第1936話 215日目 魔王国一行は帰路に。(ダッフルコートねぇ。)
エルヴィス伯爵邸がある街から東町に向かう街道。
「・・・まぁ挨拶もなくというのは寂しいというか、ちょっと入れ込み過ぎたということなんでしょうね。
・・・ホクホク顔ですね。」
ヴァレーリが隣を行くブリアーニに言う。
「ん~?だって収穫あったしね。
色々買い付けられたし。」
「・・・まぁ、収穫は多かったのは確かですが。」
「ダニエラは心残りがあるの?」
「結局は領地異動の件は言えなかったな・・・と。」
「まぁ言わなくて良かったんじゃない?
デムーロ国をまずはどうにかしないと話が進まないんだし。」
「カールラ、魔王国が負けると思いますか?」
「ん~・・・ま、普通なら無いわね。
私はダニエラが本気で戦っている姿は見た事ないけど・・・御前試合の話は聞いているわよ?
けれど実際にダニエラが戦いでどう凄いのかわからないわ。
でも王軍の実力は知っているし、全5軍が出撃なら間違いなく勝つわ。
でもだからこそ負ける可能性はあると思うの。」
「慢心ですか。」
「最強国家。
それが今の魔王国だからね。
兵士達も慢心してそうじゃない?
むしろしてくれないと弱小国家としてはお付き合いが大変なんだけどね。」
「はぁ?ブリアーニ王国が弱小?
ないない!」
「いや・・・私達は常駐1200名、臨時1500名がやっとなんだけど・・・・
魔王国なんて王軍20000、7地方領総勢21000、オーガ3500体・・・これ最強だよね?」
「その王軍の1つと模擬戦して勝ったそうじゃないですか?
私の時は実施していませんが、文献にありましたよ?」
ヴァレーリが呆れながら言う。
「随分昔の事を・・・
あの時はうちの森の中での訓練でしょう?
勝って当然だと思うんだけど?」
「3大隊3000名を相手取って1200名で勝てるんだから大した物だ。
で・・・何が弱小だって言うのですか?」
「国家の規模的にもね。」
「まぁ・・・国家の大きさという所を見ればアズパール王国にも負けていますがね。」
「でしょう?
だから我が国は弱小なのよ。」
「絶対違うと思いますがね・・・」
シモーナ達はのんびりと帰路についているのだった。
------------------------
ラルフの仕立て屋。
「大変だったみたいですねぇ。」
「・・・なんで他人事なんでしょうか?」
武雄の書類を見ながらの呟きにラルフがジト目で答える。
「ああいった委託うんぬんの話は私の管轄外と思うのですよね。」
「十分に当事者だと思いますが?
まぁ・・・大変でした。
とっても大変でした。」
ラルフからの圧が凄い。
「上手く行ったのでしょう?」
武雄は気にもしていない体で答える。
「まぁ向こうの要求を飲んだ形ではありますが・・・それなりに。」
「なら工場の拡大が出来ますね。」
「はぁ・・・稼いでも稼いでも工場の設備に資金を投入している気がします。」
「まぁ・・・見返りは大きいと思いますけどね?
それで?これ?」
武雄が見ていた書類をあげる。
「はい。
次期トレンチコート案です。」
「ふむ・・・寒さに耐えうる為にフード付きで厚手の生地を使う。
また手袋をしたままでも脱ぎ着が出来るように従来のボタンを止め、紐と長方形の木を使い止めるようにする。
で、デザインも添付されていると。」
武雄の手元の書類をラルフの前に置きながら言う。
「これはダッフルコートですね。」
「ダッフルコートと言うのですね。
そうですか・・・やはりキタミザト様の頭の中にあったのですね。」
ラルフが少し落胆しながら言う。
「新商品おめでとうございます。
これでカタログに載せる商品が増えますね。」
「ふむ・・・キタミザト様、売れますかね?」
「トレンチコートがやっと出回り始めたばかりですし・・・ですが、寒さをもっと防ぐにはと考えてとなると確かにダッフルコートの方が性能はいいですよね。
売れるかはわかりませんよ。」
「そうですか・・・性能が良くても売れない事もありますよね。
どうやって売りますかね・・・」
ラルフが考えながら言う。
「トレンチコートもそうですが、貴族や王都でしょうかね。
あとは・・・まぁ・・・生徒や学生を巻き込むというのも手ですよね。
トレンチコートは兵士用と思われている事を利点に使い、各貴族、各軍が買っているので、それをまだ成人前の子供に買わせるというのは心情的に忌避する可能性はありますよね。
なので、学生専用のコートとして売るのも手ですよね。」
「王都の王立学院と魔法師専門学院ですか・・・
伝手がありませんね。」
「王立学院の学院長は私の同期が内定しています。
魔法師専門学院はうちの研究所の室長のトレーシーさんが前の学院長です。」
「・・・キタミザト様、狙っていましたか?」
「いや、たまたまですよ。
まぁ・・・紹介する伝手はあります。
採用されるかまではわかりません。」
「学生や生徒用にですか・・・ん~・・・色違いを数点送って見ますかね。
一般向けにも売りますし、王家にも売り込みしたいんですよね?」
「王家は私が送っておきますよ。
まぁスミス坊っちゃんやエイミー殿下が着ていれば王立学院内で認知度はあがるでしょうね。」
「両学院で採用されれば定期的にそれなりの数が出るのですよね?」
「採用されればね。」
「ん~・・・やってみるのも良いのかもしれませんね。
キタミザト様、よろしくお願いします。」
「わかりました。
紹介状は書きます。」
武雄が頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




