第1915話 皇子一家の日々。(クリナが外食を始める。)
第1皇子一家の屋敷。
クリフの執務室にて。
「ふむ・・・ウスターソース関係の野菜が値上がりしているか。」
クリフが書類を見ながら呟く。
「はい、それよりも少ないとはいえ、肉と野菜の消費量が増えております。」
執事が言う。
「ふむ・・・嬉しい弊害と言えば良いのだろうな。」
「食材の高騰は領民の生活に少なからず痛みを伴ってしまっておりますが、領内全体で見ると嬉しい悲鳴です。
第2皇子一家領、王都よりの増産要請も随時来ておりますし、カトランダ帝国からも輸出実施の依頼が来ております。
そこで・・・こちらが今年の作付けの経済局より立案された増加予定になります。」
執事が新たな書類を出す。
「・・・今年異動でなければな。」
「はい、ですが、王都に異動してもこの地で生産が拡大していけるよう計画を進めております。
また、この地の運営を継承される文官方も出張を良くされており、話合いは順調です。
今の所、問題はございません。」
「そうか・・・うちがこうなのだ・・・国内の東側を担当するエルヴィス伯爵家とキタミザト子爵家も大変だろうな。」
「大変でしょう。
ある意味、あの時キタミザト子爵が東に限定されたのはこういった忙しさや物価上昇を懸念してなのかもしれません。」
「まぁ・・・タケオは確実に売れると判断していたからな。
こうなる未来は想像はしていただろう。
私達がカトランダ帝国に売るように魔王国との繋がりに使うだろうか・・・というより使うか。」
「はい、使うでしょう。
それにキタミザト子爵は料理への理解があります。
我が国では知られていない食べ物を魔王国から輸入するかもしれません。」
「ふむ・・・我らも負けられないか。
まぁカトランダ帝国の料理というのを体験し、独自の料理に作り替えれば良いという事だな。
今回いけないのは残念な限りだ。」
「そこは陛下とニール殿下が調べて来て頂けるでしょう。」
「はぁ・・・そうだな。
カトランダ帝国へ持って行くウスターソースの手配は済んでいるか?」
「はい、事前に頂きました予定通り、生産予定を組んでおります。」
「わかった。
あとは・・・領地異動の文官達の配置転換だな。
ニールとウィリアムの文官同士の連絡会がそろそろ始まるのか?」
「はい、陛下とニール殿下がお越しになる際に同行し、この地で会議が予定されております。
最終的な移動時期とこの地に入る文官達との引継ぎ内容もあるようです。」
「そうか。
滞りなく進むように準備をしよう。
まぁ滞るんだろうけどな。」
「その通りですが、まぁ何か失敗があっての事での異動ではないのです。
そこまで問題はないでしょう。」
執事が頷くのだった。
------------------------
第2皇子一家の屋敷。
客間にて。
「・・・お父さま、これは・・・豆腐の売り上げですよね?」
クリナが書類から顔をあげてニールに聞く。
「うん、そうだ。
どう思う?」
「ん~・・・順調なのでしょうか。
売り上げが落ちたわけではないと思います。」
「そうだな。
一定数が毎週売れているという数字になっている。
だが、これがどういう料理に使われているかの調査もしてはいるのだが・・・
クリナは街中で食べているか?」
「いえ、食べていません。
前にタケオさんに贔屓店を作ると噂が噂を呼んで店のお客さんの入りが変わると言われましたので怖くていけません。」
クリナが言う。
「いや、クリナ、あれは極端よ。
実際は贔屓店作っても問題ないし、軽く挨拶や食事ぐらいしても問題ないわ。」
リネットが麦茶を飲みながら言う。
「でも・・・私の行動でお店の売り上げが変わるのは可哀想ですよ。」
「・・・良いんじゃない?」
リネットが首を傾げながら言う。
「え?」
クリナが驚く。
「だって、クリナはこの領地のお姫様なのよ?
ある程度、我が儘言っても問題ないわ。
まぁ言いすぎるのは問題だけど、今クリナは何も我が儘言っていないし、外食ぐらいした方が良いわよ。
街の領民達もクリナが店に通ったからと言って誰も文句は言わないと思うわ。
街中で食事をする事を拒否する者は居ないと思うし、通ったからと風評を流す者は居ないわよ。」
「外で食べても良いのでしょうか?」
クリナが聞いてくる。
「うむ、護衛は必ず付けて行くんだぞ。」
「朝と晩は一緒に取りましょう。
昼はどこかで食べてくるのが良いんじゃないかな?
本当なら私も行きたいけど、今は屋敷外には行けないしね。
昼なら飲んだくれの者も少ないし、護衛達も問題なく出来るでしょう。」
ニールとリネットは頷く。
「なら明日から昼食は外で取ってこようと思います。」
「ええ、後で私も元同僚達に言っておきますから問題ないとは思いますけど、護衛の者にはちゃんとクリナからも頼みなさいね。」
「はい!わかりました。
・・・で、どこの店から行けばいいのでしょうか?」
クリナが不安そうな顔をさせて言う。
「・・・ん~・・・」
「クリナが感じた所で良いんじゃない?」
「感じた所?・・・わかりません。」
クリナが首を傾げる。
「そうだなぁ・・・近すぎではあるが、屋敷の目の前にある酒場は確か昼もやっていただろう。
まずはそこから行ってみたらどうだ?
そこに豆腐料理があれば食べてくれば良いし、無ければおすすめを食べてくれば良い。」
「あ、そこって・・・」
ニールが勧め、リネットが少し驚いている。
「わかりました。
・・・お父さま、そこは近いから勧めたのですか?」
クリナが聞いてくる。
「いや・・・エイミーが初めて一人で昼食を取った場所だからだ。
まぁ護衛達も密かに居たんだがな。
リネットは居たか?」
「居ましたよ。
あの時のエイミーの顔、思い出しました。
そうですか・・・そう言えば今のクリナと同じ年齢でしたね。
もう5年ですか・・・」
「お姉様が初めて一人で行った店?」
クリナが何か考えながら言う。
「姉と同じなのはクリナにとっては気を悪くするかもしれないが、姉と同じ店から始めるのも悪くはないだろう。
嫌なら他の店でも良いんだが。」
ニールが言う。
「いえ、エイミーお姉様と同じ店から始めます。
私には・・・私にはまだ1人では行けませんからお姉様とは違うかもしれませんが、その店で昼食を取ってきます。」
「うん、頑張ってね。
それに王家の姫が1人で行かれても護衛が困るだけなのよ。
そういえば・・・あの時は非常招集だったなぁ。
何事かと思ったらエイミー殿下が出かけるから先回りしろとか無茶な命令で何軒か皆で散らばって事前に入店して・・・緊張したし、脱力したし・・・クリナ、勝手に一人で出かけないでね?
護衛達大変だから。」
「エイミーお姉様も結構皆に迷惑かけているんですね。」
クリナが苦笑しながら言う。
「エイミーと比べたらクリナの方が大人しいわよ。
まぁ・・・数時間前に言ってくれれば護衛達も準備出来るから唐突に言わない事を心掛けてね。」
「わかりました。」
クリナが頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




