第1953話 研究室に依頼が来たよ。(盾の改造とな。)
研究所の2階 研究室。
「と、いうわけで、現状の盾の改良をしましょう。」
「はい。」
「はーい。」
トレーシーと鈴音が返事をする。
「ですけど、改良と言っても補強程度で良いなら全面ではなく、枠と格子の組み合わせで良いのではないのですかね?
これなら剣では突き以外の攻撃に対しての補強になると思います。
なら、型枠作って、黒スライムの体液流し込んで、既存の盾の内側に貼り付けちゃえば終わりですよ。」
鈴音が言う。
「・・・そうだね。」
武雄が考えながら「あ~、難しく考える事ではなかったね」と頷く。
「となると、既存の盾を1つ買って来て内側の形状を土か何かに押し付けて複製、それを白スライムの体液で型取りして、それに合わせて補強用の枠と格子の形状を作成。
そしてそれを新たな型枠を作って、流し込んで焼いて終了。
こういう事ですね。」
トレーシーが鈴音の話の作業内容を想定する。
「・・・そうですね。
作業工程については製作工房が考えるでしょうから今は大枠と試作品を作れば良いだけですね。
トレーシーさん、出来ますか?」
「はい、今言った事の具体的な説明文と図面を用意します。
用意出来るのは外形だけでしょうけど。」
「補強のユニットが出来たら他領に対しても販売も出来るでしょうからね。
比較的お手頃な価格で取付は楽に出来て、それでいて製造は面倒。
これが基本ですからね。」
「まぁ・・・真似をしようにもこちらは液体を固体にする事を前提にする製作方法なのですからね。
それを鉄でとなると費用面で割高になるでしょうね。」
トレーシーが苦笑する。
「まぁ少なくともゴドウィン伯爵家とテンプル伯爵家には試作品を送って買うかどうかの伺いが必要でしょうね。
突きに対しての補強は出来ないが、基本的な部分で頑丈になるとなれば売れそうですね。
・・・現実的にはこっちの方が売れるでしょうね。
今、トレーシーさんに考えて貰っているのはあくまで小銃に対応した盾ですし・・・
ふむ・・・トレーシーさん、補強案の方を王都に正式に盾の第1弾としての成果として報告します。」
「はい。」
「内容は2つ、1つはエルヴィス家のSL液を使っての補強。
もう1つは既存の鉄を使っての同様の補強。
この2つの作図と製作、そして試験と報告書の用意を。
ユニットをSL液で作ったとだけしておいてください。
具体的にSL-05液を焼くという風には書かなくて結構です。」
「それは・・・王城から問い合わせがありますよね?」
「そこはエルヴィス家もわかっているでしょうから・・・多分平気だとは思いますけどね。
・・・同じ物を作るにもSL液という物をエルヴィス家から買わないといけない。
エルヴィス家は夕霧達との共存体制にあるし、王都で知られれば乱獲に繋がるであろう事は今の段階でもわかる事です。
なので秘匿するでしょう。
それに知られたからと言って・・・あまり心配はしていないんですけどね。」
「そうなのですか?」
「黒スライムは王家専属魔法師だったトレーシーさんもテイラーさんも知らない希少種です。
乱獲以前に見つからないでしょう。」
「あ~・・・そうでしたね。
普通に初雪殿が出していますから慣れてしまいましたけど、希少種でしたね。」
トレーシーが頷く。
「それにスライムを生成出来るのはエルダームーンスライムのみ。
王都周辺とエルヴィス領、ゴドウィン領内のエルダームーンスライムは夕霧の下に集結済みですよ?
私に至っては夕霧達に警告を発しますからね。
不用意に人間に近付かないようにと。
そうすれば夕霧の支配地域のスライム達は一斉に人前から遠ざかるでしょう。
少なくとも黒はいなくなるかな?」
「それなら不用意な乱獲はされませんね。
・・・もし不公平だとか言い出したらどうしますか?」
「製造方法は収入源だから言いませんよ。
欲しいのならエルヴィス家の利益を損なうのですから相応の情報料というのが必要でしょうけど・・・
使用用途の広さから後々は現国家予算並みの利益が出てもおかしくない商品ですからね。
一業者、一工房、一貴族では払えませんよ。
まぁ・・・それでもスライム由来というのは追々知られる事ではあるでしょうけども・・・
それにエルヴィス家は先んじてスライムから収穫はしてはいますけど。
スライムはどこにでもいるのです。
収穫出来なかったのは言ってきた相手の努力不足でしょう?
隣の家の畑のジャガイモは豊作だった、不公平だから利益を寄こせなんて言って来たら・・・
馬鹿らしい、そんな農家はいませんよ。」
「確かに。
そしてそこに夕霧殿達の黒スライムの撤退ですね?」
「ええ、エルヴィス領のみで活動して貰いましょうかね。
あ、ゴドウィン伯爵家に1体貸し出すから・・・そこは居る内に夕霧とエルヴィス伯爵と話し合っておきますかね。」
「・・・であるなら、ゴドウィン伯爵家にSL液の製造と販売を委託してはどうでしょうか。
どのみちこの街でSL液全部を生産は出来ないでしょうし、赤、緑、青、白のみ生産させれば良いのではないでしょうか。」
「ふむ・・・とりあえず伯爵と夕霧と話し合って領主同士の契約をさせますかね。」
武雄が考えながら言う。
「そう言えば宿題どうなりました?」
「「うっ・・・」」
「まぁ・・・全てがちゃんとした製品に繋がるような物が出て来るとは思っていませんよ。
現状で考え付いた物をまとめてくださいね。」
「はい・・・わかりました。」
トレーシーが弱々しく頷く。
「昼食を取ったら私はハワース商会に行ってきますね。」
「・・・新しい悪巧みですか?」
「悪巧みではないですけど、一風変わった布の試作品を作る為にね。
木材で実験機材を作ろうと思ったのでね。
買い求めてきます。」
「・・・わかりませんが、わかりました。」
「ええ、わからなくて良いですよ。
試作が上手く行ったら見て貰いますから。」
「はぁ・・・わかりました。」
トレーシーが頷くのだった。
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