第1954話 そう言えば紹介状という招集依頼があったような。(ラルフ、決断す。)
研究所の1階 喫茶店。
試験小隊詰め所側の扉から武雄が入ってくる。
「いらっしゃいませ~♪」
メイド姿のエンマが出迎える
「キタミザト様、お疲れ様です。」
「日替わりを。」
「はい、わかりました。
お待ちください。」
エンマが厨房に向かう。
「あ・・・そうか、アン殿下の件をヒルダに説明しないとなぁ・・・
ん~・・・アン殿下からの条件は破格ではあるんだけど・・・一人じゃ行かせられないよなぁ。
個人の意思は尊重したいけど・・・両親への説明もしないとなぁ。
ヒルダに予定聞くかなぁ?」
「私の予定ですか?」
いつの間にか来ていたヒルダがダンディ茶を武雄に出しながら聞いてくる。
「うん?
うん、10人中9人はヒルダがこの話に乗る事を勧めるくらい良い話ですよ。
客観的に見たら凄い話だけど、個人の感情は違うからね。」
「・・・その話を断るとキタミザト様や伯爵様、両親に影響は?」
「まったくない。」
ヒルダが真剣な顔で聞いてくるが武雄が即答する。
「そうなのですか?」
「ええ、まったく誰も何も影響はありませんよ。
むしろ私の株が上がってしまうかもね。」
武雄がにこやかに言う。
「そうですか・・・」
「ふむ・・・ヒルダ、この話をまずは私からご両親に話して判断して貰ってから聞きますか?
それともご両親と一緒に聞きますか?」
「私が最初に聞くというのはありますか?」
「ありませんね。
ヒルダはまだ未成年です、両親が最終的な決定権を持っています。
もっと言うならヒルダの意志とは別に両親が決めてしまっても良い歳ですよ。
まぁヒルダのご両親ならそんな事しないとは思いますけど。」
「そうですね・・・
なら、両親と一緒に聞きます。」
「わかりました。
では、料理長に伝えるので家族で日程の調整をしてください。
急ぎではないので無理やり休むとかはしなくても良いですからね。」
「はい、わかりました。
確認したいんですけど・・・変な話じゃないんですよね?」
「ぜーんぜん、まぁ家族内で考えないといけないなぁという程度です。
どんな判断をしても自由でどんな判断をしても何も不利益はありません。」
「わかりました。
ご連絡を待っています。
と・・出来たみたいですね。
持って来ますね。」
ヒルダが武雄に一礼してから食事を取りに行く。
「はぁ・・・とはいう物の料理長には事前に教えておくか。」
武雄が呟くのだった。
・・・
・・
・
昼食を取り終えた武雄がハワース商会に来ていた。
「・・・」
武雄がこっそりと店先から覗いている。
「キタミザト様、何しているです?」
いきなり後ろから声をかけられ振り向くとラルフが居た。
武雄は「おいおい、ここで出会うんですか」と顔には出さないが驚く。
「はぁ・・・はぐらかす方と正直に言う方どっちにします?」
武雄がラルフに聞く。
「なんでしょうそれ・・・普通、その選択を判断して実行するのが聞かれている者の責務だと思いますけど。
こっちにそれを振るのですか?」
「はい。
ラルフさんが聞きたいなら正直に言いましょう。」
「ふむ・・・その言い方だと・・・後々私の仕事になると思いますか?」
「・・・直接作るかというと、あまり関係ないでしょうけど・・・まぁ、それなりに大きな仕事になる可能性は高いですね。」
「なのに、キタミザト様がここに居るというのは?」
「試作したいので簡易的な機材を作る為ですね。
家具を製作するのに出る端材を頂こうかと。
製造する為には方法の教授と試作品が必要でしょう?」
「ふむ・・・ふむ・・・ん~・・・」
ラルフが腕を組んで首を傾げてしまう。
その顔には「ここで聞いたら作らないといけない、でも現状では工場の生産が、でも聞かなかったら何かとんでもない商談がふいになる」と葛藤がにじみ出ていた。
「では、ね。」
武雄がハワース商会を覗く為に振り返る。
ガシッ
武雄は肩を掴まれる。
「お・・・おま・・・お待ちください。」
決死な顔つきで言葉を絞り出す。
「大丈夫、試作品が出来たら持って行きますから。」
武雄がにこやかに言う。
「となると・・・布をお作りになるのですか?」
「そうですね、広義では布です。」
「ですが、ハワース商会では織り機は・・・ん?端材を貰いに来たのですよね?
何をお作りになるのですか?」
「厳密に言ったら布なのかは・・・どうなんでしょうね?
ちなみに不織布という織らない布です。」
「織らない布・・・ですか?」
「そうですよ。
もしかしたらこの地でも作られているかもしれませんが、生憎見た事ないですからね。
なので作る事にしました。」
「・・・はぁ・・・いつ試作品を作られるのですか?」
「今日にでも。」
「はぁぁぁぁ・・・・ご一緒してもよろしいでしょうか?」
ラルフが
「まぁ・・・別に良いですけど、たぶん地味ですよ?」
「構いません。」
ラルフが頷く。
「なら・・・まずはモニカさんに見つからないように、お父さんを探さなくては。」
武雄がそう言ってコソッと覗き見を再開する。
「なぜに?」
「モニカさんは私を工房内の作業場に近付けたくないみたいなので・・・職人さんが驚くからと言っていて。
なので、コッソリと手に入れるには内部の協力者が必要なんです。
モニカさんに怒られたくないのでね。」
「・・・いや、それ違う事で入らせたくないんじゃないですか?
というより雑貨屋で買えば良いのでは?」
「・・・あぁ!確かに。
でも協力工房の工房内も見てみたいんですよね。
皆何しているんだろう?」
「・・・その好奇心がモニカの警戒心に繋がっているのですよ。」
ラルフが武雄の言い分にツッコミを入れるのだった。
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