第1933話 王城に誘導しなくては。(体面が気になるお年頃です。)
夕食後のスミスの部屋。
「というわけです。」
スミスがエルヴィス家の命令書を説明していた。
「ん~・・・それはちょっと多いわね。
いや、もちろん商店が扱う年間総量としては少ないんだろうけど。
この量を一気にかぁ・・・ドネリー、どう思う?
ちょっと普通の問屋を教える訳にはいかなそうよね?」
「説明のあった小麦50000kgを一気に買うとなると・・・ちょっと王都の穀物価格が変動しそうな量ですね。
でも、まぁ納期も短くはなさそうですし・・・そこまでの変動はしないかもしれませんが。」
エイミーとドネリーが考えている。
「・・・」
ジーナはちょっと困っていた。
スミスがやはりというかなんと言うか、夕食後にエイミー達を誘って相談したのだ。
そしてエイミーも真剣に聞いてくれて考えようとしていた。
ジーナはここからどうやって王城に連れて行くかを考え始めていた。
「前回は王城へのライ麦の売り込みでしたけど・・・今回は桁違いの小麦ですよね。
それも買い付けとなると・・・ん~・・・」
スミスもどう動いた方が良いのか考えている。
「ジーナはどう思うの?」
エイミーが聞いてくる。
「ん~・・・そうですねぇ・・・
少しの期間だけとはいっても一領地の買い込みで小麦の価格が変動するというのはちょっと王都としてもエルヴィス家としても噂になって欲しくない事かと思います。
どんなに秘匿しても悪い風に捉える者はいると思いますし、悪い噂程、人々は面白がって広める物だとも思います。」
「うん、確かにそうだね。」
ジーナの言葉にスミスも頷く。
「ですが、スミス様への命令書には小麦を期日までに実家に送る事となっているのでどこからか買わないといけないのですよね・・・
街中の価格変動を引き起こさせない方法でとなると・・・王城と交渉して備蓄を売って貰い。
王城は少なくなった分を市場価格が変わらない程度を分割で買って貰うようにして・・・というのは如何でしょうか。」
「それも1つの手ね。」
エイミーが頷く。
「でも経済局にスミス様は伝手があるのでしょうか?」
ドネリーが首を傾げる。
「王家にはありますよね?」
ジーナが言うとスミスとドネリーがエイミーを見る。
「うぇ!?私!?
ダメよ、私個人の目的なら向こうも会ってくれて話ぐらいは聞いてはくれるだろうけど、スミスを紹介出来るくらい知り合いではないわ。
それに変に肩入れをすると良くない噂が立つかもしれないし・・・」
エイミーが首を振る。
ドネリーとジーナが「今更ですか?」と口には出さないが同じ思いになる。
「今回はエルヴィス家としてスミス様が交渉をなさいます。
ご主人様の伝手を頼って・・・というのも出来ますが、それではエルヴィス家の名が些か落ちる可能性もございます。
スミス様の将来を考えればご主人様の人脈は今は使われない方がよろしいかと。」
ジーナが言う。
「新貴族の伝手を旧来の貴族がというのは勘繰る者達からすれば格好の話題よね。
タケオさんは気にはしないだろうし、タケオさんの伝手となると専売局と外交局辺りは動かせそうだけど・・・まぁこの程度の案件にそこを使うのは勿体ないとも言えるか。」
エイミーが考えながら言う。
「ん~・・・となると、レイラお姉様かな?
お姉様なら実家の実弟という所で相談くらいは乗ってくれるだろうしね。
周りからも変な目を向けられないだろうし。」
スミスが言う。
「スミス様、レイラ殿下に相談も良いとは思いますが、まずは第3皇子一家の相談役であるエリカ様を頼ってみては如何でしょうか。
結果的には第3皇子一家に相談する事になるとは思いますが、いきなり王家に聞きに行くという所は避けて、王家の相談役に知恵を借りるという体でまずはご訪問してみても良いのではないでしょうか。
それだけでも王城内でのスミス様の評価が変わると思います。」
ドネリーが言ってくる。
「それで印象が変わるのかはわからないわよ。
それに私はエリカさんに相談に行ったら隣にレイラお姉様が座っている姿しか思い浮かばないわよ。」
エイミーが呆れながら言う。
「それでもですよ。
エルヴィス家は旧来の貴族ですけど、部下だったキタミザト様があの勢いで自由にしておいでですよ?
王城は自由に歩いていますし、王家とも普通にお茶をしています。
どこぞの誰かにやっかまれていてもおかしくありません。
ご自身に災いが降りかかればキタミザト様は独自に動かれるでしょうけど、この手の輩はそういった強い者への攻撃はしないものです。
そうなると主家の跡取りの悪口程度は流されてもおかしくありませんよ。」
「スミスはあのエルヴィス家の跡取りなんだけどね?
それにそんな微妙な噂を流してどうするのよ?
後々自身の立場を悪くさせるだけでしょう?」
エイミーがドネリーの言い分に呆れている。
「そうならない程度の噂を流すかもしれないでしょう?
王城なんてそういった事は頻発するじゃないですか。」
ドネリーが言う。
「まぁ・・・任命式あたりからぱったりとその類はなくなったけどね。」
「なぜでしょうね?」
「なぜだろうね。」
ドネリーの問いにあっさりとエイミーが答える。
「スミス様、どうしますか?
ドネリー様の案で行きますか?
それともレイラ殿下に直接言いますか?」
ジーナがスミスに聞く。
「そうだね・・・うん、ドネリー殿の言う事が正しい気がするね。
いきなり困ったら王家に聞きに行くという事より、王城内の知恵者としての地位があるエリカ殿に聞きに行った方が体面的には問題なさそうだね。」
「わかりました。
では、私は王城に行ってエリカ殿の予定を聞いてまいります。」
ジーナが頷く。
「連日の王城へのお使いありがとう。」
スミスが言う。
「いえ、昨日はご主人様の用ですし、今日はスミス様の用です。
どちらも仕事です、問題はありません。
では、スミス様、私は仕事をさっさと終わらせてきます。」
「うん、お願いね。」
スミスが頷くのだった。
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