第1960話 ハワース商会とラルフの仕立て屋でコラボ商品?(また発案料が発生するらしいですよ。)
研究所の3階 所長室。
「結果、5枚ですね。
まぁ最後のは極薄を目指して糸の量を少なくしましたけど。」
武雄が今日の成果を応接セットの机に並べて
「ふむ・・・糸の量は同じで濃度を変えただけの不織布ですね・・・
キタミザト様、これを契約書にまとめますね。」
ラルフが言ってくる。
「え?やるのですか?
もう少し私が遊んでからでも良いんですよ?」
「いえ、これは良いですね。
何よりも今日だけでこれだけの量が出来た事が素晴らしいです。
それに自然乾燥でも良いというのが時間を有効に使えるでしょう。」
「・・・いや、だから私がもっと試作品作りますって。」
「それを他工房に持って行かれるのは些かマズいのでね。」
「・・・お忙しいでしょう?」
「まぁ・・・忙しいですね。
ですが!この商品は確かに引っ張りには弱いようですがそれ以上に用途が広いです!」
「用途かぁ・・・
生理用品を作るのですよね?」
「確かにうちの女性従業員達が生理用品を製造したいと言ったのには驚きました。
正直に申し上げて、布を取り扱う我々でも採算が取れないだろうと考えておりました。
スズネさんやコノハ殿の説明を従業員達から聞き、また採算性よりも雇用拡大と事業維持に繋がると言われていましたが・・・
この商品があるからなのですね!
これなら確かに単価が下げられるでしょう。
それに・・・この最後に作られた極薄の布ですが。」
「これは上手く行きましたよね。
柔らかくもなりましたし。」
武雄が5枚目を持ち上げる。
そこには武雄や鈴音も知っているウエットティッシュ並みに薄い不織布があった。
「これは素晴らしいですね。
この薄さで何枚か重ねれば確かに生理の際の血液を吸収してくれるかもしれません。
そしてこの周りは少し厚手の物で囲えば交換するまで下着や衣服を汚さない可能性もあります。」
「まぁ・・・生理用品はそうですね。」
「何よりも製作工程の簡易性が凄いですね。
これなら、大きめの物が作れるでしょう。
それを1日に何十、いや何百は作れる可能性すらあります。
これは布の常識を変えますね!」
ラルフが意気込む。
「・・・まぁ、布としての強度は無いですけどね。
それと・・・この精製方法は製紙に繋がります。
紙を作れると言う事は王城の専売局が絡みます。
間違っても紙を作ってはいけません。」
「製紙・・・ですか。」
「ええ、まぁ新しくと言うよりも使われて破棄予定の古紙からの製紙は出来るでしょうね。
・・・この技術は少なくとも布と食品にしていれば文句は言われないでしょう。」
「食品・・・ですか?」
「はい、今は無理でも何かに応用出来るかも知れませんからね。
ラルフさんはとりあえず、布を作って貰いましょう。
ちなみに薄手の物を重ねてある程度の層が出来たならダウン系の綿の代わりになる可能性すらありますよ。
もしかしたら新しいコートが作れるかもしれません。」
「なるほど!
その条項も入れましょう!」
「・・・どう入れるのかは任せますけど、紙の製造を禁止する事だけは絶対に明文化して社員教育もしてください。」
「はい!」
「それに同じやり方で建築資材にも使えそうですけどね。」
「建物で・・・ですか?」
「ええ、外壁と内装壁の間に入れたら吸音性や断熱性が良くなりそうですしね。
ほら、考え方としてはダウンとステテコと変わりませんよ。」
「空気を使った保温性の向上ですね。」
「家の内壁でも同じことが言えるはずです。」
「ハワース商会の耐火板と組み合わせれば火に強くて冬場暖かい。
住民にとっては良い部屋が出来るかもしれませんね。」
「ふむ・・・そうなる事が理想ではありますが・・・
ラルフさん、それ職人達に言った所でお客さんに伝えますかね?」
武雄が素朴な疑問を呈する。
「ん~・・・そうですね・・・
確かに良い物を良いと判断してくれないと使ってくれないでしょうね。
ハワース商会の耐火板は厨房に採用されたのでしたよね。」
「あれは出火した際の建物に燃え移らないようにする為にという目的がありましたし、実際に火災の脅威は皆が認識していますからね。
建て方の職人さんに受け入れられたのでしょう。
それに耐火板の上に壁紙を貼って部屋の雰囲気もお好みで変えられるというのも売りの1つですね。
部屋を区画する際に下地の両側に取り付けるだけという施工の簡易さも手伝ったかもしれません。」
「・・・となると・・・あれですね。
私の方はハワース商会に売り込んだ方が良いかもしれませんね。」
「確かに単独でやっても確実性がないなら商品として作り込んだ物を建て方の職人に売り込むというやり方ですね。
それも1つのやり方としては正しいと思います。
要はハワース商会のラインナップを増やして販売して貰い、ラルフさん達はあくまでハワース商会に納める素材工房という地位になると。
まぁ本業が仕立て屋ですものね。
わざわざ各建て方の職人の所に売り込みをかける必要は確かにないですね。」
「はい、ハワース商会は商品が売れて、私達は営業費が少なくて済むと良いとこ取りです。」
ラルフが頷く。
「まぁ、それはモニカさんとラルフさんで話し合えば良いでしょうね。
まずは不織布を作る事が先決ですし。」
「そうでしたね。
ついつい先の事を考えてしまいました。
・・・では、キタミザト様、私はこれで。
契約書は近日中にお持ちします。」
「うん?はい、わかりました。」
武雄がラルフを見送るのだった。
「・・・試作品と枠一式持って行っちゃった・・・」
武雄は一式を持って行かれたのを今気が付くのだった。
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