第1966話 売り子は一段落しました。(報告書持参しました。)
ベッドフォードの店先の端。
「はぁ・・・2回とも良い感じでしたね。」
武雄が木箱に座りながらキセルに火を点けてプカプカさせリラックスしていた。
「キタミザト様、片付け終わりました。
ベッドフォード様にお借りした食器と調理器具の返却も終わりました。」
ルアーナが武雄に報告してくる。
「はい、ご苦労様です。
あとは夕方のチラシ配りですからそれまで昼寝してて良いですよ。」
「はい。
ルフィナ、セレーネ、ヴィートは奥をお借りして仮眠に入っています。
私はキタミザト様のお付きとしてお傍に居ます。」
「ん~・・・そうですか。
なら時間まで座っていましょうかね。
ルアーナもおいで。」
武雄がキセルをしまい、軽く端に座り直して木箱の半分をルアーナに勧める。
「あの・・・流石に私達がキタミザト様と座る訳には。」
「はいはい、じゃぁ命令、座りなさい。」
「むぅ・・・はい。」
武雄の横にちょこんと座る。
「あら?キタミザト様、奥で休まれてくださいな。」
ベッドフォードの奥さんが客の相手をしていたが、武雄が店先に座っているのを見つけて声をかけてくる。
「ん~?・・・ちょっと通りを見てみたいのでね。
もう少ししたら奥をお借りします。」
「そうですか。
無理はしないでくださいよ。」
「それは奥さん達への私からの言葉ですよ。
倒れないでくださいね。」
「わかっていますって。
なら、もう少ししたらキタミザト様も奥に入ってくださいね。」
「はーい。」
ベッドフォードの奥さんの言葉に武雄が答える。
「すみませーん。」
「あ、いらっしゃい。
あら?奥さんまた買いに?贔屓にしてくれてありがとうねぇ。」
ベッドフォードの奥さんが店先で客の相手に戻る。
「・・・ちょっと気になるのですが。」
ルアーナが武雄に顔を向ける。
「ん~?どうしましたか?」
「キタミザト様、貴族なんですよね?」
「そうですよ。」
「なんで・・・こんなに人々が普通に前を通っているんですか?」
「・・・顔、知られてないんじゃないですかね?
知っている人は会釈や手を振ってくれていますよ。」
「まぁ・・・ちらほらとはいますけど・・・
貴族ってこうなんですか?」
「さぁ?他の貴族の事は知りませんが・・・
指定された区域でしたいようにして良いのが貴族でしょう?
その結果、領民が生活出来るのであれば誰も文句は言いません。
家に籠っている方が成果が出る貴族もいるでしょうし、外に出る事で成果が出る貴族もいると考えるのが普通ですよ。
画一的に貴族はこうだという概念はないはずです。」
「キタミザト様は外に出る方ですね。」
「そうという訳ではないですけどね。」
「ん~・・・キタミザト様、貴族ですよね?」
「そうらしいですねぇ。」
「貴族って難しいんですね。」
「そうなのかなぁ?
大して難しくはないと思いますよ。
決断するという責任があるだけですし。」
「ん~・・・なら、キタミザト様が難しいのですね?」
「うん、ルアーナだから良い意味に捉えられますけど、私に悪意を持つ人がその言葉を言ったら違う意味に捉えられますよね。
まぁ人一人をじっくりと観察しても全部わかる事はないですよ。
難しいと思っていても実は簡単だったり、逆もあるでしょう。
良く見てわかってあげないといけませんね。」
「はい、キタミザト様、良く見ます。」
ルアーナが頷く。
「失礼します。
キタミザト様、親父の命で報告書をお持ちしました。」
執事服の男が武雄の横に来て封筒を差し出す。
まぁ・・・執事服は着ていて身なりも良いが、雰囲気がおかしかった。
ルアーナが顔を向けて口をあけっぱなしで見ている。
「ん?・・・南?」
武雄はその男を見ながら封筒を貰い受け、中を見ないまま聞く。
「はい。」
「わかりました。
バーナードさんによろしく。
あまり無茶はしないようにと。
それとお使いご苦労様です。」
「労いありがとうございます。
親父にはしっかりと休むようにと言っておきます。
それとキタミザト様と親父、北の方との話合いで予想されたそうですが、現時点にて2件程、他領より同業の流入を確認しております。
詳しくは報告書に。」
「エルヴィス伯爵方には伝えます。」
「よろしくお願いいたします。
では、失礼します。」
執事服の人間が去っていく。
「あ・・・あの!キタミザト様!
今の人!」
「今の人ではなく、今の方ね。」
「い・・・今の方!普通じゃないですよ!?
雰囲気が異常です!」
「雰囲気がおかしいとか、姿が厳ついとか、執事服が似合わないとか。
そんな事で人を判断してはいけませんよ。
彼は仕事をしているのですからね。
偏見はいけません。」
「偏見!?いやいやいや、キタミザト様の目はおかしいのですか?
明らかに真っ当な人ではないですよ?」
「まぁ・・・確かにあそこは裏稼業も嗜んでいますが、いつもは不動産業の社員さんですよ?
身なりから言って、秘書の方ですね。」
「え゛・・・キタミザト様、今さらっと裏稼業とか言いませんでしたか?」
「・・・あれ?言いました?」
「言いました!
貴族であるキタミザト様が裏稼業と繋がりがあるなんて・・・」
ルアーナが考え込む。
「いや、ルアーナ、彼らは不動産業ですよ?
宿や酒場の経営をしていますし、貸金業もしている立派な会社です。」
「うん、明らかに裏稼業ですね。
まさか・・・キタミザト様、そこからお金貰っていませんよね?」
「私は借りた事はありませんよ。
まぁ・・・お金は借りるより貸すのが好きですけどね。
それにあそこは私とアリスでお茶をしましたし・・・今回は情報をくれるようですよ?
うちとの金銭的な関係はありませんよ。」
武雄が貰った封筒を持ち上げながら言う。
「はぁ・・・キタミザト様、気を付けてください。」
「わかっていますよ。」
「不安です・・・」
ルアーナが難しい顔をさせるのだった。
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