第1802話 202日目 同期会。2(ボールドをそそのかそう。)
「それと・・・クラーク議長と話をしていて聞かされたのですが、ボールド殿、王立学院の学院長の要請が来ているんですってね?」
武雄がボールドに聞く。
ブフォアっ!
ボールドが思い切り酒を吹く。
「「キャーー!」」
「「わぁぁぁ!!」」
女性陣と同期2人にかかり慌てている。
「ゴッゴホッ・・・すみません・・・キタミザト殿、なぜそれを?」
ボールドが咳き込みながら武雄に聞き返す。
他の皆が「それは知らないなぁ」と話に耳を傾ける。
「話をしていて、『老体には厳しいから早く学院長代理を辞めたい』と愚痴られましてね。
『私はボールド殿が良いのですが本人が拒否している』と言っていましたよ。
そんなにしたくないのですか?」
武雄が聞く。
「誤解を覚悟で言いますが・・・私は魔法師専門学院の出身です、あそこは簡単に言えば軍の幹部を目指す集団です。
そして王立学院は文官の幹部を目指すと考えて差し障りはないでしょう。
そもそもの目指す所が違うのです。
なので、王立学院出身でない者が学院長では生徒や親御さん達から何を言われるか・・・私だけならまだ平気ですが、王立学院の名声も下がってしまうのではないかと・・・」
ボールドが苦々しく言う。
「ふむ・・・わからなくもないですが・・・
私は王立学院も出ていませんし、魔法師専門学院も出ていない、地方領で騎士団でも文官トップでもないんですけどね。
そんな私は王立の研究所の所長で子爵です。
ボールド殿は私の事はどう思っています?」
武雄が考えながら聞いてくる。
「私が出身に拘る事はありませんよ。
出身が気になるのであるのならこの場には来ていないでしょう。
それにキタミザト殿が私達全員の前で言ったではないですか。
『貴族会議だろうが領地持ちだろうが研究所だろうが、この場にいるのは実力者のみ』と。
ここには居ないバビントン殿も含め、私達7名は分野は違えど当代の実力者・・・私もそう思っています。」
ボールドの答えに他の面々も頷く。
「なら、それで良いのではないですか?」
武雄がにこやかに言うとボールドはいつの間にか下を見ていたのか顔を上げる。
「私達は各々の能力で持って推薦を勝ち取ったのです。
運?コネ?・・・それも含めて実力なのです。
ここに他の者が何か口を挟む事出来ないでしょう。
言いたいなら言わせれば良い、そういう者は往々にして学力はあっても能力も運もコネもないのです。
そして『相手を見て自分の評価をする』のです。
私達の職種では相手の能力と自分を比べる事に個人としての意味はありません。
私とアルダーソン殿は同じ研究所の所長という立場ですが、少なくとも私にとってはアルダーソン殿と私を比べる意味がありません。
私達の仕事は研究所の部下達のやる気を引き出し、情報と資材を与え仕事をさせ、国防の礎を築く事にあります。
極端に言えば、研究所はこの一点のみを目標にします。
他部署は一研と二研での成果物の出来を比べどちらが優秀かを計るかもしれませんが、一研と二研は見ている方向が違います。
私からすれば一研の研究成果がどうであろうとも私は私の信念において二研の研究をしていく限りですよ。
それに一研の研究成果が二研でも使えるなら取り込むし、一研で二研の研究成果が使えるなら使って貰うでしょう。
私からすれば一研は競争相手ではなく、補完部署です。」
「そうだな、キタミザト殿の言う通り、俺ら一研も二研を競争相手とは思っていない。
切磋琢磨する関係かもしれんが、研究所間で情報のやり取りはするだろう。」
アルダーソンが言ってくる。
「それにボールド殿、たぶん魔王国側出身だからというのもあると思いますよ。」
「?」
ボールドが首を傾げる。
「ジーナとジッロさんですよ。
王立学院にしろ魔法師専門学院にしろ、異種族入学をさせたがっていますよね。
古くからの体質の者は出身だけでなく種族でも差をつけかねません。
エルヴィス伯爵領とゴドウィン伯爵領は比較的異種族が多い地域です。
なので、王城の上の方ではボールド殿は能力至上主義の意味がわかっていると思っているのではないですか?」
武雄が言ってくる。
「キタミザト殿、それは・・・西側出身の貴族では異種族への偏見があるという事ですか?」
西側出身の同期が聞いてくる。
「ははは、そこは無いと本人達に聞けば言うでしょう。
当たり前ですよね。
アズパール王国は人間種であろうと異種族であろうと法を順守し納税をきちんと行う事で国民として認めているのですから。
ですが、西側はほぼ人間種が治めている土地柄なんです。
本当に無意識下でも異種族に偏見が無いと言い切れる人は居ないのではないですか?」
「それは・・・」
「今、求められている王立学院の学院長の資質とは、今後入ってくるであろう獣人やエルフ達を人間種と同等に扱える事にあると思っています。
種族的な能力が元々あるからと持ち上げ過ぎず、異種族だからと見下さない。
生徒として平等に接し、能力が高ければ褒め、低ければ努力を促す。
そんな学院長が望まれるのです。
魔法師専門学院や騎士団で仲間と苦楽を共にし、励まし合い時には能力の向上で競い合った経験を持ち、街中にも異種族が居る土地で過ごしてきたボールド殿は上から見たら条件に合った人材という事なんだと思います。」
「「「「なるほど。」」」」
武雄の説明にボールド以外の4人が頷く。
「もう一度、しっかりと考えてみる事をお勧めします。
他者からの他部門出身だからとかの声に怯えず、今、王城は王立学院に何を求めているのか。
ボールド殿を就任させ何をさせたいのか。
助力が必要ならここに3名程、王都に常駐している仲間がいるのです。
学院長権限で副学院長なり外部相談員なり臨時で雇ってしまえば良いんですよ。
臨時収入も増えているらしいので王立系の仕事も熟してくれるでしょう。
ね、アルダーソン殿。」
「ええ、全くだ。
俺とキタミザト殿は誠に残念だが、地方領での研究に励まないといけない。
王都に居る全員がボールド殿の補佐をしながら王立系の仕事をしてくれるというのは心強いな。」
「「「こっちに振るのかぁ・・・」」」
「わかりました、しっかりと考えさせて貰います。」
ボールドが頷くのだった。
ここまで読んでくださりありがとうございます。




