第1823話 旧領主の後継者。6(テーアさん、1階級昇進。)
「まぁ伯爵家一家が奴隷船に乗せられるというジーナの話が本当だと私は思っていますが。
・・・これって普通に事件ですよね?」
武雄がソルミに聞く。
「はい、事件ですね。
私達は担当ではありませんが、第1軍と第4軍が担当しそうではあります。
その調査結果は私達に知らされてはおりませんが、ファロン伯爵家はファロン子爵家に代替わりはしたという事実のみ知っております。」
「そうですか。
ジーナは魔王国に戻って手腕を振るう事はしないと言ってくれていますが、ジーナには首謀者とその動機を知る権利はあるとは思うのですよね。」
「・・・」
ソルミが黙って聞いている。
「他国である私では調べる手立てはありませんけど。
かと言って国内の不祥事を他国の者に教える訳もないんですけどね。」
「キタミザト子爵様は私に事件の真相を調べろと?」
ソルミが聞いてくる。
「・・・いえ、それは依頼したくても出来る事ではないでしょう。
国家として事件の調査がされ、何かしらの結果が出て代替わりが許可された。
この時点で魔王国内では終わった事です。
それを事件に関係のない、調査に関わっていない兵士が調書を閲覧したがる。
・・・他者に『何か含む事があるのでは?』と思われてしまいますよ。
ソルミ殿の経歴をかけてまでして貰うには対価が用意出来ません。
なので調べて貰う必要はありません。
あくまでも個人的にジーナには知る権利があると思っているだけです。
今はまだ熱が冷めてないでしょうからね。
10年、20年くらい経った時に調書か事件の概要説明の請求をしてみるというのも手であるとは思っています。
むろん、無料でとはいかないでしょうからね。
何かしらの対価を用意してという感じでしょうけども。」
タケオが言う。
「キタミザト子爵様、それを私に言うという事は何かあるのですか?」
「どんな書類にも閲覧権限があります。
地方領の事件という所で考えれば・・・20年後くらい経てばある程度の階級の者が見れると思います。
ソルミ殿、その時に大隊長になっていませんかね?
大隊長であれば各軍の幹部ですし閲覧出来ると思うんですよ。
概要を写すというのは出来るのではないですか?」
「それは・・・まぁ私も含めて私の部下達で出世をしたくないという者はおりません。
それにしても大隊長ですか・・・なかなかに厳しい条件ですね。
ですが、キタミザト子爵様から請求があった際に対応出来るような地位を目指すとは言っておきます。」
「ええ、その程度で良いです。
私も請求するとは今の時点では言っていますが、20年後に実施するかはわからないですしね。
その時に聞ける相手が居れば良いなぁ程度の提案です。」
「そうですか。
まぁその時まで私も精進しておきます。」
ソルミが頷く。
「さてと・・・テーアさんと話をして貰いましょうか。
テーアさん。」
武雄がテーアに声をかける。
「はい。
元第4軍 第1大隊 第2中隊 先行偵察隊 第3小隊所属 テーア・コンカートであります。」
テーアが席を立ってソルミ達に敬礼をしながら言う。
ソルミ達も席を立ち敬礼をする。
「軍令に従い、所属は違えど伝達を行うものとする。
第4軍指揮官殿よりテーア班長にはアズパール王国での25年の長期間国家間技術研修を修了し、成果を出すようにとの命令書が出ている。
こちらが第4軍よりの命令書になる。」
ソルミが一緒に来た部下に書類を渡すと部下がテーアの前に書類を置く。
「・・・班長?・・・でありますか?」
テーアが首は捻っては居ないが十分に怪しみながら聞き返してくる。
「ああ、テーア班長、まずは座ろう。
まず第4軍現地補佐官殿よりこのような状況に置いてしまって申し訳ないと謝罪されていた。
『生きてて良かった』と呟かれておいでだった。
今回、キタミザト殿が陛・・・はぁ・・・ダニエラ殿に伝達した内容にテーア班長の経緯が書かれていた。
その内容が陛下の耳にも入り、他国の軍隊経験が出来るのも貴重な経験になるだろうと発言されてな。
急遽アズパール王国への研修中という名分を作ったという所だ。
そして陛下は『1人で頑張るのだからと1階級昇進させろ』との厳命が下され実施されている。
ご家族にもアズパール王国への長期出張をしていると報告されているので安心してくれ。」
「はぁ・・・私が班長でアズパール王国に研修ですか・・・」
「あぁ、先行偵察隊は免じられ、1階級昇進とし特務隊所属の班長という辞令が出ている。
また研修中であっても給与は出ているので魔王国の方で積み立てをしているので、25年の研修が終了し、そのまま4軍を辞するのなら申請を行ってくれとの事だ。」
ソルミがテーアに言う。
「?・・・総長、これどうなんです?
給料二重取りですか?」
武雄が王都守備隊総長に聞く。
「・・・聞かなかった事にしましょう。
魔王国から我が国に研修の受け入れを要請された訳でもありませんし。
魔王国の第2軍の者と名乗る者がそう言っているだけですので、確証はありません。
私達としてはあくまでウィリプ連合国から腕の立つ者を雇用したに過ぎませんからね。」
総長が諦めた顔をさせて言ってくる。
「なるほど、確証がないからこの場では同郷の者が戯言を言っているだけという事ですか。
テーアさん、その命令書は実家にでも送って貰ってください。
受け取ってはいけません。」
「わかりました。
中隊長殿、すみませんが・・・」
テーアが立ち上がり、命令書をソルミの前に戻す。
「わかりました。
実家は少し不用心ですので、テーア班長の居た兵舎内の私物に放り込んでおきます。」
ソルミがそう言って命令書を懐にしまうのだった。
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