第1879話 211日目 帰って来たぞー。(ちょっと待ちなさい。)
昼過ぎのエルヴィス伯爵邸がある街の裏城門。
「あ~!」
「んんーーっ!予定通りですね。」
ビエラと武雄が馬車を降りて伸びをしている。
「予定通りです。
道中何もありませんでしたしね。」
「夜休めるし、そこまで酷使していませんしね。」
「馬もちゃんと走ってくれましたね。
ビエラ殿もご苦労様です。」
「あ~?あ!」
ビエラが御者台のオールストンに言われて馬に声をかけると馬がビシッと姿勢を正す。
「キタミザト様、お疲れ様です。」
兵士が声をかけてくる。
「はい、お疲れ様です。」
「フレデリック様より伝言が。
『真っ直ぐ帰ってきてください』との事です。」
「・・・うん、何かあったというよりあっている最中でしたよね。」
武雄が考えながら言う。
「詳しい事は我々は知らないのですが、昨日卵のレシピと鶏肉の増産が発表されまして、街中が少し賑わっております。
その関係なのかとも思うのですが。」
「買い付け騒動でも起きましたか?」
「ええ、卵は元々流通自体が少ないのですが、店先から完全になくなっているそうです。
買いそびれた店主達が走り回っていると報告が上がっています。」
「その程度?」
「はい。
店先で新商品が販売になったと看板を出す所もありますが。
私達もまだ食べていないのでどんな商品かはわかりません。」
「それは楽しみが出来たと思って店に行ってください。」
「キタミザト様も行かれますか?」
「まぁ・・・落ち着いたらね。」
「そうですか。
では、お通りください。」
「はい、ご苦労様。
マイヤーさん、行きますよ。」
「はい、わかりました。
出立準備。」
マイヤーがオールストンとブレアに声をかけるのだった。
・・
・
城門を抜けエルヴィス伯爵邸に向かう道を行く武雄達一行。
武雄が街並みを見ながらボーっとしている。
「あれ~?あんな店あったかなぁ・・・は!?ストップ!止まれ!」
武雄が驚きながら大声を出す。
「停止!停止!」
マイヤーが直ぐに連呼すると馬車が止まる。
「所長?」
「すみません、マイヤーさん、ちょっとステノ技研、テイラーさんの店に寄りますよ!」
武雄がそう言いながら馬車を降りて行く。
「??」
「あ~?」
「?」
マイヤーとビエラ、夕霧も続けて降りる。
「オールストンさん、ブレアさん、ちょっとテイラーさんの店に寄るから店先に回して!」
「「了解でーす。」」
そう言い残して武雄がテイラーの魔法具商店に向かうのだった。
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テイラーの魔法具商店のカウンター。
「馬車が過ぎて・・・止まったよ?」
腰に紐が括られているチビテトが窓辺で外を見ながら言う。
「テトが身を乗り出して外を見ているからだろう。
まぁ・・・もうこの辺では我らのような精霊も珍しくないのだろうが、いきなり来た者にとっては珍しいのだ。
迂闊にちっこい状態で窓際に行ってはならないという事だな。」
紐の端を持った人間大のニオが答える。
「他人に見つからないように見ているわよ。
それに見つかっても人形だと思うだろうし。
あ、タケオだ。」
「ほぉ、見つからないように見ているテトに気が付いたのか?」
と。
「テト!大丈夫!?」
武雄が走り込んでくる。
「うん、タケオ、おかえり。」
「うむ、無事そうだな。」
テトとニオが普通に武雄に挨拶する。
「テト・・・良かったぁ・・・なんですか?その紐・・・仁王様、その恰好は・・・」
武雄がニオの格好を見て絶句する。
「タケオぉ、ニオが解放してくれないよぉ。」
「街を破壊する可能性があるテトを野放しに出来るわけなかろう。
タケオ、折角来たんだ、お茶飲むか?紅茶を作ったんだ。」
「・・・いろいろ聞かないといけないですね。
1杯だけ貰いましょうか。
あ、店先に馬車止めますけど良いですかね?」
「うむ、スズネを呼んでこようか。
タケオ・・・ではないな、パナ。」
「はい、何ですか?」
ニオが呼ぶと人間大のパナが実体化する。
「うむ、済まぬがテトが外に出ないように紐の端を持っておいてくれ。」
「??・・・ええ、わかりました。」
「犬じゃないよぉ・・・」
「では、スズネを呼んでこよう。」
ニオが店の奥に引っ込むのだった。
・・
・
「・・・テト、君は何をしたのかな?」
ニオから簡単な説明を受けた武雄がテトに疑惑の目線を送る。
マイヤー達は苦笑している。
「タケオぉ、私何もしてないよぉ。
新しい大剣作っただけだよ~。」
「魔王国からの商隊が来る日に・・・タローマティ殿が来る時に試し斬りとはな。
襲う気満々だから紐を付けたのだ。」
「そんなことしないよ!
いくら何でも襲う訳ないじゃない!
たまたま同じ日になっただけ!」
「あんな物騒な物を作ったのに・・・」
ニオとテトが言い合っている。
「テト、お金足りましたか?」
「タケオから貰ったお小遣いでステノ技研に大剣を発注したの!
予算内にしてくれたよ!」
テトが言う。
「・・・仁王様が危険というなら・・・・テト、改めて聞きますが、どんな仕様ですか?」
「刃こぼれやメンテナンスフリーにするために強化を入れて、打ち合った際や斬った際に刀身の刃の部分から炎が出るようにしてくれて、切れ味も出るように任意で刀身が高速微振動するようにしたの。」
「・・・高速微振動?
それって手術用メスに使うやつじゃ・・・仁王様、これって大丈夫なんですか?」
「タケオもそう思うか。
ちなみに手術用メスを良く知っていたな。」
「医療系のドキュメンタリーで見た記憶があります。
・・・確か、脂が付くと切れ味が悪くなるから微振動を与えて切れ味を維持する・・・とかだったはずです。
メスの使用量が減って作業時間が短縮出来たとかなんとか・・・・」
「うむ、正確には超音波振動の作用によってメスの先端に付着した脂肪分は乳化し、脂肪が刃先に付着せず、切れ味を持続させる機能だな。
同じ機構の廉価版としてプラスチックを切る物があったりする、まぁホビー用とも言うな。」
「大剣で出来る物なのですね。」
「まぁ原理は一緒だからな。
タケオの所では剣はなかったからこれも出来るとは言われていたが・・・
ただ今回は魔法刻印で強制的に再現したようだ。
テトから聞いた限りでは振動数はまだ我々の知る所までは来てない。
だからテトは高速微振動という言い方をしたのだろう。」
「それでも切れ味が凄いというのなら究極の剣の1つになりそうですね。」
「魔力を大量に使うみたいだから人間には難しいと思うぞ。」
「精霊と規格外専用ですか。
なら・・・まぁまだ安全ですかね。」
武雄が少しホッとするのだった。
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