第1866話 旅はどうだった?(陛下、口が滑らかすぎですよ。)
エルヴィス伯爵領の東町の酒場。
ヴァレーリ達は帰路についていたソルミ達3名を合流させ酒場の奥の個室を新たに借りて食事の続きをしつつ、ソルミ達にシモーナに配慮させながらも言える範囲での報告をさせようとしていた。
「シモーナさん、こちらは今回護衛をしてくれている隊長の部下でソルミと言います。」
「ソルミ、こちらはシモーナさん。
ファロン子爵領で対アズパール王国との輸出入業をしている商人です。
今回はシモーナさんが前回米というブリアーニ王国とブリーニ伯爵領で取れる穀物を納入したキタミザト家に訪問するという事で私達も休暇がてら来ています。」
ヴァレーリが紹介する。
「「よろしくお願いします。」」
シモーナとソルミ達が会釈する。
「ちょうど良いので食事の間の話題提供をソルミにお願いしましょうか。
シモーナさんが居ますから、ざっくり旅路を話して貰いましょうかね。」
ヴァレーリがソルミに向かって言う。
「はい、私達はまず魔王国の南にあるデムーロ国より船で隣のアズパール王国の西南にあるウィリプ連合国内の1つであるドローレス国に向かいました。
そこで数日滞在し、北上、ウィリプ連合国の北、アズパール王国の西のカトランダ帝国に行き、その後アズパール王国へと向かい、今に至ります。
陛・・・ダニエラ様、先ほどキタミザト家を訪問すると言っておいででしたが、キタミザト子爵と申される御仁とアズパール王国の王城でお会いしたのですが。
同一人物なのでしょうか?」
ソルミが聞いてくる。
「・・・待て待て待て、あんな人間が何人もいてたまるか・・・いや、失礼しました。
んんっ、ソルミ、キタミザト殿がアズパール王国の王都に居たのですか?」
「はい。
アズパール王国の王都で研修をしている第4軍の者を訪問した際にキタミザト子爵と王都守備隊の総長と名乗る者と会談しました。
ご本人から出張で王都にいると言われております。」
ソルミが緊張した面持ちで報告する。
「ふむ・・・シモーナさん。
お聞きになった通りなのですが。」
ヴァレーリがシモーナを見る。
「はい、キタミザト様が不在の可能性があるのですね。」
「ええ・・・この者達がアズパール王国の王都を立ってすぐにキタミザト殿も出立したなら今戻ってはいると思いますが・・・馬車の可能性もあるし、他の仕事を片付けてから帰路に就くと考えられます。
なので、不在の確率が高いと思います。」
「そうですか・・・今回王城からの依頼の件で金額が高額なので発注書を私が直接お渡ししようと来たのですが・・・不在ですか。」
「でもブリアーニ王国からのシュワシュワな白ワインがあるから納入だけはして帰宅時期の確認をしたらどうですかね?
数日で戻るなら街で観光でもして時間を潰して、時間がかかるなら発注書を置いて戻るという事の方が良いと思いますけど。」
ブリアーニが言ってくる。
「ふむ・・・シモーナさん、カールラの意見はもっともだと思います。
どうされますか?」
ヴァレーリがシモーナに言う。
「そうですね・・・確かにカールラさんの言う事が一番のやり方ですね。
わかりました、このまま向かって納入だけとりあえず済ませてしまいましょう。」
「なら私達もそのように動きますね。
カールラ、問題はないですね?」
「ないわ。」
ヴァレーリの問いかけにカールラが頷く。
「さて・・・今後の行程も確認した所でキタミザト殿とあったのですか?」
「はい、先ほども話しましたが第4軍の者が向こうで研修を受けており、様子を見てきまして、それで・・・その・・・」
ソルミがチラリとシモーナを見る。
「・・・ファロン元伯爵の娘でも居ましたか?」
「「え!?」」
ヴァレーリが言うとソルミとシモーナがヴァレーリを見る。
「シモーナさんには黙っていて申し訳ないとは思いますけど、私達中央も先のファロン伯爵の行方不明についての件で調べはしています。
私も概ねの流れは知っておりますよ。」
「・・・ダニエラさん・・・その・・・」
シモーナが「お家断絶ですか?」とは聞けないので言葉を探している。
「あくまでファロン家の家中の事件です。
事の次第は陛下へ報告し、代替わりを裁可した。
これで中央の判断は終わっています。
真相がどうであれ、魔王国全体に何かある訳ではなく、一貴族の事件として処理が終わっています。」
「そうでしたか・・・それで・・・ジーナは元気でしたでしょうか?」
「え?・・・なぜお名前を・・・というより呼び捨てですか?」
シモーナの問いかけにソルミが不思議がる。
「あ~・・・シモーナさんはですね。
ファロン元伯爵の妹なんですよ、元伯爵の娘は姪にあたりますね。」
「はい、そうです・・・あれ?ダニエラさん、私ダニエラさんに兄さんの事を話しましたか?」
「え?・・・ええ、話しましたよ?
何気にボソッと。
その時は何も思いませんでしたけど。」
ヴァレーリはそう言いつつも「やっべ、タローマティが読み取った情報だった」と反省する。
「そうでしたか。
で、ジーナはどうでしたか?」
シモーナが特に気にせずにソルミに聞く。
「はい、王都でエルヴィス家の次期当主のお付きの仕事をしていると言われていました。」
「そう言えばアズパール王国の王都には学び舎があるという話です。
その次期当主の護衛の任務で王都に居たのでしょうね。」
ソルミの言葉にヴァレーリが追加する。
「そうですか・・・学び舎に・・・良かった。」
シモーナが安堵するのだった。
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