第1910話 宿に戻った一行はというと。(将棋が昇任試験になってしまう。)
シモーナ達は同行したヴィクターの小言の通り、大人しく宿に入って休む事になっていた。
ヴァレーリとブリアーニは一緒にお茶をしていたのだが。
「ダニエラさん、カールラさん、買って来て貰いましたよ。」
シモーナがヴァレーリの部屋に入って来てそう言う。
「普通に売っているんですね。」
「良かった、これでとりあえず国元でどういう反応がされるのか確認出来ます。」
ヴァレーリとブリアーニがホッとしたような顔をさせる。
シモーナはリバーシと将棋は輸出が今後されるとしても時間がかかるとして個人として1個ずつ欲しいと思い、2人の意向もあったので宿の人に頼んで買いに行って貰っていた。
そして問題なく買って来て貰えていた。
「4個ずつで金額は・・・あ・・・あとで個別に請求書を回しますね。
では、こちらで。
夕食の際に声をかけます。」
「「は~い。」」
シモーナが将棋とリバーシを置いて部屋を出て行く。
「・・・安いかな?高いかな?」
「玩具として作っているのだ、大した金額ではあるまいよ。
それにしてもこんな物を作っていたとはな。」
「なかなかに面白いわね。
似たようなものはあったかな?」
「あるだろう、このリバーシや将棋に比べたら手遊び程度の内容だがな。
しかし・・・我が知っている物でもここまで見通す力を養う物ではないがな。」
「ダニエラ、将棋をどう思う?」
「ん~・・・これを一般の玩具にというのは信じがたいが・・・
軍の幹部連中の必修にはさせられそうだな。」
「必修かぁ、うちは流石にそこまではまださせられないかな。
これ・・・戦場を体現しているわよね。」
「まぁ想定が同じ戦力が相対するという時点はおかしいのだがな。
だが・・・戦争にしろ謀略にしろ相手があってのしろものだ。
相手の考えを読み、こちらが優位に立てるように準備する。
お互いが交互に一駒ずつ動かすという単純さと相手から奪った駒を再度配置させられるという破格のルール。
何を取るか、何を取らせたか・・・戦場では何が起こるかわからない。
いきなり予想外の攻撃があった場合対応も考えないといけない。
そうなると目の前の盤だけでなく、取られた駒がどう使われるのかまで考えるのだ。
軍の中隊長以上は全員必修で小隊長は昇任試験の項目にでもしてやろう。」
「いきなり見知らぬ玩具を持って来て、試験に使うとか・・・試験官の方が可哀想ね。
でも試験に使うとなると25個で足りないわね。
追加で注文?魔王国で複製?」
「・・・注文だな。
同じ物を作るというのは簡単ではあるだろう。
だが、今回こういった玩具が出て来たんだ、今後、また違った形の兵士達に使える玩具が出て来るかもしれない。
その際にいち早く知れる可能性は作っておいて損はないだろう。
それにこれを魔王国で作ろうとしたら各々が勝手に着色して変な物が出来かねん。」
「・・・ドワーフは何かしそうね。」
「ドワーフは・・・その議論は一旦、置いておこう。
要は誰かしら何か言い出すという事だ、兵の駒が飛車ぐらいの性能にしかねない。
そんな事をすれば『性能の良い剣を装備させた』とか『ワイバーンならもっと凄い』とか言い始める事が容易に想像がつく。
だから基本はアズパール王国からの輸入品が正と言って使わせておいて、もし類似品を作るなら作るで勝手にさせておいても、あくまで王城内では将棋が正だ。
魔王国で作った物は亜種としてアズパール王国に輸出するとすれば良いかもしれないがな。」
「・・・売れなそうね。
この将棋って完成度が高いし。
そこまでぶっ飛んだ設定にこの地の者は付いて行けないんじゃない?」
「双方同じ戦力でというのが前提で飛車ばかりあっても使い勝手が良いとは一概には言えないだろうし、そこまで威力の高い物同士を置いても面白いかはわからんな。
まぁ当分はこの将棋を広める事になるだろう。」
「兵士教育かぁ・・・アズパール王国では取り入れているのかしら?」
「あの口ぶりだとほぼ同時という感じなのだろう。
これを使っての兵士教育の有用性は見る者が見れば飛びつくはずだ。
まぁ似たような玩具があるのかもしれないが、少なくともキタミザト殿が作った物はルールも簡単で教えるのも楽だろう。
相手の手を読む訓練としては十分に楽しめる。」
「でも疲れそうね。」
「それは・・・まぁ1日1回が限度だろう。
体も鍛えて頭も鍛えると考えれば問題ない、過度の鍛練は体に毒だからな。」
「そうね・・・でもこれ確実に勝敗がつくわよね。
毎回負ける者も出るんじゃない?
将棋には弱いけど実践には強い者とか居そうだけど。」
「・・・実施する際は昇任試験の際は項目の1つとしておこう。
必ずしも敗者が落ちるという訳ではないとしておかないといけないな。」
「そうね。
まぁそれも手探りなのかもね。」
「あぁ、そうだな。
で、カールラ、料理人との打ち合わせは良いのか?」
「軽く伝えたわよ。
今、おさらいしているんじゃない?
一目散に部屋に閉じこもったし。」
「そうか・・・いきなり明日となるとどう伝えるかの想定は必要だな。
だが・・・緊張はするだろうな。」
「そうね。
あとで様子見に行ってくるわ。」
ブリアーニが頷くのだった。
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