第1809話 スミスの性教育。4(そう言えば前にダメな見本が居たよね。)
「タケオ様、『自己の探索』、『自己の形成』は何ですか?」
スミスが聞いてくる。
「自分とは何かという問いをずっと考える期間と自分は自分だと開き直る期間ですね。
たぶんこの時が子育てとしては一番大変なんだろうとは思っています。」
「そうなのですか?」
スミスが聞いてくる。
「ええ、自己の探索というのは、今の自分の立ち位置を認識する事です。」
「タケオ様、わかりません。」
スミスが正直に言ってくる。
「うん、その素直さは尊いです。
さて、どういうことかと言えば今までは反抗期になる前の『私』は家の中で一番下の階層に居たわけです。
親に知識を与えられ、行動を指示されていました。
『私』もそれで良いと思って言われた通りに学び、実践してきたという段階ですね。」
「はい、そこに反抗期がくるのですね?」
「そうです。
これはどういうことかというと『私』が初めて街に出かけるような事なのです。
初めて見る街の中には年齢も種族も身なりもしゃべり方もやっている事も今まで家の中では見なかった人達が居ます。
そしてその人たちは『私』を見て恭しく話しかけたり、高圧的に話しかけたりする訳です。
スミス坊ちゃん、その時『私』はどう思うと思いますか?」
「・・・混乱・・・すると思います。」
スミスが考えながら言う。
「そう、混乱です。
もう少し言葉を足すと『いきなり他人から評価を受け、戸惑ってしまう』という事になりますね。
ですが、『私』は今まで家の中で教育を受けていたので、相手の言う事の意味を考える力が養われています。
この時、相手からの評価を受けて『私』は何なのかを確認する事が出来ます。
これが自己の探索の基本です。」
「相手からの評価を受けて自分を知るという事なんですね。」
スミスが頷く。
「ええ、そうですね。
ですが、これが大変なんですよ。
スミス坊ちゃん、『私』が何者なのかを『私』が周囲の状況を見て確認したとしますよね。」
「はい。」
「『私』が確認した立場が世間一般での認識に沿っているかというのは誰が確認してあげるのですか?」
「それは・・・帰って来た家に居る親とかではないのですか?」
「スミス坊ちゃん、『私』は『既存への反発』中ですよ?」
「あ・・・親と話せない・・・誰も確認出来ない?
タケオ様、これは大丈夫なのでしょうか?」
「普通に考えて、世間一般での認識に沿っている事が正しい認識と社会の中ではなります。
その正しい認識になっているのなら問題はありません。
スミス坊ちゃん、どうやって正しい認識になっているか確認しますか?
『私』は親とは現在口を聞きたくないですし、親や大人に説明されるのを嫌っていますよ。」
「んー・・・んー・・・」
スミスが悩む。
「・・・」
武雄は急かさずにスミスが答えを見つけるのを待つ。
「あ、同級生とかどうですか?」
「うん、それも1つですね。
同級生だとちょっと狭いので近い年齢の兄弟姉妹も含めましょうか。
近い年齢の者達に相談し、『私』が確認した事が世間と乖離していない事を確認する事によって自分の立ち位置がわかるという時期なのです。
スミス坊ちゃん、わかりましたか?」
「わかったようなわからないような・・・です。」
「ここで重要なのは『私』が確認した事を『私』のみで納得せずに、他人にしっかりと相談し、言われた指摘を真摯に受け止めるという行動が必要という事なんです。
そうする事で自分の認識が世間とズレていた場合は修正し、正しい認識を持って『私』を認識できるのです。」
「あれ?・・・ここでも話合いなのですか?」
「はい、そうですよ。」
スミスの疑問に武雄が頷く。
「この時期は大人や同級生、兄弟姉妹との話合いが圧倒的に少ない事が原因で自己の認識が偏ってしまうという事があります。
これを上手く乗り切るには少し苦しいかもしれませんが、家族や友人と良く話し合う事が肝要です。
心を落ち着かせて日々を送ってくださいね。」
「はぁ・・・」
「特にさっき話した中にあった『相手からの評価』ですが・・・もっと偏った認識をすると『自分を基準に他人を評価する』を始めてしまいます。」
「え?それは違いすぎませんか?」
スミスが聞いてくる。
「違いますが、この時期の考え方を大別するとこの2つにしかならないんですよね・・・なぜなのかはわかりません。
さて、一例をあげると『試験で私より彼の方が良い点を取った』という状況下において、正しい認識で物を見ている『私』だった場合は、『彼は私より多くの時間を使って勉強をしたのだろう、私は次の試験では彼のように良い点を取る為にもっと努力しよう』となります。
では、次に自分基準で他人を評価した場合は」
「タケオ様、嫌な感じがするのですけど。」
スミスが何かを感じたのだろう口を挟んでくる。
だが、武雄は話を終わらせる気はない。
「ふふ。
自分基準で他人を評価した場合は、『なんでこんなに努力したのに彼に負けたのか、きっと何か疾しい事をしたに違いない、なんて卑怯な事をしたんだ』と考えるでしょうね。」
「ええええ・・・タケオ様、それってどうなのですか?」
「スミス坊ちゃん、自分基準で物を見る者は『自分を真ん中に置いて周りを見る』ではなく『自分を最上位に置いて周りを見る』のです。
これがいじめや差別、侮辱に繋がるんです。
彼は私よりも勉強が出来ないから、私よりも不細工だから、私よりも幼稚な言動をするから、私よりもお金を持ってないから、私よりも家が貧しいから、私よりも家の格が低いから・・・どれだけ上から目線なのでしょうね?
あぁそう言えば、私が王都に初めて来た際にそんな感じの子供に絡まれましたか。
少なくとも全くの私の妄想ではなく、実在する考え方だという事は認識しましょうね。」
武雄が笑顔でそんな事を言うのだが、アルマとレイラは乾いた笑いしか出来ないのであった。
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