第1912話 213日目 料理をしよう。(・・・ん?それって生魚なんじゃ・・・)
エルヴィス伯爵の食堂。
「お腹空いた・・・」
ボソッとブリアーニが呟く。
「え?朝食は取られなかったのですか?」
アリスが聞き返す。
「いえ・・・今日は米料理をたくさん食べられるからと朝食を少なくしまして・・・」
「えーっと・・・シモーナさんもですか?」
「私は普通に食べました。
多くても問題ないですよ。
私達獣人は多くを食べれますからね。」
「ん~・・・でも準備は朝からしていましたが、出来上がりは昼を過ぎると思うのですよね。
今、お腹が空いてしまうと・・・耐えられるでしょうか・・・」
「お茶を飲んで我慢しています。」
ブリアーニが弱々しく頷くのだった。
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厨房の一角では。
米研ぎが終わり、浸け置き段階で米の講義をしていた。
「キタミザト殿、では、米は基本的に食材を選ばない食品という事なのですか?」
ブリアーニ王国の料理人が聞いてくる。
「ちょっと違いますね。
選ばないというより、相性が良いとした方が良いでしょう。
特に味を濃い目に作れれば、ほとんどの料理は合いますからね。
それは米に限らずパンにも言える事です。
水加減とかを間違えなければ、後は食べる方の好みの問題です。」
武雄が言う。
「さて、米研ぎの段階で魚を入れて炊いたとありましたが、そういう調理方法もあると思いますので基本的に問題はありません。
ですが、生臭かったのではないですか?」
「はい、それと苦みもありまして。
何か良い方法がありますでしょうか。」
「それは入れる魚の下処理が間違っていた事と臭みを軽減させる物を入れなかったからというのが私が考える臭みと苦みが気になってしまった原因ですね。
もしかしたら他にもやり方があるかもしれませんが、それはこれから研鑽が必要です。」
「なるほど、では、キタミザト殿の考える失敗の原因の不手際はなんでしょうか。」
「不手際という訳ではないでしょうが、万人受けするように出来なかったのが失敗というならそうでしょうか。
まぁ結局は内臓を処理しなかったのではないでしょうか?」
「腹の中は綺麗にしましたが?」
「頭は取りましたか?」
「いえ・・・そこですね。」
「確かに魚一匹を丸ごとを調理するのは見栄えが良いですからしたくなるのもわかります。
ですが、炊き込みに使うには苦みと臭みの元である内臓が残ってしまっています。
目とか口とか・・・それに炊き込むなら魚の骨を取らないと食べる際に違和感に繋がります。」
「骨を・・・ですか?
その・・・大量にあるのですが。」
「鍋では魚の切り身に骨がついていた方が煮崩れしませんので残しますし、長時間煮れば良い出汁になります。
ですが、米と一緒にと言われると・・・炊く段階で身が解れてしまった場合、米に混ざり骨がどこに行ったか分からなくなってしまいます。
慣れない方だと口の中に刺さる可能性もあるので出来るだけ骨は取って入れてあげるのが安全策でしょう。」
「なるほど、では内臓と頭、骨を取ってご飯と炊くのが良いというのですね。
あとは多少の臭みを取る為に何か香草を入れると良いという事ですね。」
「ええ、そうすれば美味しく炊けると思います。」
「なるほど、こうなったら皮も剥いでから入れた方が良いでしょうね。
あくまで身のみを入れるという感じで。」
「ええ・・・ん?・・・ちょっと待ってくださいね。
一応、お聞きしたいのですけど、魚の骨と皮を取りましたけど、米と一緒に炊くのに他に魚に何をしますか?」
「そうですね・・・先ほど香草で臭みを取ると言われましたので、先に魚に香草を巻いて臭みが取れるか確認をした方が良いですよね。」
「なるほど、その後は?」
「・・・魚を入れて米を炊きましょうか。」
料理人が言ってくる。
「あ~・・・・説明不足でしたね。
米と一緒に入れる魚は事前に一回焼いてください。
そうする事である程度、臭みが取れますよ。
もちろん処理はしないといけませんが。」
「え?焼くのですか?
炊く・・・これは煮るに似ていると思うのですが。」
「はい、焼いてください。
そして焼いた魚と一緒に炊く方が成功率は高くなります。
生で入れてしまうとどうしても米に臭みが移ってしまいます。
それを防ぐには事前に魚を焼いておいて香草と一緒に炊いた方が良いでしょう。」
「なるほど、これは一度試した方が良いですね。」
「ええ、そうですね。
あとやり方としては先ほどお渡しした本にある通り、出汁を炊き込む際に入れて炊き、炊きあがり後に焼き魚の身を解して混ぜるというやり方もあります。」
「ふむふむ、やり方は基本2通りで、一緒にか後からか・・・失敗の確率の低さを考えれば後者ですが・・・
キタミザト殿、この2つの違いは何でしょうか。」
「香りです。」
「香り・・・」
「一緒に炊くと炊いた物の匂いが米に付きます。
生臭さもそうですけど、かなり強めにつくはずです。
これが後から混ぜる場合はほとんどありません。
紅魚とかを焼いた際の良い香りが米からもするのです。
私としては味付けが難しいですけど一緒に炊き込む方が良い香りがすると思います。」
「なるほど。」
「ですが、先ほどの出汁の炊き込みを用意して、炊きあがり後に焼き魚の解し身を混ぜる方が匂いは少なめですが、納得はしてくれると思います。」
武雄が言う。
「ん~・・・難しいですね。
ですが、多くの方に出すのにも後者の方が良いですね。
均一化が出来そうです。」
料理人が頷くのだった。
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