと思います。」
武雄が答える。
「なるほど、わかりました。
さて、雑貨屋、青果店、干物屋、穀物問屋というのはわかるのですが、我が国で生産出来ない物と我が国でも出来そうな物を探されるという事ですよね?」
デナムが言ってくる。
「まぁ・・・そうですね。
ただし、商品を見て出来る出来ないの判断をするのですから製造方法がわかっている物についてのみ我が国でも出来るでしょう。
あとは輸入になるでしょうね。」
「出来る物を探して・・・実際には何かありますかね?」
ラングフォードが聞いてくる。
「さて、何があるかは見てみないとわかりませんが・・・今の常識を意識しない事が重要でしょうね。
『これは使えない』『何の意味がある?』『この使い方は勿体無い』・・・こういった否定的な考えを取り払ってまずは純粋に物を見ないといけないでしょうね。」
「「「純粋に。」」」
「見た物を評価をするなというわけではありませんよ。
評価は大事です。
私は評価の前に一度、素直にその物を見る事を心掛けています。
そうすれば、デカいだの、臭いだの、色が変だの・・・素直な感想が出て来るでしょうからね。
まずは思った事、第一印象を素直に感じ取る事が大事だと思います。
私も完璧に出来ているかと言われるとまだまだ出来ていないのですけども、出来る限りはしているつもりです。」
「それでよろしいのですかね?
判断基準は無くてもよろしいのでしょうか?」
ハガードが聞いてくる。
「・・・新しい物を見るのに判断基準も何も・・・
私達は社会に出ると基本的に与えられた仕事を繰り返して過ごしています。
その中で何度も失敗をしながらも作業速度の向上を図るのです。
これを経験と言います。
私達は何度も何度も同じ作業を繰り返しする事でその作業については自身で最速で熟す事を良しとしています。
ですが、違う見方をするのならそれは無駄を省くだけでなく、1つのやり方が正であると信じて実行する為、どうしても違うやり方を認めないという事象が生まれます。
例えば1個の箱に宛名を書いて発送するという作業と10個の箱に宛名を書いて発送する作業。
1個という単位で見た場合は、1個ずつ10回箱詰めをして、宛名を作って、貼って発送する場所に持って行けば最速でしょうが、実際は違いますよね。
まずは箱詰めを終わらせる、宛名を一気に作る、一気に貼る、そして数個ずつ発送する場所に持って行く。
同じ作業でも条件が違えばやり方は違うという事を認められるかどうかの違いです。」
「キタミザト殿、それは極端過ぎませんか?
1個と10個では全体の時間が違います。
なので、その際の最適なやり方を模索して1個の時と10個の時で作業が違うのです。」
ハガードが言ってくる。
「なら、3個の時はどうしますか?
どっちのやり方が正しいのですか?」
「え?ん~・・・1個ずつ・・・いやいや、複数になれば10個の時の方が・・・」
ハガードが考える。
「専売局と財政局・・・まぁ私も含めますか。
各々の場所で仕事を熟してきたのです。
仕事の進め方も違うのです。
となれば、物の判断の仕方がそもそも違うのです。
そういう人間が集まって、向こうで何を見るかもわからない状況で判断基準なんて作れません。
だから、まずは各々が純粋に見て、感じて、評価をする。
その評価を持ち寄って皆で考えれば良いだけだと思っています。
ハガードさん、今は納得できなくとも納得しなさい。
基準がない事が今回の旅での基準です。
今は己がどう感じるか、どう評価するかのみで良いんです。
要は楽しめば良いんです。
見なさい、貴方の上司を。」
「私を見られても。」
デナムが微妙な顔をさせる。
「このぐらい旅を楽しめれば良いんですよ。
ね、局長、純粋に新しい物を見るのは楽しいですよね?」
「それは楽しいに決まっています。
久々に新しい事に巡り合える機会なのです。
今回は交渉等々はキタミザト殿がする。
私達は見て、あーだこーだと意見を言うだけの簡単で楽しいお仕事です。
これを楽しまずにいられますか!」
「・・・こっちまでくるんですから暇なんですかね?」
「キタミザト殿、私だって多忙を片付けての同行ですからね。
決して暇なのではありませんよ!決して!」
「ふーん・・・あ、黄銅に続いて違う鋼材も考えたんですけど。」
「やめてください!お願いします!
まずは黄銅を軌道に乗せましょう!ね?
そうしましょう!」
デナムが慌てる。
「まだ試作もしていませんよ。
そのうち持って行きます、それなりに作って貰いますから」
「あ、作る事は確定なんですか。」
「まぁ、待っていてください。
その内持って行きます。
それに黄銅は大丈夫でしょう。
ま、ハガードさんには申し訳ないですが、今回は純粋に魔王国を体感する事が目的です。
何が見れるかはお楽しみに。
ついでに面白そうな物があれば購入して持ち帰って研究。
欲しいなら輸入するという手はずです。
あまり基準どうのこうのを気にする必要はありませんよ。」
「そうだぞ、マーク。
今回は基準になる物を探しに行く旅だ。
何か向こうで交渉事があってもキタミザト殿がやる。
我々はそれを見て見ぬふりをする。
ここ大事だ。
対魔王国のやりとりはキタミザト殿とエルヴィス殿がやってくれるが、これは外交局も認めている事だ。
我々はそこに口出しはしない、そうでしょう?ラングフォード殿。」
「ええ、今回の外交、交渉はキタミザト殿に一任されています。
これは非公式に陛下も認めていると伝わっています。
私達は私達の領分で魔王国を検分すれば良いだけです。
それ以外はキタミザト殿が処理してくれるはずです。
あ、私野菜が興味あるのです。
キタミザト殿、野菜ですからね。」
「了解です。」
ラングフォードの要請に武雄は笑顔を返すのだった。
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