第1817話 留守番組は。3(研究室とキタミザト家の総務部。)
研究所の2階 研究室。
「ん~・・・」
「・・・」
カリカリカリ・・・
室内ではトレーシーの唸りと初雪の作図音が聞こえるのみで静かな時間が過ぎている。
「はぁ・・・宿題がわからんなぁ・・・
スズネさんは打ち合わせか。
あ、いつのまにか昼も過ぎている。
なら1階に行って何か頼むか。」
トレーシーが自分の仕切られた個室から出て来る。
「初雪殿、下に食事行ってきます。」
トレーシーが初雪の個室に顔を出してそう言う。
「わかりました。
帰りに残飯お願いします。」
初雪が手を止めずに返事をする。
「はい。」
といつものやり取りをしてトレーシーが研究室を出て行く。
・・
・
「はぁ・・・お邪魔します。」
トレーシーが建物内からの扉を開けて喫茶店に入ってくる。
「いらっしゃいませ。
室長さん、お疲れ様です。」
ヒルダがそう言ってトレーシーを出迎える。
「こんにちは、ヒルダさん。
えーっと・・・ランチは?」
「すみません、今日の分は完売しました。」
「そうですか。
簡単に出来る物で良いので作ってください。」
「わかりました。
料理人におまかせランチですね。」
「それでお願いします。」
「はい、お席は自由です。
では。」
ヒルダが料理人に注文を言いに行く。
ちなみ『料理人おまかせランチ』とは今ある余りもので何か作ってくれるという賄いに近いメニューで
、とある試験小隊員がランチ時間を超えて来店し、ランチを所望したがなく「余りもので良いです」としょんぼりと拗ねながら言ったのがきっかけで考案された秘密メニューだったりする。
内容は本当に朝メニューと昼のランチで余った食材を使って提供されているランチなのだが。
ただし普通のランチよりもボリュームがあるのである意味、試験小隊の若手がお腹が減った時に食べていたりする。
価格は食券1枚でOKというリーズナブルな料理が存在していた。
「ふぅ・・・」
トレーシーは窓際の席に腰を下ろしボーっとしている。
トレーシーが来たこの時間はランチ時間を少しオーバーしており、食券は使えるがほぼ完売している時間帯だった。
トレーシーと同じようにこの時間に入ってくる客もいるようで同じようにランチにありつけなくメニューを見て注文をしている者がちらほらといる。
「こういう所で何かヒントがあるんだろうねぇ。」
そう呟くも何も浮かんでこない。
と数人が昼食を終えたのか出て行く。
と意外と大きな音をさせて扉が閉まる。
「・・・音か・・・ゴムで扉が閉まる音とか少なく出来るだろうか・・・
硬度が70°で固いんだっけ・・・ん~・・・固いと音が出てしまうよなぁ。
スズネさんは靴底に使う案と中敷きに入れる案を作っていたか。」
「室長さん、お待ちどうさまです。
料理人におまかせランチです。」
ヒルダが料理を持ってくる。
「ありがとうございます。」
「おっと。」
料理を置いた際に先に置いたコップを落としそうになるが、ヒルダは体で落下を防ぐ。
「では、ごゆっくり。」
ヒルダが空いている机に向かって机や椅子を拭いているが、石畳だからだろうか、ヒルダの体が触れる度に机が動いてしまっていた。
「・・・コップ・・・机・・・動く。
ふむ・・・板状のままだとそこまで動きが止められないか。
なら格子状の物とかを作れば動かなくなるんじゃないか?」
トレーシーがゴムの提案内容を閃くのだった。
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研究所の3階 総務部。
「ふむ・・・アスセナ、少し溜まっていますね。」
「はい・・・キタミザト様の決済処理待ちです。
皆さんもキタミザト様が居ないというのはお分かりなのでお支払いを待って貰ってはおります・・・が。
毎回は些か不審がられるかもしれません。」
「王都への出張は定期的にあるでしょうし、近々では魔王国からの小麦の輸出時に同行するようですからね。
決済書類がまた溜まりますね。」
「ん~・・・魔王国へというと1か月ぐらいは空けると考えないといけないですよね。」
「そうなりますね。
それに主が何の成果もなく戻って来るはずもないでしょう。」
「本格的に魔王国と輸出入をするという事ですね。
一応、こちらからは今回の穀物、ウスターソース、ウォルトウィスキー・・・食物ですか。」
「ふむ・・・魔王国からも今のところ米ですが、エルヴィス領やアズパール王国にとって有益な物があれば食品だろうが鋼材であろうが輸入するでしょう。」
「ヴィクター様、魔王国にあってアズパール王国に無い物はどんな物でしょうか。」
「さて・・・私も一領地を預かってはおりましたが、主要な食料は領内で賄えましたからね。
日用品やワインのような客に出す物、武具や馬といった物を王都で買っては来ていましたが、そこまで拘ってはいませんでしたね。
詳しくは存じません。」
「あまり買わなかったのですか?」
「騎士組用の武具と馬、書類作成の為の紙とか筆記具がほとんどで、王都に行って干物やら穀物を売るのはその為の資金調達でしたからね。
調度品も今ある物で事足りていましたし・・・」
「衣服とかはどうですか?」
「ん~・・・事務組で作ったり、王都で買ってはいたでしょうが、私達統治組は街中で販売される物を買っていたに過ぎませんね。
何を買っていたのかまでは確認していません。」
「そうなのですね。」
アスセナが頷く。
「魔王国の王都に行った際に初見の主が何を見つけるのかは私でもわかりかねます。
むしろある意味で楽しみではありますね。」
「キタミザト様が買ってくるなら十分に領内、国内共に売れる可能性がありますね。」
「まぁそれで儲けなければ、子供達や私達の給与が上がらない可能性があると認識でやっていくしかないでしょう。」
「そうですね。
今の給与でも貰いすぎのような気がしますが、そういった気持ちが大事ですよね。
それでヴィクター様、決済のやり方は何か作りますか?」
「ふむ・・・そこまではまだ必要はないでしょうが、将来的には必要でしょう。
アスセナの方で素案を作りましょうか。
ゆっくりと時間をかけて完成させる事にしましょう。」
「はい、わかりました。」
アスセナが頷くのだった。
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