第1844話 職場見学に行こう。2(クラーク議長と雑談。)
王立学院内の学院長室にて武雄達は貴族会議議長 クラーク伯爵と話をしていた。
「ははは!ボールド殿!やっとお決めになったのだな!
嬉しい限りですぞ!」
クラーク議長が楽しそうに言っている。
「いえ、まだすると言う訳ではな」
「さ!こっちの席に着きなさい。
私は横で良いからな。」
クラーク議長が学院長席から立つ。
「いえ・・・まだ・・・」
「良いから良いから!
座り心地を確かめるだけだよ。
物は試しだろう?」
「その席はなった者しか座れないでしょう。」
「あくまでも試しですぞ。
それに一日中とは言わないが長時間座る椅子なのだ。
不快な点があるのなら買い替える必要がある。
特注とは言わないがすぐに代わりが見つかるかもわからぬのだ。
折角、決意をしてなったとしても椅子や机が合わないのではそこからまた時間がかかってしまう。
やる可能性があるのなら一度座って確認が必要だろう。
さぁ!」
「「「・・・」」」
数名が無言で「ボールド殿、それは罠だ!」と目で訴えかけるのだが、伯爵から「来い」と言われたのに2回躊躇している時点でもう後がないのはわかっている。
「クラーク議長、そこに座ったら拘束するような仕掛けとかないですよね?」
武雄が苦笑しながら言う。
「ふ・・・あればとっくに付けておりますよ。」
クラーク議長が悪い顔をさせる。
「いや、そんな機能いらないと思いますよ。
それにまだ任命されるかわからないですよね?」
「キタミザト殿、そこは問題にもならないなぁ。
ボールド殿にやる気があるなら大丈夫、大丈夫。」
クラーク議長が言う。
「・・・さて、今日は王立学院の見学ですが、クラーク議長殿、何処を見て良いのですか?」
武雄が話題を逸らす。
「お好きなようにで構わんよ。
王立学院は貴族達に秘密にするような事は一切ないからな。
全教師達は皆の来訪を知っていないと問題になるので伝えてはいるし、皆の所に行く可能性があるとも言ってある。」
クラーク議長が学院長の席に座りながら言う。
「・・・普段の王立学院を見てボールド殿が決めれば良いと?」
バンクスがクラーク議長に言う。
「これはただの見学じゃない。
今回限りなら良い所しか見せないという手もあるが、学院長になる可能性がある者が見るのだ。
日常を見せないと意味がないだろう。
それで結果的にボールド殿が学院長になってくれるのであれば良いがな。
ダメでも王立学院という所がどんな所なのか新任の貴族が知っている事もまた重要だろう。」
「わかりました。」
「さて・・・アルダーソン殿とボールド殿の息子が居るのが1年の教室。
バンクス殿の息子が2年の教室だな。
あぁ、それと1年の教室にはグレース殿下が、3年の教室にはエイミー殿下が居る。
キタミザト殿の義理の弟が1年だな。」
クラークが言う。
「・・・皆、どれが良い?」
「息子さんを見たいだろうし、1年か2年では?」
「いや、エイミー殿下とグレース殿下を無視するわけにはいかんだろう。」
「だが、息子さんの様子は確認したいというのは親としては当然じゃないか?」
「別にどれかを選ぶのではなくて全部を見れば良いのでは?
どうせ3つでしょう?」
武雄が同期達に言う。
「「「なるほど。」」」
「キタミザト殿、最初はどこに?」
アルダーソンが聞いてくる。
「エイミー殿下でしょう。
殿下は生徒筆頭ですからね、最初に訪問しておくのが無難ではないでしょうか。
訪問と言っても授業中ですから会釈ぐらいすれば良いのではないですか?」
「で、授業風景を見て退出ですか。
1年や2年の教室もですね?」
武雄の提案にボールドが聞いてくる。
「ええ、授業を受けるのが目的ではなく生徒達の雰囲気を見るのが目的でしょう?」
「入ったは良いが出るタイミングが難しそうですね。」
「教室の後ろで立って聞いていて程よい時間が経過したら出て行けば良いのですよ。
時間が長いなら長いで別に問題もないでしょう?
この後予定がある方が居ればパッと見てサッと退出すれば良いのですし。」
「この後予定がある者は・・・居なそうですね。」
武雄の提案を聞き、バンクスが皆の顔を見ながら言う。
「なら、そうしようか。
全教室を覗いてみよう。」
「「ああ。」」
武雄達が頷くのだった。
・・
・
学院長室。
「・・・とは言ったものの・・・教室内に入ったらどの教室も混乱するのだろうなぁ。
それにしても・・・拘束用の仕掛けか何か作った方が面白いのだろうか?
いや、そんなことをすればボールド殿が怒りかねないか。」
武雄達を見送ったクラーク議長は1人お茶をすすりながら新貴族達の戻りを待つのだった。
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3年生の教室前。
「・・・どうだ?」
「真面目な雰囲気ですね。」
「これは入り辛い。
後ろからこっそりと入るか。」
「そうだな。
こっそりとな。」
「・・・音を立てずに入りましょう。」
「はぁ・・・どっちにしてもバレるでしょうけどね。
あ、そうだ。
アルには伝えときましょうかね。」
良い歳の親父共が緊張しながら教室を覗いているのだった。
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