第1901話 残された者達は。(ウスターソースの件は?)
エルヴィス伯爵邸の客間では。
ヴィクター達が出かけ、メイドがお茶とお菓子を出したのを確認しフレデリックも下がり、武雄、エルヴィス爺さん、ヴァレーリ、ブリアーニが客間に残っていた。
「魔王国ヴァレーリ陛下、ブリアーニ王国ブリアーニ女王陛下、この度はお越しいただきありがとうございます。」
エルヴィス爺さんが頭を下げる。
「いや、急に来て申し訳ない。
それとあまり畏まらないで頂きたい。
あくまで私もカールラもお忍びで侍女という肩書きで行動をしているだけだ。」
ヴァレーリがよそ行き用の口調を少し改めて言ってくる。
「はい、私もあくまでお忍びです。
休暇を使っての外遊です、お気になさらないでください。
それに私はカールラ、この子はダニエラですからね。」
ブリアーニも言う。
「はい、わかりました。」
エルヴィス爺さんが頷く。
「で・・・2人して越境までして、この街までどうして来られたのですか?」
武雄が呆れながら言う。
「うん・・・キタミザト殿はもう少し言葉を優しくして欲しいな。
まぁそっちの方が楽ではあるので堅苦しく言われるよりも結構な事なのだが。」
「まぁ、そうですね。
公式の場でもなく、部下も居ませんからね。
口調なんて気にしてはいけませんよね。」
ヴァレーリもブリアーニも気軽に武雄の口調を咎めるというより武雄の言いたい事はわかっているので苦笑しながら言う。
「来るなら来ると言ってくれたら東町でお会いしたのに・・・本当に何でこの街まで来たんですか?」
「キタミザト殿、その言い方だと我らが来るのが億劫だったようだな。」
「報告は聞いていますよ。
事実、キタミザト家の協力工房に押し掛けたそうですね。
そうなるだろうと思った通りにしてくれています。
想像通りに行くのは嬉しいというよりも億劫なのは当然ではないのですか?」
「「うっ・・・」」
ヴァレーリとブリアーニが言葉に詰まる。
「まぁ、タケオ、両陛下はウスターソースを確保したかったのだろう。
シモーナ殿に同行すれば手に入る可能性があったのだ、予定が合えば行きたがるのではないのか?」
エルヴィス爺さんが武雄を窘める。
「・・・まぁそういうものでしょうか・・・」
「キタミザト殿があんな魅力的な商品を我らに持ってくるのが悪い!
焦らすように少数しか出さないなんて・・・我慢が出来るわけないじゃないか!」
「そうですよ!追加で買いたくなります!
そして増産して売ってください!」
ヴァレーリとブリアーニが武雄に文句を言ってくる。
「・・・だ、そうです。」
武雄がエルヴィス爺さんを見る。
「ふむ・・・」
「「??」」
ヴァレーリとブリアーニが武雄がエルヴィス爺さんに聞いたのを不思議そうに見る。
「私はウスターソースの製造、販売に多大な影響力は持っています。
ですが、ソースを作る原材料はこの地で生産されています。
町や村の運営指針を出しているのはエルヴィス家になります。」
「「・・・」」
武雄の説明に2人が口を尖らせているが、黙って聞いている。
「ウスターソース自体の開発をしたのはアズパール王国の西側に位置する領地にあるとある商家です。
そこから私が製造権を買い、アズパール王国の東半分の地域での販売権を得て、ついでに魔王国の輸出事業の統括をしています。
それにそもそもこのウスターソースは領内の食生活の向上の目的で買ってきましたからね。
まずは領内の普及が最優先。
増産傾向にあるのはエルヴィス伯爵に報告はしています。
エルヴィス家では今、原材料の増産計画の立案中なんです。
なので、原材料の増産がなされなければウスターソースの増産もあり得ません。」
武雄が2人に説明する。
「・・・という事は原材料の生産を増やすにしても・・・どんなものが使われているのかは秘密でしょうけど、普通に考えれば食材が出揃うのは秋口、なら今年末ぐらいにならないと輸出は出来ないと?」
ブリアーニが聞いてくる。
「・・・エルヴィス伯爵、確か領外輸出用の原材料の生産計画はまだ先ですよね?」
「うむ・・・領外向けの原材料は3年後に作付けの予定なんだが・・・
まぁそれでも領内分を増やしている最中だからなぁ、多少は回せるとは思う。
具体的にいくつとはまだ言えない段階のふわっとした考えではと言っておこうか。」
「「・・・」」
2人がジト目で武雄を見ている。
「という訳で当面は無理ですね。」
武雄は2人のジト目攻撃を受けても動じずに言い切る。
「店主が月に4樽は何とかすると言ってくれたぞ!
シモーナさんもやる気だ!」
ヴァレーリが言ってくる。
「・・・月4樽・・・ですか。」
武雄が考える。
「何とかなりませんか?
魔王国向けに4樽ですと我が国に1樽も来ない可能性がありまして・・・」
ブリアーニも武雄に言ってくる。
「ん~・・・」
「それにキタミザト殿!中濃ソースというのはなんだ?
知らないソースが販売されていたんだ。」
「あぁ、ウスターソースに手を加えまして、基本は同じ味なのですが用途によってウスターソースとは別の味の方が合う食材もあるでしょう。
なので少数生産品として中濃ソースを作りました。
アズパール王国内の王都にも教えてはいない商品になりますね。
こちらもまだまだ領外に出せませんよ。」
「「えええぇぇぇぇ・・・」」
2人ががっかりとするのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。




