第1818話 旧領主の後継者。1(ジーナには心配事がいっぱいある。)
「ふぅ・・・」
ジーナが武雄とスミス、夕霧と歩きながらため息をつく。
「タケオ様。
このタイミングで・・・というのは良いのでしょうか?」
スミスが武雄に聞く。
「総長からの許可は得ましたよ。
なら問題はないのでしょう。」
「それはそうですが・・・上手く行けば良いのですけど。」
スミスが少し考えながら頷く。
武雄達は昼食を終え、レイラ達と打ち合わせをしたのちに王都守備隊の第八兵舎にて総長と軽く話し合いをしていた。
議題は「ウィリプ連合国から買ってきたエットレとファビオの2名の獣人とジーナとの面会について」なのだが、王都守備隊の方でも準備を始めており、ジーナとの打ち合わせに臨もうとしていたそうで武雄から言ってきた事についてはあまり驚いてはいなかった。
急遽用意された会議室に武雄達は向かっている。
「ご主人様、たぶんですが・・・ご迷惑をかけると思います。」
ジーナが言ってくる。
「ジーナもヴィクターも私が買いましたし、あの2人も私が買ったんです。
そのぐらいの面倒は見ますよ。」
「はい、ありがとうございます。
はぁ・・・」
ジーナは気が進まないのか、ため息を多くしている。
「ジーナ、気分が悪いならやめた方が良いのではないですか?」
スミスが聞いてくる。
「いえ、スミス様、いつかはしなくてはいけないとは思っていたのが今日になったのです。
急ではありますが、問題はありません。
ありませんが・・・あの2人がどう動くかが・・・はぁ・・・」
ジーナがまたため息をつく。
「ジーナは今の生活で・・・まぁ多少は不便を強いてしまっていますけど・・・大丈夫ですよね?」
スミスが心配そうにジーナを見る。
「はい、スミス様。
私もお父さまもご主人様に仕えられて幸せに思っております。
今の生活に何も問題はありません。
ご主人様がいらないと言うその日まで私はキタミザト家の使用人です。」
ジーナがしっかりと言ってくる。
「ふふ、ジーナをいらないなんて言うわけないでしょう?
こんなに可愛くて、気が利いて、努力家の部下を放逐するなんてどれだけ人材が豊富なんですかね。
それにジーナをキタミザト家が放逐なんかしたら争奪戦になりそうですね。」
武雄が苦笑して言ってくる。
「過分な評価のように思いますが。」
「ジーナはそう思っておいて良いですよ。
自身の能力を磨き、それなりに勉強もしているようです。
慢心はいけませんからね。」
「はい、ご主人様。」
ジーナが頷く。
「タケオ様、ジーナの争奪戦はどこでしょうか?」
「王家とエルヴィス家とゴドウィン家でしょうね。
ジーナを知っていますからね。
他の貴族は王家が来た時点で辞退するでしょうけど。」
「エルヴィス家とジェシーお姉様ですか。
王家は第1皇子一家と第2皇子一家はそこまで言いますかね?」
「アン殿下とクリナ殿下がジーナを欲しがっていましたしね。
まぁ今はどうかはわかりませんけどね。
あとはレイラさんは『いつでも来て良いよ』と気軽に言いそうですけどね。」
「・・・僕達姉弟で奪い合いですか。
僕は負けそうです。」
スミスは想像上でも姉達に敵わないと悟る。
「まぁ、そもそも私がヴィクターとジーナを手放す気はないですけどね。
アリスだってそんな気すらないでしょうね。
それに今、2人が抜けたらキタミザト家崩壊です。
財務関係がガタガタになります。」
「それに関しては半分以上はご主人様が自由に契約をされるせいかと。」
ジーナが武雄の言葉にボソッと言う。
「ん~・・・そう言われてもそれが今に繋がっているからなぁ・・・
今後も契約をする可能性は高いんですよね。」
「その際の対応は抜かりなくしますが、苦言は言わせていただきます。
それを許容して頂けるのでしたら大した問題ではないかと思います。」
「私に直接言うだけならいくらでも聞いてあげますよ。
今後は出来るだけ事前に相談はするという方向である程度、不満を飲み込んでくれますか?」
「不満はございませんが、事前相談なくされてしまうと余計な仕事が増える可能性があります。
ご主人様の場合、それが同時に数件重なってもおかしくありません。
今の人員で即時対応するのも限界が来るであろうという小言を毎回申し上げる事になるかと。」
「人員増強に関しては現在教育中の者から選抜させる事になるでしょう。
ヴィクターとジーナには指導者の役割も担って貰う事になるでしょうね。」
「畏まりました。
人員増強の目途があるのでしたらご主人様の契約等の独断専行も対応出来ると思われます。」
ジーナが答える。
「タケオ様、追加の人員がくるまではするなですって。」
スミスが言ってくる。
「わかっているつもりなんですけど・・・ついね。
目の前に面し・・・商機が無造作に転がっているとついつい手に取りたくなるんですよね。」
「ご主人様、『つい』でお父さまやアスセナ殿が疲弊しては意味がありません。
商機というのはわかりますが、ある程度時間的な猶予を作ってください。」
「はーい。」
「はぁ・・・そうは言ってもご主人様の事です。
キタミザト家としての十分な実入りを持って帰ってきて『あとよろしく』と言うのはわかっております。
早く人材が育つように私達も頑張らないといけないんですね。」
ジーナが諦めながら言う。
「ジーナ、頼りにしていますよ。」
「ご主人様のやりたい事を実現させる為に私達が居るのですけど、少しは私達の事を見ないと倒れちゃいますからね?
前にも言いましたが、アスセナ殿が本格的に経理業務が出来るようになってからでないと新しい事はダメですからね。」
「わかっていますよ。」
武雄がにこやかにジーナに言うがジーナは「あ、なにか企んでいる」とその笑顔から予測するのだった。
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